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取材の参考に『The Awful Truth』

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 マイケル・ムーアの初期作品「THE AWFUL TRUTH 」の1と2をまとめて見た。時事的なニュースをもとに問題点を提示し、何らかの解決策をユーモアを交えて自ら企画・実行し、そのプロセスを追うパターンが基本。ジャーナリズムと市民運動の融合が興味深い。

日本では「報道特捜プロジェクト」(日テレ)や「サンデープロジェクト」、「報道ステーション」(テレ朝)で時々、追跡型の企画報道をやっているが、あくまで「報道」としてやっており、自らが活動主体となって問題の解決に踏み込むことはせず、ユーモアやジョークもない。

アポなし取材は「電波少年」の松村邦洋と松本明子を想起させるものだが、目的や視点が全く違う。権力者とは反対の位置に立場を置くことで一貫している点が、ジャーナリズムとしても高く評価できる。ムーア氏のような演出力・企画力があって大衆性と両立させられるプロが日本にいないのが残念だ。

大衆性と両立させない限り、自己満足で終わってしまって、影響力を持ち得ない。本当に変えたければ、面白くなきゃ広まらないし、とにかく演出力が必須だ。しかも、実際に問題の解決に成功しているところがすごい。

日本は確かに地上波の支配力が強いが、それでもインターネット放送とCS放送で十分、可能ではないだろうか。とにかく分かりやすさと大衆性が成功のキーファクター。

以下、The AwfulTruthの1と2に収録された要旨をまとめ、私の感想として評価(◎○△×)をした。興味を持ったら実際に観てもらいたい。アイデアと取材プロセスは、企画記事を考える上で非常に参考になる。

■問題:全米各地の田舎に刑務所が作られ、誘致する自治体も現れた。
◇企画:刑務所が出来たおかげで1年で23%も人口が増加した郡を取材。商店主に「急に住民が増えて商品が足りないのでは?」などと聞いて回る。国から補助金が貰え、渋滞や汚染はない。景気に左右されない雇用も来る。「まさに理想的な人口増加だ!」。囚人を50%増やしたら、犯罪は20%減ったというデータを紹介。刑務所の所長にインタビュー。勝手に住民を代表して贈り物(脱走のための地図、男性週刊誌など)をする。全国的に、ここ数年のペースで囚人が増えると、2130年には、全員が囚人か刑務所職員になるという試算を紹介。◎

■問題:2000年に再選される下院議員435人の約4分の1が無風で対立候補がおらず、選挙運動さえしない。2大政党制の弊害で、有権者は選択の余地がないからシラけている。これは民主主義の危機だ。
◇企画:「FICUS」(イチジクの木)に立候補させる。署名200人を集めて立候補。木なので立候補資格はないが「書き込み」(投票用紙に氏名を直接書き込む方法)はOK。対立候補にディベートを迫る。新聞の社説やニュース番組などで取り上げられ、応援する議員も現れる。テキサスやペンシルベニアなど全国でFICUSに立候補させる運動が広がる。テレビCMでは「対立候補は地に足がついていない」と批判。焦った選管は無効票にしようとする。票数ではFICUSが勝っているが、マスコミもそれを報道できない。ムーアは「民主主義への侮Jだ」と批判。◎

■問題:NYの黒人差別。
◇企画:「刑務所帰りの白人」と「有名な黒人俳優」を道に立たせ、タクシー運転手がどちらを載せるか実験。もちろん黒人を乗車拒否。ムーア自身が、黒人限定のタクシードライバーを実演、白人を乗車拒否。○

■問題:黒人差別。リモコンを持つ黒人を「銃に見えた」と射殺したり、サイフを持つ黒人に対し「銃に見えた」と4人の警察官が41発の銃弾を打ち込む事件が発生。鍵やチョコバーも、銃と間違われて撃たれている。
◇企画:ムーアが、街中の黒人に呼びかけて、オレンジのサイフと交換していく。「銃と間違えたって言い訳はきかないからね」。わざと警察の車の前で黒人インタビューを実施。幻覚に悩むNY警察に対して、銃とサイフの違いを説明して回る。既に死んでいると思わせるための「偽の銃創キット」を紹介。「常時、両手を挙げておくことだ」とデモ。「危険な黒いサイフの処理は警察に任せよう」とトラックに載せて、警察に持っていく。「これで警察官の集団幻覚も収まるだろう」。◎

