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「金は臭わない」――欧州有料トイレの起源は、ローマ帝国・ウェスパシアヌス帝以来の風習なのか

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イタリア・カプリ島のトイレ

どうも書いている本が煮詰まって進まなくなったので、10月にイタリアとオランダを訪れた。いくつか気づいた点を書き留めておこうと思う。

■支払い手段は変われども…

トイレもカネをとりたいなら、オイスターカードで『ピッ』と決済して入れるようにすればいい」――以前に、取材でロンドンを訪れた際、そう書いたことがあったが、同じ思いは今回、イタリアでも感じた。

それは島であっても、入口に徴収員がいて0.5~1ユーロを払う。土産物屋の兄ちゃんが兼務しているパターン(カプリ島)もあった。失業率が高い欧州では雇用対策の意味もありそうだが、概ねクレジットカードが使える街中に対して、トイレだけのためにコインを持ち歩かなければならないのは面倒だ。

今回、アムステルダムを案内して貰った石田敦士氏(ラーメン店オーナー)も、「普段はトイレ用に1ユーロコインを数枚、持ち歩くだけで、基本はキャッシュレスです」という。オランダはPIN(デビットカード)さえ持ち歩けば、ほとんど事足りる社会になっているが、トイレのキャッシュレス化は、まだまだだ。

キャッシュレス化・電子決済手数料「7円」「0.1%」…理想的なオランダ

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サレルノ駅のトイレ

イタリア・サレルノ駅のホームにある有料トイレは自動化されていたが、コインを入れると自動ドアが開く仕組みで、料金は1ユーロ。

旅行者が1ユーロコインを都合よく持ち合わせているとは限らず、持ち合わせていた2ユーロコインを入れたら開いたが、お釣りは出なかった。

日本の感覚だと「え?」という感じだが、このあたりがイタリアらしさだろう。普段が無料なだけに、駅のトイレ260円は、「ボられた」感が強い。

オランダでは、さらに自動化が進んでおり、駅や商業施設では、トイレの入り口に液晶タッチパネルまでつけて、決済手段を選択する仕組みになっているタイプも登場していた。ロッテルダム駅がそうなっていた。

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ロッテルダムの最新商業施設『マルクトハル』地下のトイレ(1ユーロ)。時代が変わろうが、トイレは絶対に有料なのだ、という強い意志が感じられる。コインまたはデビット払い。

ロッテルダムでは、最新の商業施設『マルクトハル』地下のトイレも、1ユーロ硬貨のほか、デビット(PIN)カードが使えるようになっていた。オイスターカードと同様、非接触の「ピッ」で払えるから、7年前にロンドンで感じた通り、これならギリでアリだな、という感想である。

支払い手段は進化させつつも、意地でも有料を貫きたいのはわかった。だが、欧州人が日本に来たら、その無料開放っぷりに感動するのではないか。利用するうえで余計な作業は一切いらず、そこそこ綺麗だ。この点においても、日本は旅先として優れている(働き先としては最悪)。

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仮設トイレ。男性用は1つで4人が同時に使えて効率的だが、丸見え。

訪れた時期が、ちょうどアムステルダムマラソン(10月21日)に重なり、仮設トイレがところどころに設置されていた。これについては、「男性用(立ちション)ばかりで、女性が使えるトイレが少ないのはおかしい、差別だ、と問題になっている」という話を、現地で案内してくれた日本人女性から聞いた。

ヨーロッパは、税金が高い割に、なぜトイレが有料なのか。空港を例外として、ほぼ有料で、価格もどんどん上がっている。130円(1ユーロ)は、ジュース1本並みだ。

■ローマ帝国時代からの風習説

なかでも失業率が低いドイツなど、そこに人手を割くのは贅沢だろう。

「ドイツでは、アフリカ系やトルコ系移民が見張りで50セントを徴収していますね」――。ドイツ在住の日本人が、現地で教育を受けたドイツ人(30代女性)から聞いた話によると、トイレのマネタイズは、「ローマ帝国時代から続く風習」なのだという。

ヨーロッパにおけるラテン語は、日本人にとっての古文・漢文にあたる。ドイツ人は高校時代にラテン語を学ぶという。その授業で学ぶラテン語の名言が、ネロ帝の次に就任したウェスパシアヌス帝(西暦9~79年)の「Pecunia non olet(金は臭わない)」であり、これが現代に至るトイレ有料化の起源と関係がある、というのだ。

(ウェスパシアヌスは)強欲なほどの締まり屋だったから、公衆便所を設けて税を徴収することを思いつく。 当時、尿は染料 を塗った衣類を洗うのに効果があり、売り物でもあった。このため、トイレの汲み取り業者に課税して、 徴収したのだ。それにちなんで、現在でも街頭の公衆便所をイタリア語で「ウェスパシアノ[vespasiano]」と呼ぶほどである。(本村凌二著『ローマ帝国 人物列伝』より)

