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ジャーミィは残り、木造家屋とボスフォラスフェリーは消え…

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オスマン帝国時代に建ったと思われる木造家屋
 新市街にあるホテルを拠点に旧市街を散策し、夜は編集・執筆する日々が定着してきたころ、フェリーでボスフォラス海峡を渡り、アジア側も歩いてみることにした。ボスポラス海峡を渡る夏のフェリーは、なかなかの風物詩である。暖かいから、風が当たらない1階よりも、海峡の爽やかな風をまともに受ける屋上階から席が埋まっていく。
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  • 残される宗教施設
  • 夏の風物詩を消す大成建設


@イスタンブル(トルコ)2009.7

席に着くやいなや、すかさずチャイとオレンジジュースを売りに来る。1杯は、相場の0.5リラ(31円)だ。私もチャイを飲む。

進行方向と並列に10列ほど長椅子が並べられ、地方からやってきたと思われるトルコ人観光客らは、海沿いに近いところを陣取り、景色を眺めながら、写真を撮りはじめる。家族連れも多い。

一方、通勤の足として日常的に使っていると思われる人たちは、真ん中で新聞を読みふけっていたりする。スーツ姿のビジネスマンもいる。アジア側とヨーロッパ側の旧市街を直接結ぶのはこのフェリーだけで、ほかに足がないのだ。

最初に渡った夕暮れ時は、なかなかの絶景だ。ブルーモスク、アヤソフィア、トプカプ宮殿といった歴史的な建造物を一望でき、ライトアップまでしている。片道20分くらいのものだが、1.5リラ(94円)にしてはぜいたくなクルーズである。

アジア側の町は「カドウキョイ」という。さっそく1時間ほど歩いてみる。ヨーロッパ側の旧市街と同じく、起伏の大きい坂道だらけだった。街並みは若干、洗練されていて、きれいである。旧市街のほうはボロボロで、観光地から一歩町中に入るとすぐにスラムっぽくなる。だがカドウキョイは、やや高級な感じで、アジア側なのに街並みはヨーロッパ風である。

カドウキョイを歩いていて見つけたのが、この正真正銘な木造の建物。オスマン帝国時代に作られたと思われ、窓にはカーテンがかかっている。いまだに現役らしい。これはいい味出している。宮崎駿のアニメに出てきそうで、日本の木造家屋にも通じるものを感じる。しばらく見入ってしまった。旧市街に最近できたブティックホテルは、外壁を木造風にしているものが多いのだが、なるほど、このオスマン時代の木造家屋を模しているのか、と納得した。

残される宗教施設

実は、旅の前まで、イスタンブルは世界遺産の街だということもあって、こういった古い建物や街並みが、もっと残されているのではないか、と勝手に思っていた。その予想は、現地を歩いてみてすぐに裏切られた。保存されているのは特定の有名建築物、特に宗教関連施設ばかりで、一歩外れると、4~5階建てのコンクリートのボロいペンシルビルが延々と立ち並び、文化も歴史もない殺風景が広がるのだ。

寺社仏閣などの宗教施設や博物館以外は、ボロボロ。このあたり、日本と同じだな、と思った。インスタンブルでは「なんとかジャーミィ」という名前の歴史あるモスクがたくさん残っている。日本で寺や神社が、そこらじゅうで、ちょこちょこ残っているのと同じだ。人類というのは世界共通で、何らかの宗教なくして生きられないものなのだ、とつくづく思った。

一神教で、政教一致が当たり前のイスラム国であるトルコは、時の権力者が権力誇示のために作らせたものも多い。第14代の皇帝、スルタン・アフメット1世が1616年に建てさせた寺院が、「スルタン・アフメット・ジャーミィ」(いわゆるブルー・モスク)だ。

そして、新市街から旧市街へと向かってガラタ橋を渡るときにひときわ目につく「シュレイマニエ・モスク」が、オスマン帝国の絶頂期、1557年にシュレイマン大帝が造らせたものだそうだ。

日本でも神社や寺など宗教施設は税制上の優遇を受けているために、ポッカリとそこだけ残されているが、日本は時の権力者が巨大な寺社仏閣を作らせた、という話があまりない。東京で比較的有名な浅草寺や増上寺、築地本願寺にしても、徳川家が保護した程度だ。八百万の神々がいる日本では特定の宗教に肩入れする統治はデメリットが大きかったのだろうか。

いずれにせよ、規模の違いはあれ、宗教施設は、どちらの国でもしっかりと残されている。開発で取り壊されたという話はあまり聞かない。

夏の風物詩を消す大成建設

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「天気雨」が降って、みんな屋根の下に行ってしまった

さて、ヨーロッパ側へと、フェリーで帰る。再び、運賃1.5リラとチャイ0.5リラ、計2リラ(125円)の豪華なクルーズだ。突然、雨が降ってきた。雨は空気をきれいにしてくれるので嫌いではない。夏は涼しい。私は濡れたまま、屋根のない甲板で景色に見入っていた。同じく雨を気にしないおばさんが、しばらくして屋根のなかに入って行ったが、私は到着まで動かなかった。イスタンブルは埃っぽい街で、建物も空気も、小汚い。それが洗い流されるようで、気持ちよかった。

この、旅人にとっては利用価値の高いフェリー航路。海ほたる(アクアライン)を浮かせ、15キロもトンネルと橋を造ってしまう土建国家・日本だったら、すぐにトンネルを造ってしまいそうである。

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ODA円借款で開発中のボスフォラス海峡を通過する地下鉄

と思っていたら、まさに、円借款によって海中トンネルを掘り、鉄道を通す計画が進行中である、と「歩き方」に政府系の広告が載っているのを発見した。

 調べてみると、大成建設が受注し、2004年5月に契約書調印、起工式そして着工で、工期は56ヶ月。全長13.6キロ。この事業、新卒採用ページでも紹介され、NHK「プロジェクトX」みたいなノリでやる気満々ではないか。

予定通りなら来年にも完成してしまう。となったら、車専用のフェリーを残して、この路線は廃止だろう。

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新市街を通る地下鉄。広告は車体広告と大型液晶画面広告が中心で、かなり近代的だ

地下鉄では、気持ちよく雨に濡れることもできない。景色も真っ暗。海の香りも、風もない。チャイもない。文化の香りは消え失せ、代わりに地下鉄という文明が発達することになる。ハノイでも書いたことだが、文化と文明のトレードオフ問題は、ここにも厳然としてあるのだった。

通勤客にとっては便利になってよいことだが、旅行者にとっては、たった2リラの夏の風物詩は、捨てがたい。

オスマン帝国時代の木造建築物が、コンクリート製のどこにでもあるマンションに変わっていくのも、まったく同様に、惜しい。便利になれば、歴史や文化の香りは消えていく。一方で、寺社仏閣ジャーミィといった宗教施設だけは、なぜか法律でがっちり守られ、保存される。このギャップが興味深い。

「人間には、誰しも、理性的な側面と、感性的な側面と、宗教的な側面の3つがある」と大学のどこかの授業で聞いたのを未だによく覚えている。だとするならば、宗教的なものだけが、過度に守られるのはなぜだろう。理性(便利さを求める合理性)と感性(旅行者的な感傷)は利害相反するが、宗教は別枠だからだろうか。

 考えてみれば、いま、このボスフォラスフェリーに乗れたのは、ラッキーだったのかもしれない。地下鉄の運行が始まれば、来年にも「歴史」になってしまうかもしれないのだから。

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