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神奈川県警「天下り先」リスト5年分1140件判明 不正融資のスルガ銀、巨額窃盗のアルソック…問題企業に続々再就職

訴訟1年がかりで「全面黒塗り」撤回に成功

情報提供
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訴訟を含めた1年4ヶ月のたたかいの末に法人名を開示させた神奈川県警の「天下りリスト」(求人票)、5年分1140件(うち800件をあらたに開示させた)。

神奈川県警が法人名完全黒塗りで、ひた隠しにしてきた天下り先一覧(神奈川県キャリアバンク制度に基づく求人票)約800件(2016〜20年度途中の約5年分)が、約1年がかりの訴訟の末に初めて開示された。当初は徹底的に争う構えを見せていた被告・神奈川県だが、情報公開手続きで多数のミスが発覚。警視庁や千葉県警など他自治体は開示していることから、裁判官が、自主的な開示を敗訴予告さながらに勧告した結果、あえなく「任意」開示に追い込まれた。結果は呆れたもので、巨額の窃盗や横領・強制わいせつなど、刑事事件を起こした問題企業に続々と県警から再就職していることが分かり、まるで事件を利用して天下り先を開拓しているのでは――との疑いすら湧く。民間1位はALSOKグループ49人、2位は京急サービス24人だった。開示済み約300件(課長級以上)含め、計1140件の天下りリストを一挙公開する。

Digest
  • オープンハウスと神奈川県警の関係とは
  • 退職者キャリアバンク制度と求人票
  • 50ヶ所以上に及んだ通知書の記載ミス
  • 数億円窃盗のアルソックグループに大量49人が再就職
  • わいせつ事件の鶴見大、贈収賄事件の横浜市大にも
  • 見苦しい負け惜しみの抗弁
  • 「オープンハウス」天下りは「邪推」と県警
  • 「防犯CSR活動」に名を借りた癒着関係

※全原票およびエクセル集計データをダウンロード可

オープンハウスと神奈川県警の関係とは

2021年10月、筆者は神奈川県警(被告は神奈川県)を相手どり、公文書非開示処分の取り消しと国家賠償法1条1項にもとづく損害賠償請求を求める訴訟を起こした。後述するとおり、非開示を争点とした部分は実質的に全面勝訴した。現在は、国賠請求についてのみ横浜地裁で審理が続いている(令和3年行ウ第75号。第1民事部、岡田伸太裁判長)。

神奈川県警に情報公開請求をしたきっかけは、オープンハウス事件だ。横浜の支店に勤務する社員2人が高齢者を狙った組織的な特殊詐欺の出し子を行ったとして逮捕・起訴され、実刑判決を受けた。かけ子が「年金の還付金を振り込みたいが、銀行口座のカードを交換する必要がある」などと電話をかけて被害者を騙し、指示を受けた受け子兼出し子が銀行員になりすまして被害者者宅を訪問、カードを受け取った上で、聞き出した暗証番号をつかって現金を引き出すという手口だ。

MNJでも度々報じてきた有名上場企業の一大不祥事である。

【オープンハウス、現職営業社員が振り込め詐欺で逮捕されても発表せず――不動産大手のモラル崩壊、新聞記事では「会社員」】

【振り込め詐欺容疑で社員逮捕も他人事のオープンハウス、根拠示さず「業務上でない」「個人情報」とシラを切る絶望的コンプライアンス】

【「オープンハウス振り込め詐欺事件」社員逮捕・起訴は2人に 保土ヶ谷営業センター元営業マンのH氏、公判で犯行認める】

【「ガールズバーで好きな子ができて金がなかった」――オープンハウス連続特殊詐欺事件、元社員2人が起訴事実認め犯行の経緯判明】

【マスコミが黙殺する「オープンハウス集団特殊詐欺事件」 逮捕・起訴の2人に加え、さらに別の“社員犯人”が浮上】

【オープンハウス連続詐欺事件、上大岡センター営業マンに1年10ヶ月の実刑判決 共犯社員も実刑確実――「会社のストレス」が原因】

【オープンハウス連続特殊詐欺事件、コーディネータ役元社員に懲役2年4月の実刑判決でも会社「コメントしていません」】

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社員2人が特殊詐欺を働いて実刑になったオープンハウスは、事件当時、神奈川県警と協力して「特殊詐欺防止キャンペーン」をやっていた。県警はこの事実を公表せず、事件後もその蜜月関係を続けている(神奈川県警HPより)。

