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熊本・肥後銀行員が職場で過労投身自殺し労災認定 月残業250時間、労基署が書類送検した地銀のサビ残実態

情報提供
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死亡前1か月間の労働状況。残業時間247時間43分
 熊本県の地銀「肥後銀行」の中堅行員・細川直人氏(仮名、享年40歳)は、全店のシステム更改の締切りが約100日後に迫った12年7月から急激に残業時間が増え、締切り1か月前の残業時間は247時間43分(原告調べ)にも達した。細川氏は去年10月上旬に重症のうつ病を患い、10月18日、ささいなミスに責任を感じ、遺書と妻子を残して、職場のビル7階から投身自殺。熊本労基署は13年3月12日、労災認定した。その1週間後、熊本労基署は「労使協定を上回る時間外労働をさせた」として、肥後銀と同行役員や部長ら計3人に対し、労基法違反(長時間労働)容疑で熊本地検に書類送検。遺族は先月(13年6月)、会社を相手取り、1億5千万円強の損害賠償を求め、熊本地裁に提訴した。熊本県下の企業の約6割がメインバンクとし、地元では安定した就職先として人気も高い肥後銀行の、死に至る“ブラック職場”の実態をお伝えする。
Digest
  • 残業月100時間が当たり前の職場
  • 肺気腫でタバコを絶っていたのに「吸わないと仕事ができん」
  • 些細なミスで責任を感じ自殺
  • 労災認定後、1億5千万円強の損害賠償求め提訴
  • サビ残で肥後銀の役員、部長計3人が書類送検

残業月100時間が当たり前の職場

今年6月12日、熊本県の地銀「肥後銀行」の社員が、長時間労働が原因で自殺したとして、遺族が損害賠償を求め、肥後銀行を訴えた、というニュースがあった。これは、遺族が熊本県弁護士会館で記者会見を開き、記者クラブメディアが報じたものだった。

報道によると、時間外労働は月250時間近くに達していたという。一体どういう状況だったのか? それを知るため、筆者は、遺族の代理人で過労死弁護団全国連絡会議代表幹事でもある松丸正氏に取材を申し込んだ。すると意外にも、松丸氏は「申し訳ありませんが、当事者の方のご意向により、取材には応じらせませんので、ご了承ください」という。そこで、訴状などの裁判資料に基づき事件の実態を調査した。

亡くなったのは細川直人氏(死亡時40歳、仮名)。細川氏は、95年4月に肥後銀行に入行。その後、八代支店などで働き、09年4月以降は、本店の業務統括部業務企画グループで勤務していた。

同グループの業務内容は、業務システム導入の企画、開発、IT関連業者との調整、マニュアル策定、営業店・事務集中セクションの指導など。

業務システムは、具体的には三つ。一つは、為替OCRシステム。これは営業店で振込依頼書をスキャンして事務集中セクションへ送付し、その送付されたイメージデータを文字認識して振込データを作成するシステム。

もう一つは、手形・小切手集中管理システム。これは営業店で取り扱った手形・小切手を事務集中セクションで管理するシステム。

三つ目は、営業店システム。これは営業店で事務処理を行うシステム。

細川氏は、同グループの企画役代理だった。

肥後銀行の所定労働時間は、8時30分から17時30分の週休2日制。本店業務は当初から残業が多く、細川氏は、朝は自宅を7時頃に出て、8時前後に出社し、帰宅は22~23時が多く、それより遅くなると終電やタクシーで帰宅することも少なくなかった。

このように、ただでさえ多い残業が、一層増えたのは、12年7月に入ってからだった。システム更改業務の全店展開が同年10月22日に迫っていたため、締切に追われ出したのだ。

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死亡の6か月前、5か月前の勤務状況

遺族側の資料には、細川氏のオフィスの入館記録、社内パソコンのログイン、ログアウトの記録に基づき、亡くなる前の6か月間(12年4月21日~10月17日)の、入社時刻、退社時刻、労働時間、時間外労働時間を記した表が添付されている。この入退社時間は、のちに熊本労基署でもほぼその通り認定されている。

なお、労働時間については、遺族側は昼の休憩時間(11時30分~13時30分の間の1時間)と、定時を過ぎて時間外勤務をする場合の、17時30分~17時45分の15分休憩については、昼は昼食を摂るための短時間だけの取得で、多くみても30分にとどまる、とし、15分休憩については、実際は取得していない、として計算している。

この表によると、細川氏が忙しくなる以前の時間外労働は、自殺の6か月前(4月21日~5月20日)が55時間10分。自殺の5か月前(5月21日~6月19日)が99時間39分。

この間の出退勤時間は、例えば、4月23日(月)8時6分~21時43分、5月8日(火)7時49分~22時、6月14日(木)7時51分~22時34分などで退社は早くて19時台、遅くて22時前後というリズムだった。

また、それまでは土日はきっちり休んでいたが、6月17日(土)以降、ときどき休日も仕事をするようになっていった。

なお、5月は残業時間が55時間台になっているが、GWを差し引いて考えると、細川氏は、本店異動当初から月100時間近い残業をしていたとみられる。後述のようにその大半はサービス残業だった。

肺気腫でタバコを絶っていたのに「吸わないと仕事ができん」

7月に入ってからは、労働時間に変化が表れている。7月3日(火)7時1分~22時51分、7月4日(水)7時13分~22時47分、7月5日(木)8時12分~23時17分、7月6日(金)6時29分~18時28分など、23時前後まで働いて、翌日朝早くから出社することが多くなった。通勤時間は1時間なので、0時過ぎに帰宅し、6時前には家を出ていたことになる。

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自殺の4~2か月前の勤務状況

しかも休日も、7月7日(土)8時30分~21時12分、7月15日(日)8時30分~22時22分といったふうにほぼ毎週、土日のどちらかに休日出勤するようになっていった。

自殺の4か月前(6月20日~7月19日)の時間外労働は、119時間13分。自殺の3か月前(7月20日~8月18日)は138時間41分に上った。

7月に入ってから、細川氏の様子にも異変が起きていた。細川氏は12年1月に肺気腫で入院治療を受けて以来、タバコを絶っていた。それなのに、7月に入ってから、再び吸い始めたのだ。自宅の部屋の灰皿には、吸い殻がみられるようになった。

「タバコを吸わないと仕事ができん。10月が過ぎたら止める」と細川氏は夫人に言っていたという。

また、7月からは、これまで行っていたゴルフや飲み会にも行かなくなった。

自殺の2か月前(8月19日~9月17日)はさらに忙しくなっていく

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肥後銀行事務センター(熊本市西区二本木5-1-8)。細川氏はこのビルの7階から投身自殺した

上は熊本地裁(熊本県熊本市中央区京町1-13-11)。下は熊本労基署の入る熊本第2合同庁舎(熊本市中央区大江3-1-53)

上は肥後銀行頭取の甲斐隆博氏(任期は09年6月~)。下は細川氏の自殺前6か月間の残業時間推移。労基署の調査結果でも死亡1か月前は200時間を超えていた

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