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取引業者から高級クラウンの“プレゼント”受ける海自司令官の公私混同ぶり

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官用車の車検や整備を発注している取引業者から長期にわたって高級車の貸与を受けていた海上自衛隊余市防備隊司令の田尻裕昭1佐。「カネは払った」が契約書はないという(自衛隊HPより)。
 海上自衛隊余市防備隊(北海道余市町)の最高指揮官にあたる田尻裕昭・基地司令(1等海佐)が、基地と取り引きのある自動車整備工場から長期にわたり高級乗用車「クラウンマジェスタ」を貸し与えられていたことが筆者の取材で明らかになった。「カネを払って借りているだけ。問題はない」と1等海佐は釈明したが、契約書の類はないという。本当に代金が払われたのかは、きわめて疑わしい。多くの自衛官が大震災の救援活動に携わっている一方で、仕事の発注先から利益供与を受ける高級幹部自衛官のだらしない公私混同な姿が浮かんできた。
Digest
  • 官舎にあった推定600万円の「マジェスタ」
  • 車は整備工場「余市自工」名義
  • 「警察呼ぶ」「お引き取りを」と絶叫する会長
  • 田尻1佐に直撃インタビュー
  • 「お借りした」けど「契約書ない」って?
  • 3週間出張中も借りっぱなしのナゾ
  • 「田尻1佐と余市自工の経営者は仲良し」の噂
  • 忽然と消えた「マジェスタ」

官舎にあった推定600万円の「マジェスタ」

海上自衛隊の幹部が取引業者の自動車整備会社から高級車を“プレゼント”されている。そんな噂が筆者の耳に入ったのは今年5月のことだった。

北海道余市町にある海上自衛隊余市防備隊。ミサイル艇と呼ばれる小型の高速艇が配備された比較的小さな基地である。噂の焦点はこの基地のトップにあたる隊司令・田尻裕昭1等海佐だった。内容はこうである。

〈田尻1佐が余市防備隊に着任したのは昨年春、直後から彼が暮らす官舎の駐車場に高級そうなクラウンを見かけるようになった。買ったのなら自慢話でも出そうなものだがそんな話はなかった。一方、田尻1佐は地元の自動車整備会社の経営者とよく酒を飲みに行っていた。余市防備隊が官用車の整備などの仕事を発注している会社でもある。車は経営者から“プレゼント”されたものではないか。少なからぬ者がそんな疑いをもっている〉

もし本当なら、大震災や原発事故の対応で過酷な任務についている多くの自衛隊員があまりにも気の毒だ。あるいは事実誤認の噂だとすれば田尻1佐の名誉にかかかわる問題である。何をおいても事実を確認するしかない、と現場に向かうことにした。

新千歳空港から小樽行きの快速電車に乗り、小樽で各駅停車に乗り継いで都合2時間ほどで余市駅に到着した。ホームに飾られたニッカウイスキーの樽が観光地の雰囲気を演出している。「ろうそく岩」という奇岩の案内看板もある。観光案内パンフレットによれば続縄文時代の洞窟もあるらしい。

町をゆっくり見物すれば楽しそうだったが、あいにく時間がない。取り急ぎ自衛隊官舎に向かった。噂の高級クラウンが停まっているという場所だ。タクシーの運転手は「ああ、T官舎ですね」と合点がいったように車を出した。

車窓から新緑の山が見える。さわやかだ。だがのんびりしているのは束の間のこと。冬は厳しいのだと運転手がいう。

「とくに去年の雪はひどかった。3メートルほども積もった。しかも予算削減とかで除雪が十分にされなかったんでね。道の脇に雪の壁ができて見通しが悪くて、危なくてしかたなかったですよ」

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自衛隊官舎に置かれたクラウンマジェスタ。3週間の出張中も置きっぱなしだったとみられる。昨年春に田尻1佐が着任して以来、ずっと車はあったという証言もある(6月8日午前、北海道余市町)。

そんな話をしているうちに目的の自衛隊官舎に到着した。魚の臭いが漂う。近くに干物工場があるようだ。官舎はクリーム色をした5階建ての団地型。露天の駐車場には5~6台の車が停まっている。噂の高級クラウンは遠目からでもすぐにわかった。クリーム色のきれいな車体が太陽に反射して目立っている。

