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海自輸送艦「おおすみ」衝突事故5年目の真相 海自の責任を不問にした奇妙な「釣り船が急に右転」主因説(上)

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写真上:地震の救援活動で北海道に向かう海上自衛隊輸送艦「おおすみ」(全長178㍍、自衛隊宮城地方協力本部のツイッターより)/写真中:2014年1月に「おおすみ」と衝突し、転覆して船長ら2人が死亡した釣り船「とびうお」(全長7・6㍍)/写真下:模型を使った大きさの比較。
 本来国民を守るはずの自衛隊が、国民2人を死亡させ責任をとらないとしたら、存在意義に関わる大問題となる。2014年1月15日の朝、広島沖の瀬戸内海上で、小型の釣り船「とびうお」(全長7・6㍍、5㌧未満)と、全長がその23倍にあたる海上自衛隊の護衛艦「おおすみ」(全長178㍍、基準排水量8900㌧)が衝突する事故がおきた。「とびうお」は転覆し、乗員4人が真冬の海に投げ出され船長ら2人が水死。「おおすみ」が「とびうお」の後方から追いつく形で起きた事故で、常識的に“追突”が疑われた。しかし国交省運輸安全委員会と海自は、いずれも「釣り船が急に右転して自衛艦に突っ込んだ」と結論づけ、「おおすみ」の責任を実質不問にした。唐突に出てきた「とびうお右転説」に生還者や遺族らは「右転などしていない。する理由もない」と当惑、防衛省(国)を相手どって国賠訴訟を起こした。はたして、審理のなかでは、数々の疑問が出てきた。「とびうお右転」は事実なのか、本当に自衛艦に責任はなかったのか――事件を検証する。
Digest
  • 真冬の海で起きた惨劇
  • 「汽笛を聞いて海を見ると衝突後だった」 
  • 「おおすみが右後方から接近」と生還者
  • 奇妙な目撃証言
  • 一変した報道のトーン
  • とびうおの航跡をどうやって特定したのか
  • 「とびうお」は右転した--国交省報告に驚愕

真冬の海で起きた惨劇

2014年1月15日水曜日の早朝の出来事だった。この日、山口県岩国市に近い阿多田島(広島県大竹市)付近の瀬戸内海は、快晴、無風、視界良好で、メバルを釣るには格好の条件だった。大事故が起きたのは午前8時ごろ。海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(全長178㍍、基準排水量8900㌧)と釣り船「とびうお」(全長7.6㍍、5㌧未満)が衝突、「とびうお」が転覆したのだ。乗っていた4人が真冬の海に投げ出され、救出されたものの船長ら2人が水死した。

「おおすみ」は定期検査のため午前6時すぎに海上自衛隊呉基地を出航、岡山県の玉野造船所に向かう途中だった。一方の「とびうお」は、釣り仲間が連れ合って午前7時ごろに広島港を出航、甲島沖の釣り場に向かっていた。甲島は事故の起きた阿多島付近から南に7-8㌔先にあり、島の近くはよく釣れることで知られている。「とびうお」はあと15分から20分でこの目的地に到着するというところで遭難した。

釣りを楽しむはずだった穏やかな海は、一転して重苦しさに包まれた。 

筆者の経験則だが、一定の時間が経過した後に事故や事件を検証する際、発生直後に収集されたり報じられた情報は重要だ。捏造したり意図的な誘導をする時間的余裕がすくない。

この考えに従って、まず事故発生直後の新聞各紙をみていこう。

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事故の発生を大きく伝える新聞各紙。

「汽笛を聞いて海を見ると衝突後だった」 

2014年1月15日夕刊と翌1月16日の朝刊各紙(朝日、毎日、読売、中国、山陽、日経)は軒並み1面トップで事故を大きく伝えている。内容は次のとおり。

【第6管区海上保安部情報】

・第6管区海上保安部 8時1分、おおすみから「接近した際に船が転覆した。接触は確認していない」と無線連絡があった。

・おおすみ左舷後部に接触痕を確認。とびうお右舷に傷。 

・両船は同じ方向に進んでいたとうかがえる。

新聞記者のルーティンの仕事として、各役所への問い合わせがある。今回の事故の場合、現場海域を管轄する第6管区海上保安部が重要な情報源となる。各紙が伝えた上の各事実は、海保に問い合わせた結果だろう。

 海保情報の次は目撃情報である。新聞はどう伝えたか。

現場は阿多田島の東沖約1~1.5㌔の海上だった。記事によれば、汽笛に気づいて何人もの人が海を見たことがわかる。記者らが独自に島を訪れて探したり、電話で取材した結果だろう。

【目撃情報】

・午前8時ごろ警笛が鳴り、職員が双眼鏡で見たところ、沖合500㍍※ほどのところで小さな船がひっくりかえり、船底が見えた。そばに海上自衛隊の船があった。(阿多田島漁協参事)

 ※じっさいは1㌔から1・5㌔㍍の距離があった。

・事務所で大きな汽笛を2回聞いた。沖合を見ると自衛艦とみられる灰色の大型船が見えた。(漁協の女性職員59歳)

・午前8時ごろ、自宅で汽笛を5回聞いた。海を見ると、自衛艦が海上に止まっていた。(水産会社女性従業員34歳)

・自宅で自衛艦の汽笛を複数回聴き、海上で船が転覆しているのに気づいた。(浮き桟橋の補修工事をしていた男性34歳)

・汽笛を聞いた。(海を見ると)自衛艦のすぐそばに黒い何かが見えた。工事作業員を乗せて船を出した。約2キロ先にクーラーボックスにつかまって浮いている人がいたので救助した。(浮き桟橋工事の警戒船を出していた男性76歳)

これらの目撃証言に共通しているのは、(「おおすみ」が5回鳴らした)汽笛を聞いてすぐに海を見た点、そして、彼らが海に目をやったときはすでに衝突が起きた後だったという点である。また、転覆した釣り船は肉眼で見にくかった様子も一致している。

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「おおすみ」と「とびうお」の推定航跡(国土交通省運輸安全委員会の報告書より)。

「おおすみが右後方から接近」と生還者

1月15日の各新聞の夕刊と同16日朝刊を引き続き見ていく。

事故の状況を知る上で重要な情報が、事故翌朝の16日朝刊という早い段階で明らかになっている。釣り船「とびうお」に乗っていた生還者Tさんの証言だ。事故当日15日の夜、新聞記者のインタビューに応じて、およそ次の内容を語っている

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「とびうお」生還者の証言にもとづいて新聞が作成・報道した事故発生時の両船の航跡。先行する「とびうお」に「おおすみ」が追突したとの見方が有力だった。

「とびうお」が先行していたという生還者の証言とまったく逆の、「おおすみ」に後ろから「とびうお」が衝突した可能性が強いと報じた2月14日の中国新聞。海上保安部の見解を根拠にしたとみられる。写真下は、「とびうお」が「おおすみ」に追突したとされる状況を模型で再現した。

事故から1年後に公表された国交省運輸安全委の調査報告書。先行していたのは「とびうお」で、後方から「おおすみ」が17ノットという高速で接近していたと断定した。しかし、事故の原因は、衝突直前に「とびうお」が急に右に曲がったためだとして、事故の主因は「とびうお」にあると結論づけた。これに対して生還者らは「右転などしていない」と強い疑問を抱いた。写真下は、運輸安全委の結論に従った事故の状況を模型で再現したもの。

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読者コメント

 2018/09/26 20:35
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記事タイトルを「4年目」→「5年目」に修正いたしました(2018年10月2日修正済み)
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