「デフレ下で駅売り14%も値上げ」の意味
|
米国では2007年、2008年と値上げラッシュがあった。
|
米国の高級紙が値上げに踏み切ったのが2007年。同じことが2年のタイムラグを置いて日本で起きている。佐々木俊尚さんが『2011年新聞・テレビ消滅』(文春新書)で書いているとおりの展開、消滅へのカウントダウン。90年代後半の長銀とか日債銀とダブりますね。消えるのは業界の人はみんな分かっていて、あとは時間の問題、どんな潰れ方するんだろう?みたいな。
日経は300万部のうちの約1割と、駅(コンビニ)売り比率が全国紙のなかではもっとも高いので、「宅配命」の他紙に比べ、20円も値上げしたら、瞬間的には、習慣で買っちゃってるバカリーマンも多いから、一時的な増収効果は見込める。
ただ、物価が下がり続けるデフレ不況下で、全く同じ商品を14%も値上げなんて、他では聞いたことがない暴挙だ。中身を変えないばかりか、むしろ海外支局を閉鎖したり社員を10年で1千人減らすなど、どんどん提供体制はチープにしている。価格は高い、品質は低い、というダメ商品になり下がることを承知での値上げ。もうファイティングポーズをとらない、撤退準備に入った商品です、と宣言したようなものだ。
問題は、この値上げが、来年春に始める予定の電子新聞事業を含めた、全体の経営戦略の一環なのか、それとも、バカ経営者の思いつきなのか、である。
プロダクトライフサイクル図(Wikipediaより) |
読者には割高感は、すぐ伝わる。モノの価格が下がるデフレ経済下では、名目価格が据え置きでも、実質は値上げと同じなのだから。値上げで、部数は確実に減る。間違いなく来年は300万部を割ることになる。それを覚悟のうえでの値上げだから、本来、相当の深い考えがなければいけない。
現在、製品ライフサイクルの図でいうと、情報産業における「紙の新聞」という製品は、既に成熟期を過ぎ、確実に、一番右の、衰退期に突入している。この段階に入ると、左記図のように、急降下するのが特徴だ。ラジオがそうであったように、なくなりはしないが、あまり誰も気にしないものになる。だから最終段階で、少しでもこれまでの投資を回収する方向に走る。
だから、次の製品(電子新聞など)のメドが立っているなら、撤退への道として値上げは正しい。だが、紙をやめる決意をしている気配はまったくない。
まだ紙で稼ぎたいなら、無駄に高いリスクを負っている。ユニクロやニトリに代表されるように、デフレ下では低価格・値下げが成功する。同じ商品を値上げして成功した例など聞いたことがない。
たとえばタクシーは、初乗り660円から710円に7%値上げしただけで利用者がそれ以上に減って、運転手もタクシー会社も消費者も「三方一両損」で全員不幸になったことが証明された。交通市場のなかで、「電車・バス・徒歩」という競合に客を奪われたのだ。
日経の値上げとタクシーの値上げの違いは、日経には目に見える競合がいない、ということ。経営的にいうと、競合がいない場合の値上げ戦略は間違っていない。毎日新聞や読売新聞が値上げしたら朝日新聞に客を奪われて即死決定だが、日経には業界内に競合がいない。経済紙で一社ほぼ独占市場。電通みたいなもんだ。
それでも、日経の価格弾力性は1を超えると思う。つまり、値上げで需要は14%以上減る、ということだ。なぜかというと、日経は「NIKKEI NET」という競合を社内に抱えているからである。
面白いことに、自社内に敵がいて、しかもその敵は収益力がない
この先は会員限定です。
会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。
- ・本文文字数:残り395字/全文2,255字
Twitterコメント
はてなブックマークコメント
facebookコメント
読者コメント
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。記者からの追加情報