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デジタル化で流通・小売業の職場はどう変わるのか――ポイントキャスティングが百発百中で伸ばす売上&利益

情報提供
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産業別労組リーダー向け基調講演@都内TKPの会場(感染対策でアクリル&広い会場)+ZOOM参加
 右上の「デジタルケンタウロス」に位置する職種の人たちは、仕事の質が変わります。ビッグデータとAIを使いこなしつつ、人間ならではの創造力・感情力・信用力を駆使して、半人半馬ならぬ“半人半AI”の戦い方ができなければ成果をあげるのが難しくなっていきます。かつての伊勢丹・藤巻幸大さんのような、鋭い勘や創造力に基づくカリスマバイヤーではなく、ビッグデータに仮説をぶつけて検証を重ねていく、理詰めの人間バイヤー、AIマーケッター、が活躍する時代になるでしょう。
Digest
  • コード決済デジタル決済とポイントカードが紐づく
  • 百発百中のマーケ施策「ポイントキャスティング」
  • メーカーも流通小売も潤うAI分析からの売上増施策
  • なぜ「値引き」しか能がないのか、なぜやらないのか
  • 需要予測、在庫最適化、自動発注…
  • 「オランダ最大手 VS 日本最大手」スーパーのアプリ比較
  • 労働分配率:「くら寿司でも年収450万円」問題
  • 「人間が売上増につながる」武器が必要
  • リアル+EC+フィンテック、どこでキャリアを積むか
  • 女性リーダーは「売上増」「労働環境整備」で戦力増強を
※資料は末尾にてPDFダウンロード可

(前半:EC化率50%時代の「職人プレミアム」な仕事――に続く)

コード決済デジタル決済とポイントカードが紐づく

従来は、顧客のおおまかな属性(30代、男性など)と個別の商品を紐付けることで、この店の利用客層は40代女性で購入単価はこのくらいだから、この商品ラインナップで行きましょう、などと商品展開を決めていました。これは保険業界や銀行の融資審査と同じ発想で、昭和の限界。より細分化された個人情報に基づく「テレマティクス保険」「テレマティクス融資」(※アリペイの胡麻信用等)の時代になるように、AI時代はマーケティングもテレマティクス化します。

セブンイレブンは、私も学生時代にレジのバイトをやったことがありますが、現在に至るまで、客の年齢と性別を「見た目」という超アナログ情報から判断して、店舗スタッフがレジのエンターキーを押すことで判断しています。12歳以下、19歳以下、29歳以下、49歳以下、50歳以上の5種類。これが男女別なので、ボタンが10個もあり、自分が買い物したときに会計で見ていると、「29歳以下の女性」ボタンを押していたりして、実にいい加減なもんだな、と思ったことがあります。これがバーコードに紐付いた「POSデータ」とリンクして、分析対象になります。

数年前にローソンを取材したとき、「客層ボタンは廃止しました、『PONTAカード』が普及して利用者の過半を占めるようになり、そちらでほぼ同じ情報を把握できるようになりましたから」と聞いて、この分野はローソン進んでるよな、と思いました。スマホレジもローソンが先駆者で、これはかなりグローバルでも最先端なのは間違いない、と欧州のいくつかの国(オランダ・ドイツ・イタリア=2018、2019年)の小売業を見て思った次第です。

ファミマも同様にレジキー方式を廃止し、『Tカード』による情報取得に移行した、とのこと。セブンが移行できないのは、「7iD」や、それと紐付いた電子マネー『nanaco』の普及率がまだ低いためで、アプリ「セブンペイ」での個人情報流出事件などが影響していると見られますが、すぐに追いつくでしょう。

現在、「いつ誰がどこで何を買ったか」は、ポイントカードに登録した個人情報ベースで、そのカードを決済時に提示した流通・小売業者(複数)に筒抜けになっており、消費者は、自らの購買履歴というマーケティングデータを全て提供する変わりに、ポイントが付与される形で多少の割引を受ける、という取引関係になっています。「ポイント5倍デー」に釣られて沢山買い物をする客は、ずいぶん価格弾力性が高いヤツだ(=価格に敏感)と認識され、そういう消費性向といった性格的な情報も同時に蓄積されているわけです。