この事件には、単に企業のコンプライアンスの問題にとどまらないものがある。警察との癒着疑惑だ。オープンハウスは、事件当時、神奈川県警と協力して「特殊詐欺防止キャンペーン」をやっていた。そして事件後も協力関係は続いている。

警察の犯罪防止運動に協力している会社の社員が犯罪を犯したのだから、神奈川県警はその事実を公表し、同社との協力を中止して反省する。それが市民の常識感覚だろう。

ところが県警は完全沈黙を決め込んだ。オープンハウス社との関係は従前どおり続け、まるで何ごともなかったかのように振る舞った。筆者の取材には「記者クラブ」記者でないことを理由に回答を拒否した。

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オープンハウスへの再就職の有無を確かめるために神奈川県警に情報公開請求をしたところ、文書があるのかないのか存否自体回答できないとの結果が返ってきた。

事件当時に本部長だった大賀真一氏は、任期中に特殊詐欺の摘発件数が増えたとして「社会生活が変わる中で一定の成果を上げることができた」と言い残し、2020年12月に退任した。

あまりに不自然というほかなく、天下りなどを通じた癒着が疑われた。そこで筆者は手始めに有価証券報告書を確認した。案の定、社外取締役に櫻井勝・元近畿管区警察局長(群馬県警本部長、警察庁人事課長)がいる。2018年12月に就任している。なお、事件を筆者が報じた後、20年12月までに退任した模様だ。

有価証券報告書の調査に続いて警視庁に情報公開請求してみると、2020年2月に栄元照志・元警視庁日野署長が常勤顧問に、19年10月に氏名不詳の元警察官1人が常勤職(職名は黒塗り)に、それぞれ天下っていることがわかった。

警察とオープンハウス社との癒着疑惑は濃厚となった。神奈川県警からも天下りがいる可能性があると考えた筆者は、2020年9月、同県警に対して、〈オープン社への再就職状況がわかる文書を開示せよ〉という趣旨の情報公開請求をした。

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「法人等に関する情報(神奈川県情報公開条例5条2号に規定する当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報)に該当する非公開情報(特定企業に元警察職員が再就職したか否か)を公開することとなる…」というのが「存否回答拒否」の理由だった。

じきに有無が判明するだろう。警視庁の例からそう予想していたところ、結果に驚いた。文書があるのかないのか、存否自体を答えないというのだ。「拒否決定通知書」に記載された理由はこうだ。

…行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、個人に関する情報(略)及び法人等に関する情報(神奈川県情報公開条例5条2号に規定する当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報)に該当する非公開情報(特定企業に元警察職員が再就職したか否か)を公開することとなる…

オープンハウス社が神奈川県警に求人したこと、またはしていないことがわかると、同社の「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」があるというわけだ。

いったいどんな不利益があるというのか。にわかに理解しがたい説明だ。

退職者キャリアバンク制度と求人票

なんとか確認する手はないかと思案した末にたどり着いたのが「求人票」だった。警察問題に詳しいジャーナリストの寺澤有氏から助言を得ての判断だ。「神奈川県退職者キャリアバンク」という仕組みにより「求人票」が作成されている。それを開示させたらどうかという作戦だ。寺澤氏によれば警視庁は同種の文書について法人名をすべて開示しているという。

