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ガーナ人男性を無理やり本国送還、機内で殺した東京入管の所業 日本人女性との結婚生活20年を引き裂く野蛮

情報提供
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在りし日のスラジュさん。日本人のA子さんと20年以上夫婦として暮らしてきたが、強制退去命令の挙句に強制送還され、入管職員多数に有形力を行使された結果、機内で死亡した(遺族提供)。
 「この今も、そして2020年を迎えても、世界有数の安全な都市・東京で大会を開けますならば、それは私どもにとって、このうえない名誉となるでありましょう」と五輪招致委員会で安倍晋三首相は訴えたそうだが、外国人にとって日本は決して「安全」な地ではない。ガーナ人男性のアブバカル=アウデウ=スラジュ(ABUBAKAR AWUDU SRAJ)さんは、来日して20年間、日本人の妻と暮らしてきたところ、不法滞在だとして強制送還命令を受け、東京入管局の職員多数によって力づくで飛行機に乗せられた挙句、機内で出発前に死亡した。享年45歳。窒息死の疑いが濃厚だが、国側(法務省入国管理局=榊原一夫局長)は「心臓病」の発作だとの珍説を持ち出し、責任はない、と言い張っている。機内で何が起きていたのか。東京地裁で係争中の国賠訴訟(平成23年ワ26874)から報告する。
Digest
  • あの日何があったのか
  • エジプト航空965便
  • 「詐病」ときめつけた
  • 9人がかりで機内に押し込む
  • 撮影が停止されたビデオカメラ
  • 機内で何があったのか
  • 抵抗はなぜやんだのか
  • 「こうやって引き寄せろ」

あの日何があったのか

「本当に何があったのか明らかになるように…これからも…みなさんの傍聴よろしくお願いします…」

今年4月30日、東京霞ヶ関の弁護士会館の一室で、参加者30人ほどの集会がもたれた。この日、東京地裁では、東京入国管理局(による強制送還中に死亡したガーナ人男性・アブバカル=アウドウ=スラジュさん―享年45歳―をめぐる国家賠償請求訴訟の口頭弁論が開かれた。その報告集会である。冒頭は原告であるスラジュさんの妻A子さん(日本国籍)が、涙ながらに語った言葉である。

会場には多数の外国人の姿もあった。A子さんの言葉はイングランド語(英語)に通訳されて伝えられ、拍手となって返された。

20年以上連れ添ってきた外国人の夫が、入管によってとらわれの身となり、ある日「死亡した」と告げられる。戻ってきたのは、解剖で切り刻まれた物言わぬ遺体。なぜ死んだのか、入管からの説明はない。

この事件を筆者はインターネットの記事をみて知った。裁判を傍聴するなどの取材をするうち、映画『サルバドル』(オリバー=ストーン監督、1986年)のラストシーンが思い出されて仕方がなくなった。次のような場面である。

※この映画は、米国人フォト・ジャーナリストのリチャード・ボイルが、エルサルバドル内戦を取材した際の自らの実体験を描いた小説を映画化したもの。

部隊は血みどろの内戦が続く中米・エルサルバドル。米国人ジャーナリスト・リチャードーボイルとともに女性マリアは脱出する。危機を抜けた安堵とともに、アメリカの砂漠地帯を長距離バスで走っていたところ、国境警備隊のパトカーがサイレンを鳴らして追いかけてきた。

 バスは停められ、警備隊員が乗り込んでくる。身分証のないマリアはバスを降ろされる。「エルサルバドルから逃げてきた。戻れば殺される」とボイルは訴えた。だがそのかいなく2人は引き裂かれ、マリアはパトカーでいずこへとも知らず連れていかれる。

国境と国家権力が非情にも人間の幸せを奪うという点でみれば、スラジュさんの事件も同じではないだろうか。エンディングの字幕によれば、マリアはその後、小さな子どもとともにグアテマラ国境の難民キャンプに収容されたという。一方のスラジュさんは命を落としてしまった。取り返しのつかない最悪の結末である。

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旅行客でにぎわう成田空港。2010年3月22日午後3時ごろ、スラジュさんは妻に連絡することもできないまま、カイロ行きの飛行機に乗せられ、死亡した。妻A子さんが夫の死を知ったのは夜だった。説明を求めてきたが説明らしい説明はなかった。

