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ラサール高→東大法学部卒の7千万円被害者は、なぜ “東進”に騙されたのか 「まさか自分が…オレオレ詐欺と同じです」

情報提供
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上:モア社の本社があった横浜市緑区長津田の東進衛星予備校(現在はエデュマン本社)
下:寄付講座を提供し東大ブランドを利用するナガセ(2019年11月21日プレスリリースより)
「自分はラ・サール高→東大と進学しましたが、これはナガセ創業者の永瀬昭幸社長(1948年9月生まれ)と同じ。高校・大学の9個ほど下の後輩が自分で、東大時代には、ラ・サールOBが東進の前進となる塾でバイトすることになった、といった話も聞いていましたから、縁を感じていたんです。東進ブランドを信用して、最後はFC会社に7千万円も貸してしまいました。返してほしいです。民事再生と自己破産で強制執行はできなくなりましたが、債権が消えるわけではないので、柏木が死ぬまで諦めず取り立てるつもりです」――。そう語るのは、「東進」50億円貸し倒れ詐欺事件で、個人で7182万円を貸して、うち93%を踏み倒されたKさんだ。なぜこれほどの額を焦げ付かせてしまったのか?その経緯と手口について詳しく聞いた。
Digest
  • 「親会社である、株式会社ナガセ」が民事再生を迫る
  • 「野村人脈でグループ入り、永瀬とは昵懇」
  • 「自分が死亡したら保険金で返済するから」
  • 「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」
  • 偽造印で知人を連帯保証人に
  • 年末、柏木から「危ない」と電話、年明け音信不通に
  • 取締役を東京地検特捜部が金取法違反で逮捕
  • 財産目録に美術品がない不思議
「東進」50億円貸し倒れ詐欺事件=20億円超もの簿外債務を隠して融資を引き出していた東進FCモアアンドモア社が、2017年3月、民事再生法を申請して倒産。柏木秀信社長は自己破産。負債は申請ベースで52億5千万円、確定ベース46億2千万円。うち93.11%が踏み倒された。政府系金融から地銀信金、信用保証協会など大手金融機関の多くが倒産直前まで「正常債権先」と判定するなど、嘘の決算書に騙されていた。非金融機関から融資を受ける際の資金集めは、共同経営を持ちかけて特定校舎の経営権を渡す、自社の株式を重複して渡すなど、そもそも実行不能な虚偽の担保を契約書に記していた。出資法違反の疑いが強いほか、連帯保証人のハンコを偽造して融資を受けるなど、総じて詐欺的だった。(→1本目記事 →2本目記事

「親会社である、株式会社ナガセ」が民事再生を迫る

複数の債権者が、実に興味深い証拠文書を持っていた。倒産直前の2016年12月16日、柏木社長が、伊藤というコンサルタント宛てに書いた手紙である。そこでは、この時点で既に返済不能な事態に陥り、ナガセに相談に行った話も綴られている。以下、抜粋する。

予備校の出店を急ぐあまり、資金調達手段を金融機関とは別の方々に法定金利以上の支払が前提の融資を受けて、今日まで来てしまいました。お陰様で、本業は順調に推移し、本年度の決算も増収増益(売上22億、純益1.5億)ほどになる見込みでございます。今日までは、当社の取引先金融機関(7行)から、当社は正常な取引先とみなされ、融資先健全企業との位置づけを頂いてきました。又、帝国データバンクによる『信用調査』でも57点との高い評価をいただいております。

(中略)

本件の解決を早期に実行すべく、私は当社の親会社である、株式会社ナガセ(JQ上場)に相談したところ、同社からは、民事再生(代表柏木および副代表竹下の自己破産)の選択を迫られました。その選択について、複数の弁護士、会計士、税理士等に相談いたしましたが、有資格者の意見は、親会社である株式会社ナガセの意向である、『民事再生(自己破産)』の選択は、現在の『簿外債務の現状ではとても民事再生の処理は受け付けられない。』のでは、とのご判断でした。

(中略)

しかも、このような正常な処理をした際には、簿外での融資先である債権者には『出資法違反』及び『脱税』等々の嫌疑で国税含めた査察(強制捜査)が入ることは間違いなく、結果、債権者には多大なご迷惑をお掛けする事となります。

(中略)
 伊藤様には、簿外債権者(15名)の方々に私の現状をご説明いただき、法定金利内での返済手法等々含め、変更(見直し)をご相談していただきたい次第でございます。
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倒産直前の柏木が書いた手紙

出資法違反や脱税で強制捜査が入って逮捕されるのは、集めた側のあなただけだよ――とか、融資先健全企業との位置づけを頂いてきたのは法定外の金利負担がある簿外債務を隠してきたからでしょう――といった、すぐに論理的におかしな部分が見つかる文章なので、ぜひ全文読んでいただきたいが、特に目を引くのは「当社の親会社である、株式会社ナガセ(JQ上場)に相談したところ」、民事再生を迫られた、というくだりである。

