ストレスフリーの職場作りは、ストレス耐性を弱体化させていないか
人間のストレス耐性には限界があるといわれる。個人差こそあるが、限界に達すれば自己防衛本能が働きスイッチを切る。発狂するというのも固体を守るための一種の防御本能である。
人間がその人生の中で最も多くの時間をすごす場所はおそらく職場だ。学校を卒業し、よほどのことがない限り、自らの収入の糧を得るため、40年もの長きにわたって、自らの労働力を提供しなければならない。
その職場でのストレスは、年々激しさを増しており、仕事に対する不安や悩みを感じているビジネスマンはビジネスマン全体の6割にもなるといわれている。
そんなビジネスマンの中でも特にストレスを感じている職種は、常にプレッシャーにさらされている職種、たとえば常にノルマに追われる営業マン、納期に追われるSEなどだ。
こういった人たちは、往々にして職場内で重要な職務を任されており、いわゆる「稼ぐ人」に属している。こういった人たちが、注意力の減退、モチベーションの停滞、遅刻、早退の増加、出社拒否という症状を発現してしまえば、それは企業全体の生産性を引き下げる無視できない要素となる。やはり組織が内部にいる人間の集合体である以上、その個々人の生産性の低下はひいては組織全体の生産性の低下、すなわち企業価値の劣化につながりかねない。
近年、彼らの日常的な高いストレスを軽減し精神の安定を図り、職場として全体の生産性を向上しようという試みが注目されている。
その手法の代表的なものはEAP(Employee Assistance Program)と呼ばれているもので、米国では30年近い歴史があり、特に企業のみならず、病院、官庁、学校などでも積極的に利用されている。
わが国でも、ジャパンEAPシステムズ、ライフバランスマネジメント、等EAP専門の会社もできており、企業とのカウンセリング契約を結んでいる例も少なくない。
こういった会社は、いわゆるプラス思考で考えさせるとかカウンセラーにフォローさせるとか、いわゆるソフト面での改善に取り組んでいるが、それとは別にハード面、いわゆる職場環境の充実といったことでメンタルヘルスをフォローしている会社もある。それが日本オラクルである。
詳しくは弊社記事を読んでいただきたいが、日本オラクルは、社員の職場環境に非常に気を遣っている。在宅勤務制度である「Work@Home」、マッサージ室の完備、有給休暇の取りやすいカルチャーの醸成。多少の投資は、メンタルヘルスの低下による企業の生産性を回収するためと割り切っているように見える。そのかいあってか、米国本社のトップダウンの判断により全社員の1割近い人員整理が行なわても、相変わらず若くて自由闊達な会社のイメージを維持し続けている。
しかし考えてみて欲しい。人間が人間らしい生活、いわゆる社会的な活動を行なうにあたっては、他者との関わりなしでは生きてはいけない。
そこには自分以外の存在があり、当然ながら腹の探りあいもあり遠慮もあり摩擦もあり葛藤もある。しかしそれが生きるということである。いちいちそのたびごとに傷ついたといって腐っていたら、ますます人のストレス耐性も弱くなっていく。
オラクルのメンタルヘルスを考慮した職場作り。立派である。しかし、これはそもそものストレス耐性というキャパシティを減らしてはいないだろうか。
大災害、戦争など非日常的カタストロフィでは自殺率が急激に減少するという。あるいは普段の平和な日常でも、自殺しようとしている人を蹴飛ばそうとすれば「あぶないだろ」くらい言うかもしれない。ストレスは減っていないが、その耐性というキャパシティが上昇した瞬間である。
バケツの水をすくうのも結構だが、バケツのサイズを大きくするのも選択肢の1つではないだろうか。
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読者コメント
この問題は、「人とはどうあるべきか」を問われていると感じる。「ストレスがあると耐性ができる」とか「ストレスを減らす環境作り」とか、「人として何を目指しているか」がなく、どちらも目の前の火の粉を払うその場しのぎではないでしょうか。
抱いてしまったストレスを減少させる試みよりも重要だと思うんですね。いわゆる対処療法よりも予防療法というか・・・。まとまらず長々とすみません。ご意見ありがとうございました。
社会的な生活を営めば不安や悩みは必ずあるわけで、それをストレスと認識した瞬間にストレスになり、ストレスと意識したことが自らを更に追い込んでいくのだと思っています。そうなると、そもそも「ストレスと認識しないメンタリティ=強いストレス耐性」が、
>すみません さんおっしゃっている2点はそれぞれ、「強いストレス耐性が必要な理由」と「ストレスどころではない状況の例」であり、私としてはそれらの点を根拠として認識していません。じゃあ何が根拠かというと、正直きちんと論理的なものは持っていないのですが、感覚的経験的に言えば、
記者さん自身がお気づきの通りで他人との関わり合い方が重要と思います。その他人との関わり合い方の工夫に着目することが重要だと感じます。昨今の逆に体系化された職場構成自体が個人の孤立化を増幅しそれがストレスを増幅させているとも感じます。災害時のくだりでも耐性だけでなく、団結する他人との関わり合い方がストレスを少なくしているとも思います。
ストレスフリーの職場作りがストレス耐性を弱体化させている、とする根拠は「他者との葛藤も必要だし」「戦争時の自殺率は減少するし」といったことのみでしょうか?どちらも職場のストレスフリーとは関係ないように思います。
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