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新卒中途とも安定採用の三菱電機 “配属ガチャ”からの「10年ずっと異動なし」もざらで「デカ過ぎプロジェクトの一部」に悩む日々

情報提供
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三菱電機の採用数(新卒・中途)、配属先職種比率
 三菱電機は、新卒採用において、大卒総合職を年700~900人程度、技能職を300人程度、安定的に採用している。加えて近年は、年500~600人の中途採用も続け、12年前のリーマンショックもリストラなしで乗り切った。コロナショックで今期は大幅減益の見通しだが、飲食・旅行・エンタメとはほぼ無縁の堅い業態でもあり、再び乗り切れそうだ。終身雇用が前提なだけに、研修も長期的視点で長めに行われる。新卒組は、4月に入社すると、全体研修が2か月(4~5月)あり、6月に本配属となって、配属先の事業所でさらに2か月(6~7月)の研修が続く。この4か月の初期研修は、精神と肉体を鍛え、気合と根性を叩き直すような、実に関西の歴史ある会社らしいメニューとなっている。
Digest
  • 救急車で運ばれる人まで出る新入社員研修
  • 形を変えて存続する研修論文
  • ほぼ全員が日本人の新卒採用
  • 女子大なし&マーチ以上、意外に関東の大学が多い
  • 人事部主導の面接が3回、現場は採用に関与しない
  • 東京の会社だと思って入社するとショックを受ける
  • 勤務地は、S地区~B地区まで4段階の区分
  • 職業人生が決まる「配属ガチャ」
  • 「10年間、ずっと同じ部署」がざらにある
  • 「デカ過ぎPJTにやりがい感じられるか」問題
  • 低い離職率、中途採用は「ウチに合いそうな人」

救急車で運ばれる人まで出る新入社員研修

「上下とも三菱電機の作業着(ブルー/ネズミ色系)姿で、早朝のランニングから始まり、腹筋運動、競歩訓練、登山など、体育会系の運動メニューが多いのが特徴です」(2010年代入社の元若手社員)。餃子の王将ほどではないが、スパルタ系だという。

1年目は「研修生」と呼ばれる。配属後は、実質的に最初の1年目だけ(形式的には3年間)、トレーナーとして、課長になる前のMS(D職=専任)、またはそれより若い社員がついて、教育係の役割を果たす。年度末の「研修論文」の提出と発表が終わるまでは、研修の身である。ずっとつきっきりで教えるので、「トレーナーと新人で結婚した例を2組知っている」(同)という。

この研修論文は、事務系も技術系も一律で課される。技術系なら、大学・大学院時代の研究内容に関連して、それを今の職場でどう活かせるか。事務系なら、マーケティング戦略、カイゼン提案、制度設計などだ。

「その発表準備のために、通常業務が終わって、夜8時から深夜1時2時まで、時には徹夜で、上司やトレーナーに見て貰って、書き直して、の繰り返しとなります。明け方に倒れて救急車で運ばれる人が出て、事業所内で話題になったこともあります」(2000年代に入社した元中堅社員)。年末から着手して、3月に発表会がある。

製作所長など、エラい人たちの前で発表する。新入社員にとって、はじめての大舞台となる。「その課としての威信に関わるものと認識されていて、課を代表して発表するために、精神的にも肉体的にも、重荷になります。これが過労死の原因にもなるということで、研修論文の制度は、この数年でなくなる方向になったと聞いています」(同)

ところが、2020年5月現在の同社新卒採用公式サイトでは、研修論文の名称を「修了レポート」と改変し、存続させていることが確認できる(以下抜粋)。結局、この伝統行事を変えるつもりはないということだ。こうした、イニシエーション(儀式)を経て、晴れて三菱電機の一員となるわけである。日立製作所にも同様の研修論文制度はあり、こうした迎い入れの通過儀礼は、メンバーシップ型組織である日本企業特有の特徴として興味深い。

■新入社員研修
 入社式後に実施する入社研修に始まり、事業本部別研修・事業所別研修などを通じて、事業動向、業務内容、会社で必要な共通基礎知識や規則などを学んでいきます。
 その後1年間は「研修生」と呼ばれ、OJTを中心に様々な知識・スキルを身につけていき、1年目の最後には自分の業務に関するテーマで「修了レポート」を作成することになります。

形を変えて存続する研修論文

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労働問題の再発防止に向けた取り組みについて(2020年1月10日)

三菱電機が発表した「労働問題の再発防止に向けた取り組みについて」でも、研修論文の改革については一切ふれておらず、なにやらポエムのような“小泉信次郎構文”が並び、実質的な内容がない。

固有名詞や数字や時期が一切記されていない一方、規範論や精神論ばかりが並べられ、つまり、改革する気がないことが伝わってくる。

同社が研修論文制度を改革したと記せない理由は、つい前年である2019年の新入社員自殺(生産システム本部生産技術センター配属者)にもあった。

年度末の研修論文をやめた代わりに、なんと、入社わずか5か月目の8月末に同様の「技術発表会」を行い、それを苦に自殺が発生したのである。本来なら年度末まで7か月あったものが前倒しになり、さらに時間的にキツくなって追い詰められた格好だ。

2019年新入社員自殺事件について、共同通信の配信記事を、日経が掲載している。(2019/12/7付

三菱電機の男性新入社員が自殺し、警察が自殺教唆容疑で上司を書類送検した事件で、男性は自殺した当時、社内向けの発表会へ向けた準備を進めていたことが7日、会社への取材で分かった。発表会は8月末の予定で、男性は同月下旬に自殺した。教育主任だった30代の男性社員が発表会の指導を担当。男性がこの上司に暴言を受けていたとの証言が同僚から得られたという。

朝日新聞も後日、同様の内容で追いかけている。(2019年12月18日付)

自殺した数日後に、学生時代の研究テーマなどについて説明する技術発表会を控えており、教育主任から資料の書き直しなどを求められていた。

こうなると、組織的に、悪意をもって追い詰めているようにも見える。特に、再発防止策のなかの「レジリエンス教育(ストレスや逆境にうまく対処し、回復する力を高めるための研修プログラム)など、社員のストレスマネジメント力向上に資する研修を一層充実する」に至っては、ストレスに耐えられない社員のほうが悪いのだ、と言わんばかりで、遺族の心情を逆撫でするものだ。解決の方向性が間違っている。

こうした「極限まで追い詰めて能力をストレッチさせる」「人間は究極のストレスのなかでこそ最も成長する」といった信念を持つ企業カルチャーは、“生存バイアス”(たまたま潰れることなく適応して出世した人が意志決定者になり、社内常識化する)で加速し、正当化される。ついてこれなかった社員は、亡くなったり潰されたり辞めたり窓際に追いやられたりして、組織に生存していないからだ。「追い詰める=成長できる=社員の幸せ」という宗教みたいなものである。

外資コンサル会社も同様だが、最初からそういう組織だという前提をもって入社してくる場合は、そう問題にはならない

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