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“国策貢物企業”として巨大化したアフラック、現場社員が語る「保険の闇」――アヒルというよりゴジラ外資だった

情報提供
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報酬の支払い明細を示すアフラック生命保険株式会社の元社員

契約者1507万人、保有契約件数2413万件(2020年度実績)――。いまや日本国民の12%がアフラックと契約し、櫻井翔がガン経験者と語るアフラックのCMが流れない日はない。"Aflac"の発音がアヒルの鳴き声"Quack"に近いことから2000年にブランドキャラに起用されたアフラックダックは知名度向上に貢献したが、企業の成り立ちは実にいびつで国際政治色が強く、アヒルよりもむしろ、人為的に人間の業で巨大化したゴジラに近い。金融庁元長官はアフラック持株会社の社外取締役に就任し、政府子会社である日本郵政はアフラックの筆頭株主だ。いわば、日米関係の鎹(かすがい)としての、国策ゴジラ外資。コロナ禍を機に退職した元社員に、内部からみた実像を聞いた。

Digest
  • 竹中平蔵的な立ち回りをしたチャールズ・レイク会長
  • TPP交渉からの「思いやり予算」的ポジション企業に
  • 毒を喰らわば皿まで、癒着強める第三フェーズ
  • アフラックのコンプライアンス「不正の認識は以前からあった」
  • 保険料払ってるのに支払われない!
  • 売上が減る提案はできない「周りの眼」
  • 優れた「高額療養費払い戻し制度」
  • 社員である自分が入った保険3つ
  • 宝くじ47%、競馬75%、アフラック39%


竹中平蔵的な立ち回りをしたチャールズ・レイク会長

貿易不均衡の解消を目的とした一連の日米交渉のなかで、1996年、「日米保険協議」の結果として米国企業に貢物として差し出された形となったのが、いわゆる保険の第三分野であった。第一分野(生保=日本生命や第一生命等の既得権)でもなく、第二分野(損保=東京海上や損保ジャパン等の既得権)でもない、「がん保険」を中心とした医療保険商品が、第三分野だ。この市場はアフラックが1974年、日本初の「がん保険」を発売した先駆者で、国内の大手生保損保会社と棲み分けていた。

規制緩和によって、第一分野と第二分野への外資からの参入障壁が緩和されても、アフラックの牙城であった第三分野に日本勢から侵攻されては、日米の不均衡は是正されない。そこで、第三分野については逆に一定期間、日本の大手が参入できないよう規制がかけられたのが、日米保険協議の肝の部分だった。その結果、大蔵省の行政指導が続き、日本の大手生保・損保の第三分野参入が認められたのは21世紀に入ってから、つまり5年後の2001年にずれ込んだ。

それまでの間、アフラックは、ぬくぬくと規制に守られながら日本市場を開拓し、盤石の体制で、日本勢を迎え撃つ準備ができた。1998年には、外資系生保として初の全都道府県に支社を設置し、全国の販売代理店網を整備している。その結果、20世紀末には、1社で日本の「がん保険」市場の8割超を占める、ほぼ独占企業となった。こうして下駄を履かされた結果、日本生命はじめ国内大手が参入した現在でも、全体の約半数というトップシェアを維持している。

この一連の日米交渉において、米通商代表部(USTR)で1990年代前半に「日本部長」を務め、日米保険協議では米国政府交渉団のリーダーとして活躍したのが、現在のアフラック会長であるチャールズ・レイク氏だ。天下りどころの話ではない露骨な論功行賞人事といえる。常に米国政府が背後霊のように見える人物であるが、1999年アフラックに入社、2003年に社長に就任後、実に19年間にわたってアフラック日本法人の代表者として、今も日本政府に睨みをきかせている(現在は代表取締役会長)。

米通商代表部(USTR)出身のチャールズ・レイク会長。「進駐軍の将軍」的存在(同社統合報告書2021より)

いわば、政府の人間として、政治力を駆使して自ら日本市場を勝ち取り、米国の国益に貢献した「政商」が、その功を買われ、利益を誘導した先の民間企業トップに就いた点において、竹中平蔵氏(小泉内閣の一員から、労働規制緩和の恩恵を最も受けるパソナの会長に転じた)と同じ構図である。レイク氏はその国際版であり、日米ハードポリティクスの力関係を背景にした「進駐軍の将軍」的存在だ。

