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『手紙』(東野圭吾)

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朝9時の開店と同時に喫茶店で本を読み始め、読みふけっていたら、夜20時半の閉店まで居座ってしまった。本屋に併設されてる店とはいえ、パチンコ店じゃあるまいし、連続11時間超の滞在はかつて例がない。

モーニングセットにランチにケーキに、とオーダーしていると腹も減らないし、店も満席にならないので居心地がいい。もちろん出て行かない最大の理由は、数冊の本にはまってしまったからである。

まず、「G2」に載っていた佐野眞一(1947年生れ)の被災地ルポが秀逸で面白い。ジャーナリストって60過ぎてもいい仕事できるんだな、それもかつての新宿ゴールデン街での知己を訪ねていくという、年を重ねた60代ならではの仕事があるのだ、といい勉強になった。この仕事は死ぬまでできるのがよい。目指せ佐野眞一、目指せ田原総一朗である。

この日、もっとも面白かったのが、「兄弟もの」という私のリクエストに対してIBM時代の同僚から薦められ買った『手紙』(東野圭吾)だった。不自然な死の解明みたいな非日常すぎるミステリーものには興味がなく、本屋に行って東野コーナーを見るにつけ、場所とりすぎだろ、くらいに思って一作も読んだことはなかったが、意外にも大当たりで最後まで読みふけってしまった。

この作者の他作品もチェックしたが、どうもこの作品だけ毛色が違って、社会派色が強い。「世間との闘い」がテーマ。殺人犯の兄を持つ弟が主人公で、世間のレッテル貼りをこれでもか、と思い知り、兄弟の縁を切るに至る。

店頭から倉庫への人事異動に対し、主人公はこう言われる。「会社にとって重要なのは、その人物の人間性ではなく社会性なんだ。今の君は大きなものを失った状態だ」

弟には何の罪もないが、社会は「殺人犯の弟」として扱う。どちらにも言い分があり正義は1つではない。立花隆が『ブラックジャックによろしく』について評した、カ・ド・コンシアンス(フランス語でいう「あの意見も正しい、だけど反対のこの意見も正しい、という答えのない問題」)であり、良質なジャーナリズム作品といえる。

ジョンレノンの『イマジン』(差別や偏見のない世界)との絡みや、ちゃんとオチがあるストーリー展開など、さすがミステリー作家だと思った。こういうのを天才と言うんだろう。だからコーナーがあるほど売れてるのか、東野さんは…。

家に帰ってWikiを見たら「映画化に合わせて2006年には文春文庫より文庫版が刊行された。この文庫本は1ヶ月で100万部以上を売り上げ、同社最速のミリオンセラーとなった。2007年1月現在、140万部を超えている」とあった。

 こういう社会派の作品が、映画化もされて、ちゃんと100万部以上売れて、直木賞候補になっていて、日本人も捨てたもんじゃないな、と思った次第である。

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