■問題:ヒートアップする死刑執行。
◇企画:テキサス(兄ブッシュ)とフロリダ(弟ブッシュ)による、ブッシュ兄弟の死刑執行競争を試合にたとえてリポート。推進派を「死刑制度サポーター」と表現。過激な死刑賛成派をインタビュー。死刑執行の現状を楽しくリポート。ファン同士の戦略談義。死体を運ぶ車を写す。週に4人処刑することもあるテキサス。 チアガール軍団と私設応援団を結成し、死刑推進派の執行日のイベントに乗り込む。 「ジョージが差を広げた」。「たまに冤罪があっても、テキサスはゲームを止めないだろう」「勝利のためでもなく真実のためでもなくゲームを愛するがゆえに」。△

■問題:クリントンの任期中にも貧富の格差が拡がった。
◇企画:「友達のビルに次の仕事を探してあげたい」と、大統領に次の就職先を探してあげる。1700万人の雇用(多くが低所得者向け)を創出したというビルに、ピザ店のような低所得者にふさわしい仕事を探してあげる。△

■問題:中絶反対派の暴力的なやり方。
◇企画:中絶反対派は、テロリストのように中絶賛成派の医院を爆破、殺害する。クリントン政権は容認派で国民も多数が容認しているのに、中絶擁護派のムーアが白旗を掲げて降伏。平和のために降伏。勝手に停戦協定を結ぶ。「法律より爆弾」というテロの勝利を祝い皮肉る。△

■問題:NYの地下鉄で車内で急死した男性がいたが、発見されたのは5時間後。死人が電車内に5時間も放置されるのはアメリカだけか?
◇企画:ニューヨーク、トロント、ロンドンの3都市同時中継で、道端に死人を置いて、通行人が声をかけるか、その冷淡さを実験ルポ。題して「死人発見コンテスト」。◎

■問題:ジュリアーニ市長がNY中のポルノショップを取り締る条例を作った。一方、市長は不倫を認め、愛人がいるともいわれる。
◇企画:「エッチ商品は四割」という条例に厳密に沿った店を開くことにした。「ギフト&ポルノショップ」。店内の6割がジュリアーニ関連グッズ、残り4割がポルノグッズ。「違反じゃないから取り締まれないね」。NY市警の警察官は一割引。NY市警の視察をルポ。◎

■問題:特別介護老人ホームでの虐待や放置。58度の風呂に入れられて死亡する女性も出た。
◇企画:6人の老人を集めて、カンフー指導者が護身術を訓練。介護施設のオーナーに戦いを挑む。その後、罰金を払った施設の老人にサバイバル技術を伝授する。訪問講義では、熱湯事件のあとだけに抗議を熱心に聞いた。△

■問題:ホリディインでおきたメキシコ人の差別。規定の給与より安く劣悪な労働条件を改善するため組合を作ったら、支配人が移民許可局に通報して逮捕させた。これでは奴隷だ。
◇企画:会社側は適法性を主張。ではそれを見習って、ホリディインの告発を目的として、衛星検査官と建築検査官を雇って潜入調査。スプリンクラーの不備、防火扉の不備など消防法違反、バリアフリー法違反、衛生条例違反の証拠写真をとって役所に告発。「ビシビシやってね」。ホテル側は安全設備の新規購入を多数指示され、塩素過多の泡風呂は閉鎖。その後、ホリデイイン本社に乗り込んで直談判。INSに直談判。結局、合法的な滞留を認めることに。ホテル側は7万2千ドルの補償も承諾。◎

■問題:戦中、BMWがナチ政府の保護のもと、1万2千人の迫害されたユダヤ人に強制労働させた。
◇企画:元強制労働者をインタビュー。BMW本社に乗り込む。広報部長は「要求が出ていない」。内容証明郵便で補償を要求した人を取材。一緒に再度乗り込む。報告としてCMをヒントに車の窓ガラスを割る。×