このように、アフラックは商品力ではなく政治力で規模を拡大したため、日本以外の国では、有名企業ではない。本国(米国)でも保険事業を展開するアフラックであるが、グローバルの保有契約数全体のうち、実に75%が日本市場である(2020年)。

売上げの約7割、利益の約8割を日本で稼ぐ、日本依存のビジネスモデルだ。その逆(つまり米国で利益の8割を稼ぐ日本の大企業)は存在しない。大蔵省(現金融庁)のいびつな規制行政と日米関係という、日本独自のガラパゴス的市場環境のもと、突然変異種のように肥大化を遂げるに至った、ゴジラ的外資、と考えればわかりやすい。アヒルというより、ゴジラなのである。

TPP交渉からの「思いやり予算」的ポジション企業に

アフラックの政治色は弱まることなく、2013年には日本郵政(当時、日本政府100%出資)と提携し、全国2万の郵便局で同社の「がん保険」商品の販売を開始した。

当時は第二次安倍内閣で、相手はTPP(環太平洋経済連携協定)推進派のオバマ政権。日本のTPP参加において、かんぽ生命の「がん保険」への進出計画が認められてしまうと、アフラックのシェアが奪われるため、アメリカ政府が「公正な競争を阻害する」と強く異を唱え、交渉の争点となっていた。

TPPの事前交渉で「公正な競争を阻害する」として、米国は日本郵政の保険事業拡大に反対していた(2013年7月26日『WBS』)

結果、麻生大臣が独自商品を認可しない旨を表明、代わりに、アフラックの商品を日本郵政が代理店となって窓口販売するという、独占に拍車をかけるような幕引きで決着した、というのが経緯だ。

国営郵便局2万拠点でアフラックに独占販売されたら「公正な競争」どころではない。日本生命は2008年から、がん保険の共同開発を検討していたため、「かんぽ生命とは5年以上にわたり様々な面で協力をしてきた経緯があり、遺憾だ」とのコメントを発表した。90年代の日米保険交渉に次いで、アフラックは政治力で全面勝利を飾った。

アフラック持株会社のダニエル・エイモスCEOと、日本郵政の西室社長(2013年)

その記者会見で日本郵政の西室社長と握手したアフラック本体(持株会社)のダニエル・エイモス会長兼最高経営責任者(CEO)にアフラックが支払っている年間報酬は、約19億3千万円(1,753万5,398ドル、2018年分「要約報酬表」有価証券報告書より)。日本法人のチャールズ・レイク会長の年俸は約4億2千万円(3,829,858ドル、同)。本体役員に日本人は1人しかいない。

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アフラックの日米業績比較(保険料収入、契約件数)と年間報酬上位者

日本人が納める「がん保険」料が、米国人役員と米国人株主の報酬、そして米国の税収へと化け続けている。

もはや、日米同盟を維持するための「思いやり予算」的なポジションであり、日本国政府が“安全保障のために米国に支払っている保険料”のような存在が、アフラックとなった。

毒を喰らわば皿まで、癒着強める第三フェーズ

そして現在、日米保険交渉、TPP日本郵政交渉に次ぐ、アフラック第三章とも言えるフェーズにある。

日本郵政は、いまだ日本政府の子会社(株式の60%を保有)で、いわば政府そのもの。毒を食らわば皿まで、どうせ逆らえないのなら取り込んでしまえ、と考えたのか、日本郵政は2019年に、アフラック持株会社の株式の7%(約2700億円)を取得、2020年には、金融庁の森信親前長官が、アフラック持株会社の社外取締役に就任した。

保険商品の認可権限を持つ金融庁からの露骨な天下りで、ついに日本人までも甘い汁をすすり始めた。フェアな市場アクセスや公正な市場環境の構築を主張していた90年代の建前はきれいさっぱりたち消え、資本とヒトを受け入れ、露骨に日米関係の結節点としての強みを活かしつつ、政治力で収益構造を盤石にしつつあるのが、ここ数年のアフラックだ。

