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ニッポン放送買収で語られない重要な論点

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 『FLASH』にも話したことだが、ライブドアが50%超の株式を取得したことで、あまり書かれていないが重要と思われることが2点ある。1つは今回ほぼ獲得されることになった「記者クラブ権」と「放送免許」という利権についての認識であり、もう1つは「お家騒動」についての理解である。
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  • “身分制度”に風穴
  • お家騒動は社内株主制にしただけでは防げない

“身分制度”に風穴

第一に、これまで一部の既得権者のみしか手にすることができなかった「記者クラブのメンバー権」と「放送免許」が、外部の人間の手に渡ったことだ。これらは従来、カネでは買えない身分制度のようなものだったが、堀江氏は間隙を突いて「カネで買えないものはない」を実践したのである。切込隊長としての役割は賞賛に値する。


記者クラブのメンバー権がどのくらいウマ味のある利権かを示す例を挙げると、国税庁が98年5月18日に公示した高額納税者の資料を外部に漏洩したとして、日本経済新聞社会部の記者が、事実上の解雇処分(依願退職)になっている。

彼が何をしたのかというと、5月18日の「縛り」付きで記者クラブ員だけに事前に配布されていた高額納税者リストを、写真週刊誌「フライデー」の記者に流し、公示前に掲載されてしまったのである。縛りというのは、要するにその日付までは知っていても書くな、ということで、そうした重大な“村の掟”を破ったという訳で、退職に追い込まれてしまった。

一部の利権団体にだけ事前に情報を流すことが法の下の平等に反することは明らかであるが、既存のマスコミというのは、こうした“生贄”を出してでも、とにかく利権を守りたいのである。ライブドアに、この利権を徹底的に使い倒すだけの知恵があれば、彼らの利益にもなるし、メディアの改革も進むだろう。縛りがあってもネットで流してしまえば良いし、それを咎められたら、法の下の平等を掲げて戦えば、国民を味方に付けられる。


「放送免許」は、同様に言わずと知れた既得権だ。地上波(テレビ・ラジオ)というのは既に物理的に空きがなく、デジタル化移行期を控えて電波のやりくりをするため、ほぼ100%、新規参入ができない。

限られたCM枠を、企業が皆で取り合う構図なので、黙っていても儲かる。それだけに利益率が高く、社員の人件費もべらぼうに高いから、それを適正水準に下げるだけで会社に利益が出るという、経営者にとっておいしい業界だ。

下請けをコキ使って社員が儲ける構図なので、優秀な人材は下請け企業の中に沢山いる。だから、社員がライブドアの経営に反対するなら、社員を半分くらいクビにして、より優秀な人材をいくらでも調達できることは間違いない。

立花隆氏の連載「メディア・ソシオ-ポリティクス」によれば、メーカーや小売業とは異なり、メディアは人の代替が難しいという。

『しかし、メディアの場合は、そうはいかない。それは簡単には代替がきかない技量を持った人々の集まりである。企業の本体部分は、そのような技量の集積そのものの中にあるといってよい。つまり人を替えたら、同じものができないのである。違うものができてしまう。』(「敵対的買収でメディアは乗っ取れない」より)

これは違う。新聞はともかく、特に放送業界の場合は違う。新聞は新聞記者はほぼ100%自社の社員記者だが、放送(テレビ・ラジオ)における正社員というのは、電波管理者みたいな存在であり、現場は番組をほとんど丸投げしている率が高い。本当に技量が集積されているのは、下請けの番組制作会社なのだ。

従って、より安いコストで高品質な番組を作れることは、ほぼ間違いない。特にラジオ番組の場合は、番組作りの中心は、テリー伊藤やナインティナインといったタレントやパーソナリティーであって、社員ではない。社員が誰であろうと、タレントに魅力があれば聴く人は聴くし、スポンサーも付くのだ。