■問題:司法取引で裁判なしで刑務所に送られるカリフォルニア州ネバダ郡裁判所。98年で900人が逮捕され、裁判をしたのは1人だけ。99年も5人だけ。あとは司法取引を強要され、公判なしで刑務所に直行だった。憲法修正第6条違反。
◇企画:裁判がないネバダ郡裁判所内をルポ。無実を主張したい、といっても公設弁護人が「勝ち目がない、取引に応じないと終身刑になる」と司法取引を強要する様子を被害者に取材。どうせ刑務所直行なので、オシャレなツナギを用意。刑務所のカタログを用意。ホンモノの弁護士をつけてあげる。○

■問題:コネティカット州ニューロンドン。警察官の採用試験で、IQテストの点が高すぎると落とされる。
◇企画:「ワンダーリック」というIQテストで点が高すぎたため落とされた人を取材。彼は33点で弁護士になれるレベル。21~26点が警察官に理想的。高い順に、弁護士→秘書→保険外交員→警察官→機械工。採用責任者を取材。「営業マン以下の警察官なんて不安ではないか?」ためしに警察官にテストと同じ質問をしてみる。やはり答えられない。警察を出し抜いた人を取材。犯罪者よりIQが低くていいのか?彼の夢をかなえるために、IQを低くする訓練をする。○

■問題:企業犯罪。3人の重役が有罪となったが、控訴を理由に刑務所に服役しない。大企業だから優遇されている。
◇企画:ムーアがcorporate cops(企業コップス)となって欠陥カテーテルで多くの死者を出した医療機器の「CRバード」社に迫る。直近でも3千本のカテーテルをリコールした企業。ムーアが本社に乗り込んで副社長に容疑者を差し出せ、と直談判。住民に知らせるためにチラシを作って掲示。○

■問題:雇用。20年以上、企業城下町としてカナダのバリーで栄えてきた「モルソンビール」が、バリー工場を閉鎖して72キロ離れたトロントに移ることになり全員リストラされた。カルチャーが違い適応できない、と説明。
◇企画:22年勤めた元従業員をトロントに送り込み、カルチャーギャップがないことを訴える。△

■問題:アイラレナート率いるレンコ・グループによる環境汚染。
◇企画:「環境汚染業界で立志伝中の人物」として、彼の功績を紹介。近隣住民を取材。環境汚染の「今年の人」に選び、強引に賞を渡す。秘書らしい人が出てきて対応。裁判所から接見禁止令が出るが、反撃に転じると取り消しになった。○

■問題:米国に4300万人の無保険者がいる問題。
◇企画:ワークケア。治療費を払えない人がその分の労働を提供する仕組み。「 有名人に宣伝してもらえば議会で法案が通る」という病院に代わって、ムーアが病院の前にテントを設営し貧しい人に、労働の替わりに治療を提供するが、病院に迷惑がられる。○

■問題:アフガンがテレビの所有を禁止した。
◇企画:米国のタリバン事務所を訪ねてテレビを寄付する。○

■問題:人材派遣会社「マンパワーインターナショナル」がマイケルムーア対策マニュアルを作成して各拠点に送付した。
◇企画:マンパワー作成の「マイケルムーア対応マニュアル」をちゃんと守っているか、各支社を回って採点する。◎

■問題:プライバシーの侵害。
◇企画:モニカルインスキーの電話を録音してプライバシーを侵害したルシアンゴールドバーグの自宅の窓を24時間監視してWEBで中継。電話で直撃。「21世紀にオフレコはないわ」。◎

■問題:保険会社の支払い拒否。支払いを拒否した社員に特別ボーナスを出す。
◇「ヒュマーナ社が保険金を出し惜しんだため死去」という自分の訃報を出したい、と新聞社にいく。「重役を葬儀に招こう」と乗り込む。従業員にも葬式の案内状を渡す。葬儀のリハーサルを会社の前で行う。1週間後、保険が下りることが決定。◎

■問題:ゲイ差別。大学生が殺される事件も起きた。
◇企画:番組専属のゲイ集団を組織。同性愛が違法な州を回る。ゲイ差別推進派の牧師や、ゲイは病気だと主張する上院議員と対話をさせるよう仕掛ける。△

■問題:ディズニーの従業員。中国の契約工場で時給19セントで休みなく働かされる労働者。国内でも傘下のテレビ局ABCでは技術者との正式契約を拒否。
◇企画:「クラッカーズ(チキン)」がディズニーワールドに乗り込む。気ぐるみのなかの労働者を取材。リスの衣装が不潔でインキンになった人、生活保護が貰えるほど安い賃金。労働運動に理解のある上院議員のところに直談判にいく。◎

