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オープンハウス、“地下室マンション”乱暴工事で住環境破壊 民家脇4メートル垂直掘削し壁に亀裂、ホテルへ避難…安全性にも疑問の声

情報提供
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オープンハウス・ディベロップメント社のマンション建設現場に隣接するAさん宅。自宅わきの敷地がずり落ちて傾く被害を受けた(Aさんの記録メモより。フェンスの右側が工事現場。約4メートルの深さに掘り下げられている)。
 東京都品川区のオープンハウスを施主とする「地下室マンション」工事をめぐり、近隣住民から苦情が噴出している。民家のすぐ脇を、広範囲かつ深さ約4メートルも掘り下げるという独特の工法が原因だ。おざなりな説明だけで着工した結果、猛烈な振動と騒音にさらされた住民らが驚愕、避難したり体調を壊す例が続発する有様となった。さらに、隣接する民家の地面が傾斜したり、住宅の壁にひびが入るなどの被害も発生した。掘削跡を埋め戻さないため、いわば巨大な四角形のクレーターが出現した格好だが、周囲の擁壁(高さ約3メートル)が地震などで崩壊するのではないか、大雨で水が流入するのではないか、周辺地盤が脆弱になるのではないか、といった当たり前の不安に対して、オープンハウス側は説明責任を果たしたとはとても言い難い。高齢の住民のひとりは憤りを込めて言う。「人の命をなんと思っているのか」。
Digest
  • とんでもない会社だ
  • 「説明なし」で敷地全体を4メートル掘削
  • 苦情殺到
  • 怒号とぶ説明会
  • ずさんな「修復工事」
  • 水抜きがないわけ
  • 確認申請書類を情報公開できない?
  • 不安は消えず

とんでもない会社だ

「東証一部上場どころか、人の命を命と思わないような、本当に悪質な会社だと思います」

品川区内の狭い一軒家で年金を頼りに一人暮らしをする女性Aさん(71歳)は、オープンハウス・ディベロップメント株式会社(OHD)という企業について抱いた印象について、率直にそう語る。

当該物件の建設現場より

自宅の隣りの駐車場(約1200平方メートル)に地上5階のマンションを建てる計画があることをAさんが知ったのは昨年4月のことだった。きっかけは、自宅に投げ込まれた「工事のお知らせ」と題する数枚つづりのチラシ。そこには建築主(施主)としてOHD社の名があった。

OHDは、東証一部上場の大企業・株式会社オープンハウスの子会社である。オープン社は、都内周辺の狭い土地に一戸建てを建てて販売する手法で知られ、『オープンレジデンシア』というシリーズでマンション開発も行い、分譲している。業績急上昇、年商1兆円を目指してテレビCMを流すなど鼻息のあらい有名企業だが、労働環境が劣悪で過労死が疑われる死亡事件が続出している問題企業でもある。(→死亡者続出のオープンハウス

■「地下室マンション」とは

 「オープンレジデンシア」シリーズの特徴として、地下の有効活用がある。「地下室つきの物件」ではない。韓国にあるような「半地下」でもない。全地下である。地階のみに部屋が配置され、地表より低い場所で生活する。いわば巨大な水泳プールの中で、高い壁に囲まれ、周辺住民から見下ろされた生活となるが、専有の地面がありテラス付きになったりする。口コミを見ると、「地下のテラス付きの物件の案内を受けたのですが、明るさや閉塞感が気になってます」「Bbタイプって地下のやつですよね。買う人なんているのでしょうか?」といった声がある。

もっとも、Aさんにとっては、オープンハウスもOHDも初めて聞く名前だった。

チラシによれば着工予定は2020年7月末だという。Aさんがまず気にしたのが、自宅と新築マンションの間隔だった。Aさん宅と敷地の境界までは、1メートルもない。自宅すれすれに5階建てのマンションを作られてはたまらない、と心配になったのだ。

計画地の周囲にはAさん宅のような一戸建て住宅が10数軒、軒を削るようにして立ち並んでいる。高い建物はなく静かな住宅地である。というのも、一帯は品川区の第1種住居区域に指定されており、良好な住環境を守る趣旨で高さが地上15メートル以上の建物は建てられないからだ。

 Aさんがチラシを見ると、建物の概要は書いてあるものの、Aさん宅との間隔がいくらかは読み取れなかった。そこで、チラシに記載された連絡先に電話をかけた。近隣住民との調整業務を受注している業者の社長が訪ねてきた。