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ウェスパシアヌス帝(『ローマ帝国 人物列伝』より)

現代のように、単純に利用者から金をとるのではなく、無料で使わせる代わりに、使用者が残していく尿を利用して課税する、というやり方だ。グーグルと同じビジネスモデル(無料で使わせる代わりに、使用者が残していくGPS位置データ等を利用してマネタイズする)を、2千年前に開発していたわけで、かなり賢い。

ただ当時は、この課税が、あまりにセコいということで敵対者の嘲笑を受け、それに対する反論として皇帝が述べた言葉が、「Pecunia non olet(金は臭わない)」だった。よい意味で、金銭に貴賎がないことを示す格言として後世に伝えられている。

利用者から徴収していないので、これが本当に有料トイレの起源となったのかは、2000年前のことでもあり、いろんな説がありそうだが(欧州は文化・宗教が異なる移民も多く格差・階層社会なので無料にするとトイレを清潔に保てない、等)、現在の有料公衆便所の語源にまでなったのだから、一定の説得力はある。

■メリハリのあったウェスパシアヌス帝

さらに驚くべきことに、この皇帝は、未来世代に、半永久的な、打ち出の小槌のような収益源を残していた。

ウェスパシアヌス帝はとてつもない贅沢なプレゼントを与えた。古代ローマを代表する、あのコロッセオ(写真 20)である。締まり屋のウェスパシアヌスが巨大な円形闘技場を建設しようとしたのだから、おもしろい。(中略) ウェスパシアヌスは節約家だったが、出費すべきものがあれば惜しまず出した。地味な人物ではあったが、やはりひときわ大きな器量が備わっていたことを感じさせる話である。(同)

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コロッセオにて

今回、ローマでは、この世界遺産「コロッセオ」の近くにも泊まったのだが、さすがイタリアを代表する史跡とあって、中国からの団体さんはじめ、連日、長蛇の列ができていた。当時は5万人収容ということで、東京ドーム並み。これが2千年前の話である。

観光客のキャパは3千人で、オーバーすると入場制限が行われる。年間約400万人が訪れるというから、1人15ユーロとして、年78億円。

ホテル、飲食、飛行機など経済効果を考えたら、この皇帝が後の世代に残した功績は、とてつもない規模だ。それも、これから未来永劫、永遠にカネを生み出す観光資源である。

政治家の功績は、歴史が判断する。トイレのマネタイズは、結果的に、旅行者・生活者にとっては迷惑な政策となったが、一方で、国家財政にとっては先進的な徴税施策であり、現在も財政に貢献している。コロッセオの建設は、結果的に、偉業中の偉業となった。

2千年を経たいま、ウェスパシアヌス帝は、国家にとって、史上まれにみる天才的なリーダーだったと言えるのは間違いない。

■現代で逆転した意味

「金は臭わない」は事実であるし、実に現代的なテーマを含んだ名言である。現在では、ウェスパシアヌスの発言意図とは逆の、ネガティブな意味で使われることが多いだろう。映画『ハゲタカ』あたりで主人公が吐き捨てそうなセリフである。

つまり、どんな稼ぎ方だろうが、倫理的に議論があろうが、結果としてのカネに色はついていない。信じられるのはカネだけだ。カネは人間を差別しない。同情するならカネをくれ――である。

一方で、「綺麗に稼ぐのは難しいよね」――とは、ベンチャー界隈でよく議論するテーマである。メディアビジネスでいえば、広告収入は景気がよい時期ほどボロい稼ぎになるので、大企業のおべんちゃら記事を書いて広告を貰うほうがラクして儲かるわけだが、それは読者を騙していることになる。そういう汚い稼ぎ方をする人生は信念に反するから、僕は広告ゼロのニュースサイトを起業した。

従業員を過労死させるようなブラック企業の経営者が稼いだ数十億円も、デイトレーダーが秒速で稼いだ1億円も、途上国の少年が汗水垂らした肉体労働で稼いだ100円も、結果としてのカネに色はついていないが、それぞれで背景が違う。

「稼いだ金銭の多寡」と「労働が生み出す本質的な社会的価値」の間には、何らの相関もないばかりか、時に逆相関さえみられる、というのがこの世の本質だ。

背景を知らぬままに、金をたくさん稼いでいるからエラい人だとか、価値が高い人物だ、ということには、全くならない。だから、金とは完全に切り離して、常に仕事そのものを見て価値を判断すること、どんな背景で稼ぎ出されたカネなのかを理解すること、が重要である。

ウェスパシアヌス風に言うなら、「金の臭いをわかれ」「カネの臭いがわかる人間になれ」といったところだろうか。ヨーロッパの有料トイレを見るたびに思い出していただきたいテーマである。

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2018/11/13 15:10
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