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トヨタ系列「光洋シーリングテクノ」で偽装請負 下請けに単価切下げ利益吸い上げる構造

情報提供
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光洋シーリングテクノにおける偽装請負を告発し、2004年9月に労働組合を結成した矢部浩史さん。今年6月からは、他企業の非正規社員とともに「偽装請負を内部告発する非正規ネット」を立ち上げ、厚労省にも直接交渉を行っている。工場内は40度にもなる高温下のためTシャツが作業着となる。
 トヨタ本社ではいまだ発覚していない偽装請負だが、トヨタ系列の自動車部品メーカーである光洋シーリングテクノでは、2004年から偽装請負を巡る闘いが始まっていた。そこで働く請負労働者は2004年9月に労組を結成し、解雇通告などをはね返しながら、2006年9月には59人が直接雇用(6ヶ月契約の契約社員)を獲得。当初から偽装請負を見抜き、組合結成の先頭に立ってきた矢部浩史さん(42歳)に、下請けの偽装請負を生むトヨタグループの利益吸い上げ構造を聞いた。
Digest
  • 偽装請負を自覚し闘う労組に加入
  • 偽装でなければ儲からないと請負会社が撤退
  • 労働局の不適切な指導で大混乱に
  • 直接雇用を勝ち取るもストを敢行
  • トヨタの利益吸い上げが偽装請負を生む
  • 偽装請負告発者が連帯する「非正規ネット」
 光洋シーリングテクノは、徳島県徳島市に隣接する藍住町にあり、トヨタの子会社であるジェイテクト(2006年1月に豊田工機と光洋精工が合併)の100%子会社として、変速機の油圧を調整するピストンシールを主力製品としている。その製品がアイシン精機のトランスミッションに使われ、ほぼ全てのトヨタ車で採用されている。

偽装請負を自覚し闘う労組に加入

 矢部浩史さんは地元徳島の出身で、請負会社のダイテック(その後コラボレート)で働いていた友人に誘われ、光洋シーリングテクノで働くことを条件にダイテックの面接を受けて2000年の夏に入社し、今年で勤続7年になる。
矢部浩史さん(以下、矢部)「仕事は二交代制で、A班、B班に分かれ、午前7時から午後2時51分までの早出と、午後2時39分から午後10時30分までの遅出があります。遅出には3時間から5時間の残業があり、終わるのが午前4時前になる人もいます。休憩時間以外はずっと立ちっぱなしの作業です。シフトは1週間交代で、土日または日曜が休みとなります。


 入社以来ずっと、オートマチックトランスミッション用ボンデッドピストンシール(右記写真)という、トランスミッションの中で変速ギアを油圧で自動的に動かすための部品を作っています。エスティマ、カローラなど、トヨタのほとんどのオートマチック車に使われている製品です。

 金属環を90センチ四方の金型に10個前後セットしてプレス機で接合すると、高熱と圧力で製品ができます。プレス機の温度は約180度くらいあり、職場の室温は今日計ったら38度。これが真夏になると40度を超えます。打っている時はバリやゴミを掃除するために頭を上と下の間に突っ込むので、実際はもっと高温にさらされています。うちの係長も一度熱中症で倒れました。

 プレス機を一回押さえるのが1プレスといい、一工程は7分前後です。ゴムが漏れていたりバリが出ていたら、鋏やT字カミソリの刃で削ります。日によって条件が変わるので、それにあわせて機械の微調整をしなければいけません。

 ゴムを入れるのにコツがいるし、製品は検査、現品票を入れて梱包まで全て自分で行います。1人が1台の機械を受け持ち、40種類以上ある中からその日により違う型番を扱い、1人で全部仕上げなければいけません。マニュアル通りにボタンを押すだけの仕事では良い製品はできません。

 正社員でも1時間に7回プレス程度ですが、僕は最高で9回打ち、機械の微調整やトラブル時の修理も任されていました。この仕事で僕の右に出るものはいません。でも、いくら一生懸命働いても、正社員と違って、時給は1円も上がらない。年収は同世代の正社員の3分の1です。

 いろいろ調べるうちに、龍谷大学の脇田滋先生のホームページを読んで、僕らの働き方は偽装請負で、労働者派遣法違反だというのがわかってきました。そして、ダイテックよりも光洋シーリングテクノの方がより悪いのでは、と思いだしました。

 でも、職場の労組(連合系)や労働局にも相談しましたが、どこも力になってくれません。そこで、闘う労働組合が地元にないかとホームページを探して、2004年の9月に全日本金属情報機器労働組合(略称JMIU)に連絡しました」