■問題:フィリップモリスは有害と知りながらタバコを売った。
◇企画:クリスマスに、喫煙が原因で声帯を失った人たちを組織してフィリップモリスに乗り込み、「歌を届けたいだけだ」と、人口声帯で勝手に合唱。経営者の自宅前にいきジングルベルを歌う。△

■問題:レイオフ。UPS世界最大の運送会社が、パート社員を2千人ずつ正社員にすると約束したがホゴにした。デモに参加した従業員が解雇に。
◇企画:本社に行く。広報部長に直談判。1人復職に成功。視聴者に電話や郵便で抗議を呼びかける。△

■問題:広がる核。
◇企画:インドとパキスタンの人たちを集めて、戦時のサバイバル術を学んでもらう。ガスマスク装着訓練、死体袋の使用法、シェルターの使い方など。△

■問題:大金持ちのメディア王、テッド・ターナー。
◇企画:プロレス団体や球団を所有、米国最大の地主で、これはルクセンブルク以上。国に必要なものは大方そろっているので、「タードニア」という国を作ってあげる。勝手に通貨や国歌をつって国連に加盟申請。○

■問題:子供の銃乱射問題と教育。
◇企画:子供向けのスナイパー学校を作り、プロモーションビデオを作成。全米ライフル協会公認。△

■問題:戦中にユダヤ人から没収した金が、スイスの銀行に今でもあり未返却。
◇企画:ヒトラーの格好をした人が、スイスの国立銀行に行き「預金を引き出したい」。国立銀行だけはずっと支払いを拒否し続けている。×

■問題:バックアイ養鶏場が1100万羽ものニワトリを狭いオリに詰め込み動物虐待。ドイツでは営業停止を受けた企業。周辺住民に悪臭とハエとハエを減らすための甲虫をばら撒いている。
◇企画:周辺住民や企業を取材。州知事に会いに行く。第一秘書が対応。権限を持つ環境局へ。結局、地元新聞、地元の政治家を巻き込み、工場拡張の認可を取り消し。◎

■問題:アメリカの人種差別
◇企画:今の南アに不満がある白人は「ぜひ故郷を捨ててアメリカへ」という南アの白人へのメッセージビデオを放送。アメリカは、どの町にも「キング牧師通り」があり学校の名前につけるなど、黒人を尊重するフリをしている「暖かいアパルトヘイト」だと批判。△

■問題:大金持ちのビルゲイツ
◇企画:ゲイツの新築祝いとして、贈り物を買い、隣人とともにボートで家に近づく。「嫌がらせで逮捕する」と警察にいわれる。×

■問題:米国北西部の核兵器。国連はイラクに目を奪われ、アメリカを忘れている。アメリカも誰かに査察すべきだ。
◇企画:独自にアラブ人と一緒に査察団をつくり、アポなし査察。演出がすばらしい。イラクを査察したスコット・リッターの報告映像と交互に見せ、イラクも米国も対応が似たようなものであることを示す。ヘリで上空からのリポートも。サリン毒ガス弾貯蔵庫などをリポート。調査結果をボス(下院議員)に「大量破壊兵器が見つかりました」と報告。スコットリッターに「国内の査察権はない」といわれる。◎

■問題:死期が近い子供に何でも願いを適える財団が、「熊を殺したい」という望みに対して「非人道的だ」として拒否した。
◇企画:短編映画を作る。KKKのマネをしたい子供の願いを叶える内容。最初は難色を示すが、実際に実現する。◎

■問題:クリントン。
◇企画:ヒラリーが夫の浮気でもうすぐ離婚しそうだから、ヒラリーに再婚相手を探してあげる。新聞広告。町に出て探す。×

■問題:クリントンがNAFTAに調印して以来、雇用がメキシコに移転し、失業者が増大。GM関連だけで20万人がレイオフ。しかし、会社は記録的な黒字。
◇企画:米国人の失業者をメキシコに送り込んで、復職させる計画を進める。×

■問題:合併が過去最多となり、独占企業が増えている。
◇企画:クライスラーとベンツの結婚を祝う。伝統的な挙式。会長にトースターなどを渡しにいくが締め出される。×

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