FC会社とナガセに資本関係はなく、親子ではない。実質的な親会社になったのは、倒産してナガセがスポンサーについてからだ。だが、こうやって虚実を混ぜ合わせ、わざわざJQ上場とまで記し、その威を借りて、資金繰りをつけてきたことが推認される記述だ。

詐欺師の発想法が随所に見られる、客観的に、面白い文章である。(※そもそも出資法は、一般大衆の財産保護を目的とした法律であり、カネを出した側を罪に問うような法律ではない)

この手紙は、柏木が「法定金利以上の支払が前提」の、違法な闇金業者、いわゆる「反社」からも融資を受けてきたことを自白した、決定的な証拠文書でもある。

その、反社マネー(38校やその生徒、教育を受けた社員といった無形資産に既に化けている)が、民事再生を経てきれいにロンダリングされ、誰も刑事罰を受けることなく上場企業であるナガセの懐へと、タダ同然でわたった格好となっており、その“反社マネーロンダリング経営”ともいうべき問題の、高い公共性ゆえに、こうして報道しているのである。

「野村人脈でグループ入り、永瀬とは昵懇」

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柏木秀信(1949年12月生)と、校舎の年次開校推移(2001年~2016年)

この手紙を受け取ったコンサルタントの伊藤氏は、「自分も騙された」と怒っているという。柏木が、約束した報酬を一切払わず、勝手に民事再生を申請して音信不通になり、タダ働きさせられた格好になったからだ。詐欺師は、かかわる周りの人たちを、ことごとく騙していく。

簿外債権者らは、この伊藤氏から、金利の減免や返済期間延長についての方針を示した書面を貰った。納得はできなくても、倒産したらほとんど戻ってこないので、しぶしぶ了解するほかなかった。そのうちの1人が、Kさんだった。

Kさん自身は、どういう経緯で7千万円も貸すことになったのか。

「担保もとらず、どうしてそんなに貸してしまったのか、と疑問に思うでしょう?オレオレ詐欺と同じですよ。あんなの引っかかるわけがない、ってみんな思っているけど、毎日、あれだけの人たちが実際に騙されている。私自身、まさか自分が…と。バカなことをしました」(Kさん、以下同)

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喫茶店で被害者2人から話を聞いた(左がK氏)

柏木が、野村證券時代に詐欺で東京地検特捜部に逮捕され、懲役3年の有罪判決を受けていることは、もちろん知っていた。

「柏木は、野村を懲戒解雇されたあと、自分で予備校経営を始めたのですが、東進グループに入ったきっかけも、野村人脈でした。ナガセで野村証券のOBが働いていて、その人は永瀬社長の後輩であり、柏木の後輩でもある人物でした。その元野村の人が、柏木のところにきて、うち(東進グループ)に入りませんか、と言われたのがきっかけだった、と柏木から聞きました」

どこまで詐欺師の言うことを信用するかはともかく、特に不自然な点もなく、この程度のレベルの経緯について、事実関係で嘘を言う動機もない。やはり野村人脈が、東進グループ入りのきっかけだったようだ。

「その後は、全国の東進衛星予備校のなかでも上位の成績をとるようになり、高級ホテルで何度も永瀬社長から表彰され、永瀬とは昵懇の仲なのだ、と私に吹聴していました。それで、そういった永瀬社長との関係性もあるのならば貸しても大丈夫だろう、と信用してしまった面があります」

「自分が死亡したら保険金で返済するから」

とはいえ、詐欺で前科がある人物への無担保貸付は、やはりリスクが高い。それに見合っただけの金利は、貰えていたのだろうか。最初に柏木に融資したのは、2010年ごろだったという。モア社の売上がまだ6億1千万円(2010年12月期)で、この年、8校→13校に5校増やしている。翌年は、さらに8校開校させ、校舎展開を加速させた。資金需要があったのは事実である。

「初期に開校させた5~6校舎ほどの経営ぶりを見て、地道に、まじめに頑張っているように見えたんです。それで、改心して頑張っているのだな、と信用してしまった。そのうえで、校舎を増やすために、500万円でいいから貸してほしい、と懇願されたので、500万円なら、と貸しました。当初は、ちゃんと金利分は、約束どおり、期日である毎年2月末に、振り込まれていました。金利は

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連帯保証人欄の望月氏のハンコは偽造されていた。詐欺的手法といえる。

K氏に対する、店舗網が確立されたら2店舗の経営権を譲る、という「お約束」文書。約束が履行されることはなかった。経営権を餌に融資を引き出すのは柏木の得意技の1つだった。

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