■偽装請負
 本来の請負は仕事を請け負った業者がその責任で仕上げ納品するが、実態は派遣なのに請負という形をとって働かせる脱法行為が偽装請負だ。労働者派遣法により、派遣労働者は2007年2月末までは1年、それ以降は3年を越えて勤務した場合、派遣先企業はその派遣労働者を直接雇用する責任を負う。その責任を免れながら長期間働かせることを狙いとして、キヤノン、松下などの大企業が偽装請負を行ない、不当な利益をあげてきた。

 矢部さんから連絡を受けたJMIU徳島地方本部執行委員長の森口英昭さん(以下、森口)は、矢部さんに労働組合を作ることをすすめた。
森口「偽装請負を告発する闘いでは、労働者から相談を受けるとすぐに労働局に申告して、企業がその場では直接雇用したとしても、契約は3ヶ月で終わりです、という雇い止めをされて労働者が失業する可能性が十分にあります。実質的な直接雇用を実現するには、会社の中に労働組合を作って、会社に一定の影響力を持っていくことが重要だと考えました」
 その2日後には、請負会社ダイテックとマイオールに所属する労働者が集まり、それぞれがJMIU徳島地域支部にダイテック分会とマイオール分会として加入し、ダイテックとマイオールに対して給与の改善などを要求した。

偽装でなければ儲からないと請負会社が撤退

 2005年3月には、矢部さんたちはダイテックとの団体交渉で、入社3年以上の労働者は時給を30円、2年以上は20円、1年以上は10円のアップを勝ち取った。そして、12月9日には、労組員30名が厚生労働大臣並びに徳島労働局長に対し、光洋シーリングテクノへの直接雇用の要求を含めた「雇入及び雇用契約申込」の指導、助言及び勧告を求める申し入れを行った。

 これに対し、コラボレート(前のダイテック)は12月28日に、2006年1月末で矢部さんたちとの雇用契約を終了すると通知。解雇通告自体は後日撤回されたが、12月29日には、コラボレート自体の光洋シーリングテクノからの撤退を通知してきた。
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徳島中央公園から臨むスタッフクリエイト社屋。矢部さんたち労組員は、撤退したコラボレートからスタッフクリエイトに移籍した。
森口「後になって、コラボレートが2006年10月に業務請負全体から撤退するときにコラボレートの法務対策担当と電話で話した際に聞いた話なのですが、『偽装請負だから儲かるけど、ほんまに自分のところで全部責任持ってやる業務請負だったら、今の賃金は払えん。だからもう、うちは派遣やったらするけど、業務請負やったらできまへん』と言っていました」

 契約が派遣のままの偽装請負であれば請負会社も利益を得ることができるが、業務請負で必要な管理者や有休要員を自社の負担で配置するとなれば、利益を出せなくなる請負会社の本音

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上から■社外工問題矢部さんたちの偽装請負是正の申し入れを受けた光洋シーリングはその対応に迫られて対策を立てたが、その内容はアリバイ的なものに過ぎない。■労働契約書■労働局申告書2005年12月9日、矢部さんたち偽装請負の労働者30名は、厚生労働大臣並びに徳島労働局長に対し、「雇入及び雇用契約申込」の指導、助言及び勧告を求める申し立てを行った。■雇用契約終了の通知書請負会社コラボレートに所属していた矢部さんは、3ヶ月ごとに契約を更新していたが、違法な偽装請負の是正を要求されたコラボレートは、「それでは利益が出ない」という理由で撤退を決定し、矢部さんたちにも通知書を送ってきた。■契約社員労働契約書粘り強い交渉の末、矢部さんたち労組員全員が別の請負会社「スタッフクリエイト」に移籍が決定。2006年9月には、ついに59人が光洋シーリングテクノとの直接契約(契約社員)を結び、正規雇用を勝ち取った。直接雇用後6ヶ月が過ぎての初めての更新時に交わした文書。

■給与明細(上)スタッフクリエイトでの2006年4月の給与明細。この頃から、テレビ局や新聞社の取材が相次ぐようになった。(下)光洋シーリングテクノに直接雇用されてからの矢部さんの給与明細。契約社員とはいえ、まだまだ低賃金が続いている。今年11月に正社員登用への試験が予定されているが、会社側が約束を守って正規雇用するかどうかは予断を許さない。

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きき耳2008/02/01 02:51
オペレーター2008/02/01 02:51
大京労働組合2008/02/01 02:51
オペレーター2008/02/01 02:51
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