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『苦役列車』(西村賢太)

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僕は芥川賞と直木賞の違いも理解していない小説オンチなのだが、薦められて芥川賞作品だという『苦役列車』を読んだら、久しぶりに最後まで読めた。だいたい小説モノの8割は最初の100頁までに挫折するので、極めて珍しい。

そもそも「事実は小説より奇なり」で、ノンフィクションのほうが面白いから、小説はダメだと思っていて、普段からほぼ読まない。夏目漱石や芥川龍之介の作品も未だに面白いとか価値があると思ったためしがない。一言でいうと退屈。

なのに、なぜ最後まで読めたのか。インタビュー記事を見て、なるほど、と思った。

 『苦役列車』は9割以上が本当の話です。ただ、実際はちょっと違いますが、この状況だったらこうするだろうなというところだけはフィクションとして入れています。貫多と一緒に日雇いのアルバイトをしている日下部は、実際にはあのままの姿かたちでは存在していません。何人かのキャラクターを寄せ集めてできたほぼ架空の人物です。

著者は中卒で、父親が性犯罪逮捕歴があり、著者自身も暴行傷害事件で二度逮捕歴があるという、幻冬舎・見城氏がいかにも好きそうなタイプ。それでも自身の「世間的に負」なプロフィールを作品中でも、まったく隠さない。

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メモ入れは9箇所

こういう、ウソをつかない正直なキャラは好感を持てる。本作品は、荒唐無稽な話では全くなく、事実の寄せ集めなのだった。世の小説のほとんどは、「それはない、起こりえないな」「ロジックが通ってない」→「実世界では何の足しにもならない、つまらない」で終了なのだが、本作品は9割以上事実の「私小説」ということで、圧倒的なリアリティーがあった。

主人公・貫多と、対照的な立場の「日下部」がメインキャストなのだが、登場人物が4人も5人も出てくるとうざいから1人にまとめて日下部という人物にしているわけで、これは小説ならではの利点だと思う。ノンフィクションは一切の創作を許されない世界だが、小説では、著者が伝えたいメッセージを表現するための最短距離で、物語を作れるのだ。

この本では、「それはねーだろ」と突っ込むところが、1つもない。ああ、そうなんだろうな、と納得させられることしきりだった。ノンフィクションが好きな人にお勧め。

特徴をまとめると、以下。

①タイトルが抜群。『深夜特急』もそうだが、いい作品はタイトルもシンプルでいい。苦役列車ね、確かに、なるほど、って感じ。

②港湾労働者の実態を描いたジャーナリズム的な価値。『自動車絶望工場』のような潜入ルポ的な面白さがある。

③小説ならではの深い心象表現。表現やたとえがうまくて、そういうところが印象に残る。主人公(著者)の偽らざる心の深いところが描かれてる。

④登場人物が少なく、行動範囲が狭いのがいい。長編小説でありがちな「その人、どこの誰だっけ」問題が読んでいて発生しない。出てくる具体的な地名がみんなイメージできる都内なのもいい。

⑤難点は、文体が明治時代なところ。昔の本読みすぎだろ、国語の時間かよ、 オマエいつの時代の人間だよ、ってずっと思ってた。

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