神奈川県退職者キャリアバンクとはなにか。県のホームページにはこう説明されている。

神奈川県では、県退職者(退職予定者を含む。以下同じ。)の再就職の公平性、透明性を確保するため、平成18年度から「神奈川県退職者キャリアバンク」を設置しています。

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神奈川県退職者キャリアバンクの目的は「県退職者(退職予定者を含む)の再就職の公平性、透明性を確保する」ことにあるという(神奈川県HPより)。

「再就職の公平性、透明性」のための制度なのだ。ならばなおさら、オープン社への再就職があれば出てくるにちがいない。筆者はそう楽観して、2020年3月、神奈川県警に対し、県警職員の再就職に際して企業などが作成した求人票(天下りリスト)をすべてを開示せよ――という情報公開請求を行った。

開示請求に対する回答が届いたのは5月はじめのことだった。結果は意外だった。神奈川県警が対象文書として特定したのは5年分(2016年度〜20年度3月1日)約1000件の求人票だ。

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神奈川県のHPに掲載された「キャリアバンク制度」の概要図。企業などから出された求人票を「バンク」が集約し、退職予定者との間で情報交換と調整をする仕組みになっている。「バンク」自体の透明性確保については明確な定めはない。

だが、そのうち法人名を開示したのは3分の1、約300件にすぎない。地方自治体や独立行政法人が作成したものや警察で管理職にいた者を対象としたものだけだった。残る800件は法人名が黒塗りにされている。

処分決定通知書を見ると、法人名を不開示にした理由は例の「情報公開条例5条2号」だ。

公開することにより当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため。(神奈川県情報公開条例5条2号)

再就職に伴う透明化・公正化を目的とした制度なのに、求人している企業名を明らかにしない。これでどうやって透明化を実現するというのだろう。

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神奈川県警本部が当初「開示」した求人票。法人名までほぼ完全に黒塗りにされている。

看過できない大問題だと考えた筆者は、2021年10月、法人名黒塗り処分の取り消しを求めて横浜地裁に提訴した。

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黒塗りの法人名は、後に不動産会社・リスト株式会社(横浜市中区、北見尚之社長)のものだと判明した。

パチンコチェーン店「ジャパンニューアルファ」には警視2人の天下りが確認できる。

神奈川県警天下り先ランキング。民間トップはALSOKグループ、2位は京急サービス。

パチンコ業界団体の神奈川県遊技場協同組合には警視が事務局長で天下っているのはじめ、過去5年で10人以上の天下りが確認できた(写真は上部団体の全日本遊技事業協同組合連合会=東京都新宿区市ヶ谷)。

不正融資で知られるスルガ銀行(写真は横浜支店)。

元行員が顧客の預金を不正に引き出した事件が進行中の横浜銀行。

関連会社中心に約20人の天下りが確認できたナイス株式会社(写真は本社)。

警備業大手・綜合警備保障の関連会社アルソック双栄に50人と多数の天下りがみられる。親会社の綜合警備保障では2022年1月、銀行ATMの保守を担当していた千葉支社の社員が計4億円を盗む事件が発生(損害額は1億円)した。社員(免職)は執行猶予判決を受けている。

歯科医が患者にわいせつ行為を働いた鶴見大学。

天下りリスト(求人票)の法人名を非開示にしたことに問題はないとの主張を述べた神奈川県の準備書面。

原告(筆者)は、オープンハウスへの天下りがあると「邪推」して情報公開請求を行ったが、じっさいには天下りはなかった――などと的外れで「得意げ」な記述がみられる神奈川県の準備書面。情報公開の手続きを進める際、他自治体警察の状況を調査する代わりにMNJの記事を調べていたらしい。

「防犯CSR活動」について説明する警視庁のHP。企業と「地域住民」(警察?)の「WIN-WINの関係」を目指す取り組みだという。

労基法違反が常態化し、社員が顧客をハンマーで殴打する事件まで起きた問題企業の大東建託も神奈川県警と「防犯活動」で協力関係を結んでいる。

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