近寄って車の周囲を観察してみた。後部に「MAJESTA」の文字がある。国産高級乗用車のトヨタクラウン、その中でも最上位車種の「マジェスタ」だ。「V8 4・0 i-four」という表示もある。排気量4000ccで4輪駆動というマジェスタの中でもより高級な形式だった。新車で買えば600万円はくだらないだろう。

ナンバーは「札幌3×× な 4123」。札幌の陸運局に登録されていることがわかる。「な」の記号がついていることからレンタカーでもない。レンタカーなら「わ」ナンバーになっているはずだ。

クラウンが停まっている場所が誰のものかはすぐにわかった。駐車場所の割りあて表が玄関先にあったからだ。クラウンは間違いなく田尻1佐のところにあった。

 車体をあらためて観察しているうちにこんなステッカーが貼られているのに気がついた。

「Lotus Yoichi」

Yoichi――ついさきほど町中でみかけたのと同じ文句だ。「余市自動車工業」(余市自工)という自動車整備工場の看板に書かれていた。高級車の贈り主とされる噂の整備工場である。

車は整備工場「余市自工」名義

田尻1佐、官舎駐車場、札幌「な」ナンバーのクラウンマジェスタ、余市自動車工業のステッカー――噂は信憑性を帯びてきた。ただ、まだ不十分だ。これらの断片的な事実からだけでは車が事実上“プレゼント”されたと断定することはできない。

いまのところ二つの可能性が考えられた。

その1・マジェスタは田尻1佐が余市自工から買った。

その2・マジェスタは余市自工のもので、何らかの事情で田尻1佐のもとにある。

はたしてどちらなのか。筆者は官舎を引き揚げて再びタクシーに乗り、余市自工を訪ねた。

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田尻1佐のところにあったクラウンの持ち主である余市自動車工業。会長に事情を聞こうとしたが「お引き取りください」とけんもほろろに追い出された(北海道余市町)。

平日の昼下がり、地方都市の自動車整備工場はのんびりとしていた。ツナギ姿の整備員がガレージで仕事をしている。事務所にはいると女性職員が暇そうにしていた。

自衛隊とのことでお話が伺いたいのですが――

要件を伝えると、応接間に通して茶を出してくれた。壁にミサイル艇や護衛艦のポスターが何枚も貼っている。海自幹部の帽子や艦艇の模型も飾っている。やがて初老の男性が現れた。

「お客さんじゃないということなので私が対応させていだきます」

男性が出した名刺にはこうあった。

「株式会社余市自動車工業取締役会長 森義彦」

森会長と向かいあわせに座ると、筆者は単刀直入に質問した。

――『札幌3×× な 4123』という車、これお宅にございます?

「はい」

 ――クラウンマジェスタ?

「はい…」

森会長はあっさりと答えた。自衛隊官舎の田尻1佐のところにあったクラウンは彼のものではない。余市自工の所有物だった。

「それが何か」

いぶかしげな表情をする森会長に続けて質問した。

――その車、どなたかにお貸しになってますか?

「いや、…それはなぜ?」

――たとえばレンタカーでお貸しになっているとか?

「それ、なぜ答えなきゃならないんですか!」

穏やかだった森会長が声を荒げた。

「警察呼ぶ」「お引き取りを」と絶叫する会長

相手が警戒している様子なので、少しいじわるな質問をしてみた。

――いまその車どこにありますか。ここにありますか?

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田尻1佐が最高責任者を務める海上自衛隊余市防備隊(上)と、官用車が収められた車庫で作業をする隊員(下)。数年来、官用車の車検・整備は余市自動車工業がほぼ独占的に落札・契約しているという。

田尻1佐に話を聞いた翌日、問題のクラウンは自衛隊官舎から余市自動車工業に移動されていた(車は写真下の右端)。

災害派遣の訓練で市中を走る陸上自衛隊の車両。自衛隊幹部と出入り業者の不透明な関係を、一般隊員たちはどうみているのか(北海道余市町内)。

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清水勝一2013/10/12 16:07
入江紀之2013/08/31 16:13
2011/06/25 23:59
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