従って、今回の買収でニッポン放送社内で一番ビクビクしているのは、年収1500万円以上貰っている50歳目前くらいの社員だろう。これだけ騒がれたから、堀江氏もすぐにリストラはできない。人事制度改革というのは、だいたい3年は移行措置がある。よって、既に50代の社員は何とか逃げ切れる。40代後半から50歳くらいで実力が自他共にないと認める社員たちは、内心冷や冷やだ。

逆に、経営者にとっては、放送免許に守られた業界というのは、それほどおいしい、簡単に利益が出る、ということなのである。

とにかく、これら既得権を奪うチャンスは、今回が最初で最後だろう。もう2度とメディアを乗っ取り、利権を手にすることは誰にもできないのだから、堀江氏は絶対に株を売るべきではない。


お家騒動は社内株主制にしただけでは防げない

第二に指摘しておきたいのは、今回の買収劇でクローズアップされた、メディアの「お家騒動」防止についての議論である。ここからは、主に前出の立花氏のWEBの連載が相当読まれているらしいので、それをもとに展開する。

立花氏はニッポン放送の例や朝日新聞、ル・モンドの例をあげ、「志がちがう人が、ただ金があるからという理由で言論機関に乗っ取りをかけてくる時、それに対して身を守ろうと思うなら、はじめから社員株主会が独占的に株を持つ制度にしてしまうのがいちばんということだ」と述べ、「日本の場合は毎日新聞がそういう制度になっている。朝日も早くからそうなっていれば、あれほど見苦しいお家騒動は起きなかったろうし、フジ産経グループにしても、今回のような騒ぎが起こることはなかったわけだ。」と論じる。

ここであえて日経新聞に触れていないのは、その子会社である日経BP上での連載であるからだろうが、重要なことなので指摘しておく。日経新聞は、まさに立花氏ご推薦の「社員株主会が独占的に株を持つ制度」にほぼ近い会社だ。しかし、それでも毎年のように「お家騒動」は起きている。しかも、より陰湿な形で社内抗争が起きている。

日刊新聞を発行する新聞社は、商法の特例で株式の譲渡制限が認められ、議決権のある全株式を、社員とその関係者(OBなど)だけで持つことが許されている。これを“悪用”しているのが日経で、確かに社内ではあるが、実際には部長クラス以上が大多数を持っているために、どんな株主提案でも否決できてしまい、北朝鮮のような体制が出来上がってしまったのだ。

実際、鶴田元社長とともに特定クラブに多額の交際費を払い会社を私物化した責任などで、島田常務が株主より取締役解任の提案を受けたが、2004年3月の株主総会では、賛成9%で否決されている。同総会では相談役制度の廃止を求める議案も賛成13%にとどまり否決されている。2005年3月の株主総会でも、社外監査役候補に佐高信氏を推す議案への賛成票が6.6%にとどまり、大差で否決されている。

いずれも、会社再生の方向として客観的に望ましいものばかりで、かつ日経自身が社説で主張していることばかりであるが、とにかく経営陣の意向に沿わない議案は、株数の関係で通らないのだから、ほとんどコーポレートガバナンスは崩壊していると言って良い。これは見方によっては、最悪の独裁政権だ。

立花氏はこの最近起きている重要な事例にだけはなぜか触れないのだが、社外から守れても、社内が独裁になっては意味がないし、オープンでないだけに、より陰湿である。

各年代、各階層の社員に一定比率の株を持たせるか、むしろ社外に一定の門戸を開き、情報公開をして株式を一定比率持ってもらい、社外取締役らに監視して貰うほうが、よほど健全な企業統治が可能となるはずである。

立花氏は「このページの主要な課題の一つは、現代社会のメディアのかかえる問題点をさまざまな角度から斬っていくことにある」としているが、メディアがかかえる問題点の1つは、このように、メディア自身を批判できないことだ。立花氏でさえ日経に触れない。この連載は、日経BPというビジネスマンを読者に想定したメディアであるにもかかわらず、だ。「書かないこと」によって議論が歪められては本末転倒であろう。


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