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ブルームバーグ ノルマ地獄の末に解雇で記者側が一審勝訴「毎月67万5千円払え」

情報提供
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ブルームバーグで過剰ノルマを課せられ不当解雇されたと訴えるY氏。一審で全面勝訴。会社は控訴した。
 当サイトで2年前に報じた米通信社ブルームバーグの記者Y氏(現50歳)は、社員教育を名目とした「成績改善計画」によって課せられた過剰ノルマの未達成を理由に社員証を取り上げられ、オフィスから追い出されるロックアウトに遭い、解雇された。Y氏は会社の仕打ちは不当解雇だとして11年3月、地位確認と毎月67万5千円の支払いを求める訴訟を東京地裁に提起。その一審判決が今年10月5日にあり、Y氏の全面勝訴だった。日本国内で強引なリストラ旋風が吹き荒れるなか、成績不振を理由としたロックアウト型解雇が違法とされることを示した貴重な一審判決を、Y氏とブルームバーグへの取材、および判決文など裁判資料に基づき、詳報する。(判決全文はPDFダウンロード可)
Digest
  • 「お帰り下さい。社員証も返して下さい」人事部
  • 東京地裁に提訴
  • 法廷で証言中に追及されブチ切れかけた上司
  • 「富士山にたとえるなら5合目」Y氏
  • 会社の主張は「客観的合理性なし」5度ダメ出し
  • ブルームバーグは控訴「コメントは差し控える」

「お帰り下さい。社員証も返して下さい」人事部

前回記事(2010年12月)にあるように、Y氏は05年11月からブルームバーグの記者職に従事。当時は順調に仕事をしていたが、リーマンショック後の09年4月からノルマを課せられた。それは「独自記事」(インタビューや動向分析を通した独自視点の手間暇かけた記事)年間20本、「ベスト・オブ・ザ・ウィーク」(編集局長賞に相当)年間3本というノルマだった。

このノルマ自体は何とかこなせる範囲内だったが、会社から狙い撃ちされたY氏は約半年後、突然、ノルマを倍増された挙句、ノルマ未達を責め立てられた。

さらに、「PIP(Performance Improvement Plan)」、直訳すると「成績改善計画」と呼ばれる社員教育を“偽装”した、さらなる過剰ノルマが課せられた。

PIPの文書には「今後は1週間に1本は独自記事を配信してください」、「独自記事のうち1カ月に1本はベスト・オブ・ザ・ウィークに提出できる程度の記事を求めます」とあった。独自記事が週1回ということは、年52回ペースなので、4月当初に比べ2.6倍。ベスト・オブ・ザ・ウィークにいたっては、年3本から月1本と、4倍増だ。

その後、Y氏は馬車馬のように働いたが、独自記事のノルマの本数が一本足りず、「もう一回、PIPをやれ」と言われた。

しかし、次は、独自記事は達成したが、ベスト・オブ・ザ・ウィークが足りなかった。そもそもベスト・オブ・ザ・ウィークは、東京支局の幹部がその週のナンバーワン記事を恣意的に選び、ニューヨーク本社に上げて選ばれるシステムなので、幹部たちがこいつの書いた記事は上げたくないと思えば、どんなに良い記事でも採用されない。

このような恣意的なノルマにもかかわらず、ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかったことを理由に、Y氏は人事部から慇懃無礼に「もう仕事をするための社内システムも止めてあります。もうYさんは仕事ができませんので、この場で玄関に行かれてお帰り下さい。社員証もお返しください」と言い放たれ、オフィスを締め出された。

こうして10年8月に解雇されたY氏が、東京地裁に地位保全の仮処分を申請しようとしている、というところまでを前回報じた。その後はどうだったのか――。Y氏に改めて取材した。

東京地裁に提訴

Y氏は10年12月、予定通り、東京地裁に地位保全と賃金仮払いの仮処分を申請した。しかし裁判所は、Y氏に預金があることなどを理由に仮処分に難色を示し、本訴に切り替えることを促したため、Y氏は仮処分の申し立てを取下げ、翌11年3月、ブルームバーグを相手取り、東京地裁に提訴した。

Y氏の訴えの内容は、「地位確認」と、解雇された10年9月以降の賃金として「毎月67万5千円の支払い」の2点だった。

Y氏の訴えに対し、会社側は、能力不足だったから解雇した、と主張した。具体的には以下4点を指摘した。

「1 所在不明(上司や同僚と緊密に連絡し合って協調して業務を進められない)」

「2 記者として求められるスピードで記事を配信できない」

「3 配信記事数が少ない」

「4 質の高い独自記事を配信できないという致命的な問題があり、会社側は繰り返し改善を求めてきたが、Y氏は改善する努力すらせず、改善の見込みがなかった」

裁判では、この会社の主張に対し、Y氏側が反論し、会社側がさらに反論する、といったやり取りが、書面で続いた。その後、この裁判を象徴する局面が訪れた。

法廷で証言中に追及されブチ切れかけた上司

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上司A氏の陳述書。Y氏の解雇の要因の記事を指摘して、ボロカスに批判している

「一審裁判のクライマックスは、証人尋問のときでした」とY氏は振り返る

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上司C氏の証言。上司A氏が批判するY氏の記事をほめている

上司B氏の証言。Y氏の代理人に追及されてまともに答えることができていない

一審判決。全文は記事末尾からダウンロード可

上は一審判決に対する原告弁護団の見解。下は日本新聞労働組合連合、新聞通信合同ユニオン、原告弁護団によるビラ

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2016/10/10 00:34
ブルームバーグTV2012/11/05 17:15
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