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教官の“靴磨きイジメ”で教育隊入校中の陸自隊員が自死 国に賠償命令も、遺族が納得できず争う理由

情報提供
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陸曹教育隊入校中の隊員の自死をめぐる国賠訴訟の判決を受けて記者会見に応じる原告代理人の板井俊介弁護士(右端。2022年1月19日熊本市)。
 2015年10月、陸上自衛隊の第5陸曹教育隊(佐世保市相浦=当時)で入校中の学生隊員(享年22)が自死する事件が起きた。教官のいじめを訴える遺書があったことから、遺族は国などを相手どって国家賠償請求訴訟をおこす。2年あまりの審理を経て今年(2022年)1月、熊本地裁が言い渡した判決は、国に賠償を命じる原告勝訴だったが、その金額はわずか220万円。なぜか。判決では、亡くなった隊員が生前受けた苦痛に対してのみ責任を認め、死亡については「予見可能性がなかった」として責任を否定したからだ。納得できない遺族は控訴し、福岡高裁で審理が続く。「業務」と称して教官の靴磨きを命じ、その手順をめぐって理不尽な「指導」を繰り返す。裁判で浮き彫りになったのは、帝国陸軍を彷彿とさせる自衛隊の陰湿かつ幼稚で残酷ないじめ文化だ。深く病んでいる今の自衛隊で、日本社会を守れるのか。
Digest
  • 熊本地裁502号法廷
  • 「殺したくなると言われた」と遺書で告発
  • 一生の仕事にと自衛隊入隊
  • やる気いっぱいで入校したが…
  • 入室要領とは何か
  • 「伝令業務」とは何か
  • H区隊長との出会い
  • 「勝手に靴磨いた」ことが大問題に
  • 真相究明――遺族のたたかい
  • 靴の磨き方に関する「要望」
  • 「予見可能性なかった」とする判決に問題

熊本地裁502号法廷

 2022年1月19日午後、傍聴席を満席にした熊本地裁502号法廷に、中辻雄一郎裁判長の判決を言い渡す声が響く。

「主文1、被告国は原告父に対し、110万円及びこれに対する令和元年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。主文2、被告国は原告母に対し、110万円及び・・・(以下同じ)」

陸曹に昇任するため第5陸曹教育隊に入校中、自死したAさん(享年22、当時の階級は士長)の遺族が、国や教官を相手どり、慰謝料や逸失利益など約8000万円の賠償を求めて起こした裁判だった。

 判決は、計220万円の賠償を国に命令した。教官ら個人を被告にした部分は棄却した。原告一部勝訴である。だが原告代理人・板井俊介弁護士の表情は固かった。金額があまりにも低い。

 裁判所の理屈はこうだ。

「いじめ」を一部認めながらも死亡についての責任を否定した。法律的には「相当因果関係」を否定した。わかりやすく言えば、Aさんが生前受けた苦痛については国に賠償責任がある。しかし死亡したことについてまでの責任はない。なぜならば「予見可能性」がなかった。要するに、まさか自死するとは教官らは予想することができなかった、だから死亡したことについてまでの責任を問うのは酷である――というわけだ。

原告の遺族は到底納得できない。判決を不服として控訴し、現在福岡高裁で審理が続いている。

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亡くなったAさんの遺書。教官のいじめを苦にする様子がつづられている。裁判に証拠提出されている。

「殺したくなると言われた」と遺書で告発

 事件は約6年前にさかのぼる。

 2015年10月7日午前6時、陸上自衛隊相浦駐屯地(佐世保市)にある第5陸曹教育隊(2017年、久留米駐屯地に移転)の居住用隊舎で朝の点呼が行われた。第5陸曹教育隊は、「5教」「陸教」などとも呼ばれ、「士」の階級から「曹」の階級に昇任するための教育機関である。

折しも数日前に104人の隊員が「学生」として入校したばかりだった。教育期間は約3か月。A隊員(士長)もこの新入生のひとりで、4階の一室を同期隊員ら6人とともに使って寝起きしていた。

点呼をはじめてすぐに異常が発覚する。A隊員の姿がない。Aさんが使っている寝台を調べると遺書が見つかった。すぐに教官らに報告がなされ、捜索がはじまる。そしてまもなくAさんは変わり果てた姿で発見される。自分の部屋に近いトイレで首をつっていた。隊員らの手で蘇生措置がなされ、病院に搬送され、なおも蘇生措置が続いた。だがその甲斐なく、息を吹き返すことはなかった。入隊して3年半、22歳の若さだった。

急の知らせを受けて駆けつけた遺族に遺書が渡された。そこには、几帳面なAさんの字で、次の文句がしたためられていた

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国に計220万円の賠償を命じる判決を言い渡した熊本地裁。予見可能性がなかったとして死亡との相当因果関係を認めず、低い賠償額となった。

第5陸曹教育隊の教官室に入る学生の様子(中央奥、防衛省が公表しているビデオより)。

自分の靴を磨く陸自隊員(防衛省ホームページより)。

Aさんが自死した相浦駐屯地。過去にも自死事件が多発している。水陸機動団の設置に伴い第5陸曹教育隊は久留米駐屯地に移転している(防衛省ホームページより)

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