エジプト航空965便

本論に入りたい。事件は2010年3月22日午後3時前、成田空港93番スポットに駐機中だったエジプト航空965便カイロ行きの飛行機の中で、出発の前に発生した。

東京入管職員の供述によれば、機体右側の最後部窓側に座っていたスラジュさんの様子がおかしいことに、飛行機の乗務員が気づいた。そして、近くにいた入管職員にこう尋ねたという。

「(スラジュ氏が)先刻まで強く抵抗していたのに、なぜ急におとなしくなったんだ? 薬でも飲ませたのか?」

 これに対して、入管職員は次のように答えた。

 「薬を飲ませたわけではない」

スラジュ氏は目を閉じ、ぐったりと窓に頭をもたげていた。このとき機内には3人の入管職員がいた。リーダーの星公久、白藤友哉、東川健二の各氏だ。うち白藤、東川の2人は、ガーナまで同行する予定だった。当初機内には、計9人の入管職員がいたが、出発をひかえ、6人はすでに機外に出ていた。

後に詳しく述べるとおり、入管法違反(不法滞在)で東京入管横浜支局に拘留中だったスラジュ氏は、この日、国籍地のガーナに強制送還されるため成田空港に連行、無理やり飛行機に乗せられたのだ。

薬を飲ませていない旨伝えたものの、エジプト航空スタッフの不審は解消されなかった。スラジュさんの様子を確かめるために別のスタッフもやってきた。現場にいた白藤氏が次のように供述している。

〈…保安員(エジプト航空のスタッフ)が来て 「少し状態がおかしいのではないか」と指摘するので、確かに常態ではない感じがして、頭を何度か叩きましたが反応がなく、何度か「アブバカル」と呼びかけをしましたが、これにも何ら反応がありませんでした。そのため、手首で脈を取ろうと試みましたが、脈も取れませんでした〉

呼びかけにも皮膚刺激にも反応がない。脈も確認できない。驚いたことに、それにもかかわらず、救護措置がとられた形跡はない。「詐病」――すなわち、寝たふりをしている、と考えたのだという。

 〈身柄を機内から下ろしましたが、本人の反応が何らないことから、本職は詐病ではないかとの疑いを持っておりました〉

リーダーの星氏はそのように供述している。

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裁判の後で開かれた支援者向けの報告集会。「本当に何があったのか明らかになるように…これからも…みなさんの傍聴よろしくお願いします」と涙ながらに訴えた。

「詐病」ときめつけた

 ぐったりとしたスラジュさんと、それを放置し続ける東京入管の職員を前に、やがてエジプト航空の職員が告げる。  「搭乗拒否」

午後2時50分。東京入管職員らは「搭乗拒否」の宣告を素直に受け入れている。「詐病」ときめつけている一方で、釈明はしていない。いささか不自然な印象は拭えない。

さて、エジプト航空から搭乗拒否を告げられた星氏は、部下に対して「オフロード」(機外に出すこと)を命じた。命令によって、機外で待機中だった6人の職員が、再び機内に入ってくる。そして、スラジュさんを抱えて運びだした。

スラジュさんは終始ぐったりしていたという。両手は石油樹脂製の結束バンドで縛られたままだった。そしてマイクロバスに乗せると、第2ターミナルへ向けて走りだした。入管の支局が入っている建物だが、医療施設もある。

詐病と考えたが、念のためクリニック(医療施設)に向った、とも星氏は述べている。

 ことの重大さに気がついたのは、車が走りだした後のことである。

 「息をしていない」

ひとりの職員がそう言ったのがきっかけだった。心臓マッサージと人口呼吸がはじまった

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東京入管による検証写真の再現イラスト。①横浜の入管施設から連行されるスラジュさん。②うつ伏せに抱えられてパニックゲートを入る。③抱えられた状態で口をふさがれた様子(下から撮影)。④イスに押し付けられた様子。⑤猿ぐつわをされた様子。⑥体を下方に押さえられた様子。⑦結束バンドで両手とベルトを結んだ状態。――手首には手錠カバーがつけられている。、

入管職員の河端氏がスラジュ氏の背後から猿ぐつわをする様子(想像図)。当初手で頭と顎を押さえていた(左)。タオルで猿ぐつわを試みるが、手錠をした手で抵抗されたという(右)。

スラジュさんの座席付近の様子(想像図)。着座直後、背もたれが後ろに倒れた(左)。大勢で取り押さえて猿ぐつわをした。その後、右(窓側)にいた東川氏がスラジュさんの頭部を引き寄せ、足の間に落としこんだ。格闘技の技が「決まった」ようにスラジュさんは静かになったという。

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ブーゲンビリア2013/09/13 17:24
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