■日本政府傘下の孫的なポジションになるアフラック

日本郵政がアフラックの7%程度にあたる株式を2019年度に取得し、4年間保有し続けると議決権が10倍になる規定が同社にはあり、日本郵政は早晩、アフラックを持ち分法適用会社にできる。2024年には、アフラックが日本郵政のグループ企業入りする見通し。つまり、日本政府の「孫」的なポジションの会社になる、ということである。なお、アフラック・インコーポレーテッドは1987年に東証に上場、2019年10月に上場廃止済み。NY証券取引所の上場に一本化している民間企業である。

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アフラック持株会社と日本法人の関係

以上のように、①1996年の日米保険協議、②2013年の全国2万郵便局独占販売、③2019~2020年の資本業務提携、と大きく3度にわたっての「日米同盟を背景とした日本政府による忖度」で肥大化した経緯がアフラックにはある。しきりに「がん保険No.1」をPRする同社であるが、決して商品が優れていたから売れているわけではない点には、消費者として注意が必要である。

アフラックのコンプライアンス「不正の認識は以前からあった」

日本郵政が、アフラックを含む保険商品を、詐欺的な手法で高齢者などに組織的に騙し売りした事件は、こうした背景のもと、発生した。

■日本郵政保険騙し売り事件

当初は、NHK『クローズアップ現代+』が2018年4月にスクープして、その端緒が発覚。だが日本郵政からの抗議を受けると、NHKの上田会長は簡単に圧力に屈して動画を削除し、続編も延期するという、大報道弾圧事件に発展。民主国家ではあり得ない、香港や中国のような報道弾圧だった(NHK予算は国会承認事項で政府が権力を握る)。もちろん報道内容は事実であったため、最終的に、3千人超を社内処分する大問題に発展。その隠ぺい工作を図った日本郵政(政府の子会社)と、その指示に従ったNHKの信用は、ともに地に堕ちた。

アフラックは、「日本郵便」に個人向け保険商品を、「かんぽ生命保険」に法人向け保険商品を販売委託し、手数料を支払っている。日本郵便では、高齢者への騙し売りに加え、アフラック独自の問題として、保険乗り換え時の10万件超で、顧客の不利益になる販売(保険の空白期間や二重徴収が発生)も判明。かんぽでも約2600件で不正が判明した。これほど大規模に不正販売していた悪質な事件は過去に例がない。

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アフラック日本法人の組織図

アフラックが不正販売したわけではないが、販売後の顧客からの問合せ窓口はすべて、アフラックのコールセンターが一手に引き受ける。日本郵政は、アフラック商品の新規販売において、その4分の1を占める主要な販路だった。そのためNHKのスクープ以前から、コールセンターの現場では多くの社員が、この不正を認識していた。

10万件という規模なので、当然、不審に思ったり、不正に気づいた契約者が、問合せをしてくる。不正販売は、5年超にもわたっていた。もっと傷口が拡大する前に、自浄作用は働かなかったのか。

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アフラックのコンタクトセンター(コールセンター)組織図と体制

「郵便局で不正販売が行われていたらしいことは、コールセンターの現場では以前から多くの人が認識していました。たとえば、認知症の祖父が、郵便局の窓口で勧められて保険を契約したケース。その人は年金収入が約20万円なのに、保険料として毎月40万円ほども支払っていて、どうしてそんな契約をしたのか調査したら、全く不要な商品に重複して加入させられていることが判明しました。

私自身、その販売した郵便局の窓口には、個別におかしい点を伝え、抗議したこともあります。でも、そのままうやむやになって、アフラックが会社として日本郵政に調査や再発防止を依頼することはしませんでした。そして、数年後に爆発したのが、あのNHKの報道によって、です。対策として『60歳以上』を高齢者と定義して、契約時に親族のサインが必要、ということになりました」(元社員=以下同)

ジャーナリズムの重要性がよくわかる事例である。この大規模な詐欺的販売事件は、一義的には日本郵政の仕業だったが、見て見ぬ振りをしたアフラックのコンプライアンスは、なぜか問われなかった。また、正確な調査結果の公表もされていない点で、悪質だ

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