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02/26 2012
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 1週間かけて熟読した。佐野眞一氏の著作は『東電OL殺人事件』も『カリスマ』も最高だったが、今回のあんぽん 孫正義伝は、老いてなお健在(今年65歳)、まったく手を抜かないプロの職人魂が作品に滲み出ている上に、さらに進化を続けている印象すら持った。抜群の面白さは、もはや保護すべき老舗の伝統職人芸である。

 佐野作品への批判としては「著者の思い入れ、思い込み、先入観が強すぎる」というのが昔からあって、『カリスマ』では確かに意味づけが強引と感じられる箇所もあった。すなわち、「中内=戦後日本の縮図」として描きたい当初の仮説に事実をあてはめすぎ、ファクトに語らせるのではなく、著者自ら過剰な解説を始めてしまうようなところだ。

 ただそれも、中内本人とダイエーから2億円の損害賠償を請求される訴訟に発展したほどに、プライバシーを完全無視して斬り込み、必要な取材はすべて行ったうえでの筆致なので、ノンフィクションをものする1つの手法としては大いにアリだし、「評論」としては、なお問題はない。そもそも、強い思い入れや動機がなければできない仕事だし、中立な視点というものもありえない。

 その手法や理念は、『ノンフィクションは小文字の文芸』との名言が記された『私の体験的ノンフィクション術』(2001年、集英社新書)で開陳されているように、立花隆氏のような座学系ではなく、フィールドワークをベースとした徹底的な現場主義だ。興味の対象はあくまで人とその時代背景で、かつ小文字=細部の描写にこだわるため、プライバシーとの相克が不可避となる。

 今回、進化したと思ったのは、3日間通い詰めて大森氏(元ソフトバンク社長)から話を聞きだすなど、必要な取材を全て地道に行う点は60代になっても一切手を抜かない上で、さらに上記のような批判や訴訟に備えた伏線、老獪さ(なぜこの取材が必要なのか文中でいちいち断っていたり、連載のなかで取材を続けるために褒める点を過剰に褒めているように感じられたり)が、随所に見られた点である。

■御用ライターには書けない迫真の物語
 本書でもっとも強調されているのは、孫正義の父親・三憲の存在だ。日本に密航後、15歳から養豚と密造酒づくりで生計をたて、金貸しを経て、やがて九州一のパチンコチェーン経営者となった父親のすごい事業欲は、まさに子に受け継がれていることは、よくわかった。普通の高校生は、正義のように在学中に塾を経営しようと企てたりしない。サラリーマン家庭に育っていたら孫正義の今の成功はなかったな、と実感した。

 佐野氏は、御用ライターによる独立自尊のストーリーではなく、父親を中心とする血と骨のストーリーとして、徹底取材によって得た事実をもとに描く。そして、御用ライターが蔓延するなか(既存の孫正義伝は佐野氏の言うとおり全てそうだし、企業・経営者モノを書いた既刊本の9割超がそう)、佐野氏のノンフィクションライターとしての矜持はますます強くなっているようで、そこかしこに違いが強調されている。この点、強く同意したい。

 彼がアメリカで大きく羽ばたけたのは、肝臓病から復帰した父親・三憲からの潤沢な仕送りがあったからである。父親からのこうした協力に関しては、すべての「孫正義伝」が無視している。「孫正義伝」のストーリーでは、孫が何から何まで独立独歩でやっていかなければならなかったのだろう。それではまるで一時代前の熱血少年マンガである。(P91)

 祖母は残飯を集め豚を飼って一家を支え、父は密造酒とパチンコとサラ金で稼いだ金をたっぷり息子に注いで立派な教育をつけさせた。孫一家にとって、在日三世の正義は何よりの誇りだった。そのことにふれず、孫をコンピュータ世代が生んだ世界的成功者と持ち上げるだけ持ち上げた物語が、これまでどれほど多く書かれてきたことか。それはいくら切っても血が出ないお子様相手のサクセスストーリーでしかない。(P229)

 なぜ御用ライターばかりなのかというと、ラクな取材で手間もかからず、ヨイショした企業が大人買いしてくれて、簡単に儲かるからだ。一方で、取材に莫大なコストがかかる一方の「食えない職業」となった本物のノンフィクションライターには、なり手すらいなくなってしまった。

 僕は佐野本についての10年前の感想として「絶滅寸前の貴重な人種と言えよう」と書いた。10年たって絶滅していなくてよかったが、佐野氏は、もう他に見当たらないくらい、ノンフィクション界における「死ぬ前のジョブズ」のような存在になってしまった。

 ゆうに1年超をかけた取材なので、ビジネスとしてのノンフィクション作家は、1600円の本なら最低20万部(印税3200万円)は売れないと成立しない。今回は『週刊ポスト』連載という形で継続的に大資本(小学館)からカネもヒトも出ているため十万部で全員が元をとれた成功プロジェクトと言ってよいが(現在、12万部突破)、こういう本物の作品は、ぜひ30万部以上は売れて、次の作品へとつながってほしい。

 
16:35 02/26 2012 | 固定リンク | アクセス数(5306) | ブログトップへ | <<前へ | 次へ>> 

コメント
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秋ですね  20:06 10/19 2012
佐野さんは好きです。
でも、今回の橋下さんのことについては佐野さんらしくない倫理論理破綻した矛盾だらけの読者を後味悪くさせる文でした。
橋下さんは良いも悪いも有りますが合算したら今現在最高最良の政治家だと思います。
最低最悪は朝日新聞ですね。
まるでヤクザがフロント企業は関係ないと言う論理で知らんぷりを決め込んでる。
こんな朝日新聞に対して朝日新聞読者が猛省を促す声を上げないのはなぜなんだろう?
朝日新聞読者は馬鹿ばかりなんだろうか?
nanasi  19:50 10/19 2012
個人の人格・責任は個人に帰結するべき。色んな意味で親の負債を子供が返す論理はおかしいし、成人となったからには自己責任であるべき。血脈とか環境とか関係無いのにそこを重要視する輩は親・親類・先祖の負債を自身が背負って居るのか?背負う意思があるのか?血脈たどれば負債はあるものだろう。結局他人事での浅はかさじゃないのか?
hanapee  09:22 10/19 2012
腐れきった役所をきれいに大掃除している最中にあんまり邪魔して欲しくないね。そんな暇があるなら大掃除の手伝いでもすることが人徳というもんんじゃないでしょうか。(役人天国日本で沈んでしまったら素晴らしい力作もだれも買ってくれませんよ)橋下大阪市長(並みの行動力と民衆政治が熱心な)があと3人も現れれば日本は借金も無くなって素晴らしい国に変われることでしょう。少なくても好き嫌いで彼の邪魔をしていることに変わりはないですね。
壁際椿事  18:51 03/13 2012
「血と骨のストーリーとして、徹底取材によって得た事実をもとに描く」。
佐野氏の本は、東電OL、続東電OLを読みました。すさまじいまでの執念を感じました。
『あんぱん』も面白そうですね。ぜひ読んでみようと思います。
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渡邉正裕(WATANABE Masahiro)
(株)MyNewsJapan代表取締役社長/編集長/ジャーナリスト。ほぼすべての主要企業内ホワイトカラーに情報源を持つ。現役社員への取材に基づき企業の働く環境を一定基準で評価する「企業ミシュラン」を主宰。日経新聞記者、IBMのコンサルタントを経てインターネット新聞を創業、3年目に単年度黒字化。
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