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背中殴られ体当りされたトヨタ体験記…差別発言、パワハラ、暴力

「お前、障害者年金貰ってるんだろ?皆より給料高い、障害者は得だな」

情報提供
竹沢氏顔修正
トヨタを退職した竹沢晴敏氏(仮名、39歳)。健常者のなかで障がい者が混じって働くトヨタの工場で自身に起きた「いじめ」の体験を語った。

聴覚障害者の竹沢晴敏氏(仮名、39歳)は障害者採用枠でトヨタ自動車に入社し、14年間トヨタで働き2018年12月に退職した。それから4年が過ぎた今年1月末、「ケガをさせられた肉体的苦痛、及び、傷害を隠蔽された精神的苦痛に対し、700万円の慰謝料を請求」し愛知労働局に斡旋を申請した。在職中に、上司や同僚から差別発言やパワハラ、いじめを受け続けていたというのだ。「私だけが作業遅れやミスをしている訳ではないのに、上司は私一人を目の敵にし、ことさら酷く叱り、怒鳴り、背中を殴ることも頻繁でした」(竹沢氏)。組織ぐるみの弱者いじめカルチャーの下、仕事中に他の社員から体当たりされ肩にケガを負ったが、ただの作業者どおしの接触とされ、実態を隠されたという。3月29日に和解はしたものの、問題は根深い。いったい何が起きていたのか。竹沢氏を訪ね、詳しく聞いた。

Digest
  • 突然、他の社員が突進してきて体当たりされた
  • 障害者枠で採用、創意くふうで「敢闘賞」受賞
  • 忘年会・親睦会などの費用徴収で問題が・・・
  • 「トヨタの闇」を読んだことがきっかけ
  • 竹沢氏からトヨタへメッセージ

突然、他の社員が突進してきて体当たりされた

2018年2月21日の夜10時ごろ。愛知県豊田市のトヨタ自動車高岡工場で夜勤業務していた竹沢氏(当時34歳)は、いつものとおりラインにそって、リアドア(後部座席ドア)の塗装作業をしていた。

修正済み:事故説明図①.jpg ‎- フォト 2023-04-27 14.01.16
通常は上段のように作業する場所が決められているが、突然社員Aが後ろに来て竹沢氏に衝突したという。

このラインでは、前方はフロントドア工程、その後ろは竹沢氏が担当していたリアドア工程、その後ろがテール工程という流れだ。(左記図参照)

突然、前方のフロントドア工程で作業していた社員Aが後ろを振り返り、竹沢氏のところに近づき、肩に体当たりするようにドーンと強くぶつかった。とっさのことで、竹沢氏は後方に突き飛ばされ、身体が斜めになりながら倒れてしまった。

先に尻と太腿から床におち、上半身を支えるように手を着いたという。痛みよりも体当りされたことがショックだったという。

Aは助け起こすこともせず、謝りもせずただ見ていただけだった。

あまりにもひどいと、竹沢氏は上司Bと上司Cに訴えた。

「『Aが何の前触れもなく体当たりをしてきた。体当たりしてぶつけられた右肩がすごく痛い。普通に作業していただけなのにひどい』と私は上司に報告したのです。

すると、上司Bは、Aはわざとじゃない、お前が偶然ぶつかって転んだだけだ、倒れた拍子に手を突いたから肩を痛めたんだろ!と強く言われたのです。」

これだけ読むと、何らかの事情があって同僚が急いだため体に強く接触してしまい、その結果転んでしまっただけ、と思う人もいるかもしれない。

しかし、トヨタの工場では標準作業が細かく定められており、担当者はそれぞれの場所で作業しなければならない。なにか不具合などが生じると紐を引いて知らせるようになっている。

そのときは、ラインが止まるなど不具合はなかった。なによりも、障者害枠で入社した聾者(ろうしゃ=聴覚障害)の竹沢氏は、この“衝突事件”に至るまでに様々な嫌な思いを抱いてきたのである。その苦い体験があるからこそ、衝突された瞬間に「これは、いじめだ」と彼は思った。