日本人はポイントカードが大好きな国民性で、その普及率は世界一とも言われますが、これがスマホの「コード決済」「デジタル決済」とひも付きつつあるのが現状です。これで何が変わるかというと、「事業者側から利用者個人のスマホやPCにプッシュで連絡できるようになる」ということです。双方向性が高まります。

百発百中のマーケ施策「ポイントキャスティング」

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nanacoチャージ&決済履歴

たとえば私のnanacoの履歴は左記のとおりで、それぞれにレシートが紐付き、何をどこで買ったかまで、全ての購買履歴についてセブン側は把握しているわけです。もちろん氏名・性別・生年月日や連絡先も登録しています。

これに対して私は、0.5%程度というごくわずかの割引を受けているだけ。これは非常に不満で、ロイヤルティーは、いまいち高くありません。

なぜなら、当然やるべき仕事を、セブン側がしてくれていないからです。たとえば私は、一部のセブンの棚にある『イノセント』(欧州トップブランドのスムージー)を、必ず買います。必ず、です。ほぼ2本以上を買います。家に帰る直前なら、重いのが面倒なので本当はもっと買いたいですが、3~4本に抑えて買います。日本では、他にまともなジュースがほとんど流通していないためです(濃縮還元ばかり)。スムージーに至っては流通ゼロですから。

このブランドは、感覚的に、現在、全体の1~2割のセブンにしか入っていません。大都市の駅前にあるセブンや、大企業のオフィスが入居しているような都心ビジネス街のセブンには、けっこうあります。一方で、住宅地のセブンには、ほとんどありません。もちろん、客層が違うからです。店の場所によって、商品ラインナップを変えている。これはPOSデータ分析の成果でしょう。

イノセントスムージー定番3種

ところが、普通のビジネスマンは、昼間は都心で働き、夜は自宅に帰って住宅地にいるわけで、どちらのセブンも利用するわけです。私の個人POSデータをAIが分析すれば、①「商品A(イノセントのこと)が入っている店では100%必ず商品Aを買っている、しかも複数買うことが多い」という特徴量(特徴的な行動パターン)を、一発で導きだせます。そして、②「もっとも頻繁に訪れている推定《自宅近くの地元セブン=住宅街》では商品Aを買った履歴がない」こともわかります。入荷しないから買えていないことが一目瞭然となります。

この2つの特徴を併せ持った購買履歴を持つ顧客(私)に、「地元セブンでも商品Aを買いませんか?飲料だから重いですよね、ぜひ《近くて便利》なセブンにお任せください!普段はこの店では取り扱いがありませんが、10本から取り置きを承ります」と、いつも見ているセブンIDのPC画面(nanacoにチャージする際に必ず見る)や、スマホのセブンアプリに案内が来たら、もう120%買うわけです。即時ネット決済です。当り前です。いつも、あれば必ず買う商品、なのだから。百発百中のマーケティング施策となります。

1本300円なので、10本で3千円です。コンビニのオーナーは売上げが増えて嬉しいですよね。メーカーも嬉しいですよね。私も近くで買えて超嬉しいですし、セブン本部もFCからの上納金が増えて嬉しいですよね。日本経済はGDPが上がって成長します。単価が高い商品が指名買いで売れると、確実にデフレ脱却につながるでしょう。5方よし、全員ハッピーな、最高のマーケティング施策じゃないですか。私がセブンの社長なら、明日からやらせますよ。

ビッグデータは、ある。あとは、それをAIに分析させる「使い手」がいれば、このような「特徴量」の抽出は、自動的に、全顧客に対して、できるわけです。ただ、AIに指示する人間は必要です。行動経済学のような知識をもとに、人間はどういう消費行動をとるだろうか?という仮説を考えて施策につなげるのは、人間です。だから、デジタルケンタウロス=半人半馬、人間の頭脳とAIの身体の融合、が必要なんです。

これが、「ポイントキャスティング」です。個人に対して、個別最適な提案を行う。これまで百貨店の外商が富裕層に対してやっていたようなことを、AI時代には、個別に全利用者に対して、できてしまう。夢のような、SFの世界ですよね

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AI時代に人間が価値を出せる仕事とは(マーケ、商品企画、販促、仕入れ)

ポイントとアプリの活用:オランダ最大手VS日本最大手

労組がやるべきこと①

労組がやるべきこと②

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