 「どこまで建つの?」

Aさんの質問に「このあたりです」と社長が示した。Aさんの自宅家屋より2メートルほど離れた位置だったので一安心した。

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マンション工事が終わった現在のAさん宅。右のブロックとフェンスの奥は、約3メートル垂直に落ち込んだ崖になっている。地震や大雨で崩れないか、不安を抱えて暮らしている。

「説明なし」で敷地全体を4メートル掘削

着工からほどなくして、Aさんは、猛烈な騒音と振動に驚いた。ある程度は覚悟していた。だが、予想をはるかに超えるひどさだ。

「ドンドンというものすごい音、そして揺れ。階段に置いてあった何足もの靴がぜんぶ下に落ちました。震度4くらいの揺れ方でした」(Aさん)

大型ダンプカーが頻繁に出入りし、大きな掘削機械が何台も激しく動いている。どんな工事をしているのかと、Aさんは自宅の3階に上がり、窓からフェンス越しに現場を見た。息をのむような光景がそこにあった。

約1ヘクタールの敷地全体を、どんどん掘り下げている。しかもAさん宅をはじめ周辺に密集する戸建て住宅の境界ぎりぎり、住宅から70〜80センチのところを、まるで羊羹を切るように垂直に掘っている。揺れるのは当然だ。

 「家が壊れるんじゃないか、家の下敷きになるんじゃないかと…」(Aさん)

怖くなったAさんは、現場を出入りしていた施工業者に苦情を言った。「ナカノフドー建設」という会社だ。相手は「大丈夫です」と言うだけだった。そこで品川区役所の建築課に電話をかけて訴えた。しかし、建築課の職員も「ああそうですか」と煮えきらない反応だった。

苦情はAさんだけでなく近隣の住民からも続々と出た。やはり適当にあしらわれ、掘削工事は強行された。振動と騒音に耐えきれず、他の場所に一時的に避難する住民が出始めた。

掘削深度は最終的に4メートルほどにもなった。少し前までは地続きの駐車場だったAさんの自宅のすぐ脇が、工事によって突然4メートルも陥没し、垂直の断崖ができた。住宅環境は一変した。

Aさんは連日、工事現場を観察した。特に崖の状況が気になった。よく見える場所を探して観察すると、赤茶色の土を削った崖の掘削面に杭と矢板で土留めをしている様子がわかった。本当に持ちこたえるのか、頼りなく思えた。

大雨が降ると光景はさらに一変した。掘り下げた敷地に大量の雨水が流れ込み、一角に直径10メートルはあろうかという水たまりが出現したのだ。しかもその水たまりの場所は、Aさん宅のすぐ横だ。あえてそこを深く堀って水を貯めたのだろうが、Aさんの心配がまた増えた。貯まった水で周辺の地盤が緩み、崖の上にあるAさん宅や周辺の家に悪影響が出るのではないか。

施工業者に苦情を言うと、担当者は平然とこう答えた。

「水は浸み込むからだいじょうぶです」

騒音と振動に加え、工事で使った薬品の異臭にも悩まされた。Aさんはとうとう体調を崩し、耐えきれずにホテルを借りて一時的に避難生活を余儀なくされた。

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掘削工事中の現場。3階建ての民家が並ぶすぐ脇を垂直に4メートル以上掘っている。深度4程度の地震に相当するようなすさまじい振動と騒音だったという(Aさん提供)。

苦情殺到

Aさんの話を聞きながら、筆者は疑問に思った。なぜ地下を4メートルも掘ってわざわざ地下室を作るのか?地下部屋の住環境は、当然悪い。太陽光はあたりにくく、排水の問題もある。湿気がたまるおそれもある。工事が大がかりになるだけコストもかかる。

一見すると理解しがたい計画だ。だが、調べていくと、理由があることがわかった

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オープンハウス・ディベロップメント社(OHD)がAさん宅脇に作った地下室マンションのイメージ図(上)。ドライエリア(建物のないプールの底部分)を持っているのが特徴だ。通常の地下室付きマンション(下)と比べて擁壁の負担が大きいように見える(筆者作成)。

Aさん宅の隣にできたOHDの地下室マンション(右側)。道路から約3メートル階段を下ったところに地下一階の部屋がある。目隠しフェンスの下端が民家の敷地部分にあたる。

OHD社は都内の住宅地域に地下室マンションを次々と建設しているが、激しい騒音や振動、家屋の損傷などを発生させ、近隣住民とトラブルを引き起こす例もある(品川区内の別の建築現場。住民提供)。

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