この思いをもつに至る経緯や事情は後述するとして、転倒させられたあとどうなったのか。

ぶつかられたのは夜だったので、翌日の夕方に安全衛生(工場内診療所)で竹沢氏は受診した。

このとき、看護師から聞き取りがあったので、Aに体当たりされたことや、ぶつけられた肩が痛むことを伝えた。

さらに前の晩に訴えた上司も来て何か説明したが、「そのときの声が小さく、補聴器をつけていても声がよく聞き取れませんでした」と竹沢氏は振り返る。

結局、整形外科を受診し、全治10日間の右肩挫傷と診断され、2週間は休憩所で創意くふうなど作成し、2週間後に仕事に復帰した。しかし、その年の12月31日付で14年勤めたトヨタ自動車を退職してしまったのだ。

この件が明るみに出たのは、それからまる4年が過ぎた今年(2023年)2月7日。竹沢氏が愛知県豊田市内で記者会見をひらき、「体当たりされてけがをした」ことや、紛争の解決を求めて愛知労働局に斡旋をもとめる申請(700万円の慰謝料を請求)をしたことを公表したのだ。

この記者会見では、過去に度重なるいじめがあったことなどにも言及した。

体当たり事件から4年も経って事を公にしたのはなぜなのか。その詳細を知るため、当事者の竹沢晴敏氏を訪ねた。

障害者枠で採用、創意くふうで「敢闘賞」受賞

待ち合わせ場所のファミレス駐車場に、補聴器をつけた竹沢氏が現れた。店内が混んでいたので外でしばらく立ち話となったが、近くで大きな声で話すとなんとか聞こえるようだが、車の騒音が入ると聞きづらそうだった。

席が空いて中に入ったものの、店内もかなり騒々しく、聴覚に障害がなくても話が聞きづらい。そこで、筆談を中心にラインメッセージも使ってやりとりした。その日以後も、おもにメッセージのやり取りで話を聞いていった。

竹沢氏は生まれついての聾者であり、障害2級である。愛知県内の聾学校を卒業し、2004年トヨタ自動車の障害者枠に応募し採用された。

同級生で何人も希望者はいたが、その年の学校推薦枠は竹沢氏一人だけだった。勤務先は愛知県内にある田原工場である。

トヨタ自動車には、障害者採用枠がある。竹沢氏のような聴覚障碍者や四肢に障害がある人など多様で、毎日新聞電子版2021年12月3日付によれば、2020年からは知的障害や精神障害のある従業員も生産ラインに加わったという。

また、2008年にトヨタ自動車100%出資の特例子会社トヨタループス株式会社(資本金5000万円・有村 秀一社長)を設立。最新の社員数は449人だ(2023年4月20日受付の求人票)。トヨタ自動車の社内印刷、社内郵便の受発信、その他の業務も受託している。

竹沢氏は、このトヨタループ(株)ではなく、トヨタ自動車本体への就職を目指し、入社を果たした。なぜなら聾学校の先輩が多く在籍しており、トヨタ本体に就職することだけを考えていたからだと言う。

こうして田原工場でトヨタマンとして社会人のスタートを切った。聴覚障害をもつ人は、どうやって仕事を覚えるのだろうか。

「渡された厚いパンフレットには作業内容が詳しく書かれており、それにしたがえば仕事ができるようになっているんです」

高岡工場4.jpg ‎- フォト 2023-04-27 12.45.48
トヨタ自動車高岡工場。ここで夜勤時に「体当たり事件」が起きた。

実をいうと、この田原工場でも障害者ゆえにいやな経験もしたが、2016年6月に高岡工場に移って以降、状況が悪化したという。

高岡工場に異動した翌年2017年4月に忘れられない出来事が起きた。

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竹沢氏は創意工夫活動などにも取り組み、「敢闘賞」を受賞していた。

(左)トヨタが医療機関宛に送った治療依頼書。これだと作業中に作業員がただ接触しただけということになる。(右)診断書。肩に全治10日間のけが。

愛知労働局に提出した「あっせん申請書」の一部。ケガをしたときに話を聞いてもらえなかった悔しさが今でも残っていることが分かる。

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