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日本の労働生産性は本当に低いのか、ドイツはなぜ高いのか

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OECDの生産性(一人当たりの労働者の1時間当たりのGDP)に関するデータにて、ドイツは10位(60.5ドル/時間)、日本は19位(42.1ドル/時間)である。その相対的な評価より「ドイツの生産性は日本よりも高いと言える」という前提のもとで、各生産性の項目(Input、Process、Output)にて生産性向上に寄与するポイントをまとめた。
「日本は生産性が低い」というのが定説だが、それは本当なのか――MBAを現地で取得して現在ドイツに住む筆者は、疑問に感じる。遅延が日常化した交通機関、遅いインターネット、紙だらけの通知など、日本よりも生産性が低いと感じる場面に、よく遭遇するからだ。しかしデータ上では、ドイツは日本よりも生産性が高いとされる。確かに、ドイツでは会社員だけでなく自営の小売業者もしっかり休暇を取り、会社で深夜残業は無いどころか、金曜の午後には仕事を早めに切り上げて退社している。筆者のインターンシップ・就活等の現地での体験から、人材の適材適所配置・高度人材の確保・東欧の安価な労働力が、高い生産性の秘訣ではないか、との仮説を持った。また、ドイツ企業と日本企業のパフォーマンスについて、中国に駐在する筆者の友人は「確かにドイツ企業は中国市場では強い」という。駐在員目線で見たドイツ企業の強さ、日本企業の課題から、日本企業の生産性について総括したい。
Digest
  • 交通遅延、紙文化、低い光回線普及率、長すぎるリードタイム
  • 徹底的な人材の適材適所配置、高度人材の確保、東欧の安価な労働力
  • 東欧・モルドバで月給200ユーロの過酷な環境のドイツ下請会社
  • 在中国大手日系企業駐在員のインタビュー「中国市場で日本企業はドイツ企業に、生産性の面で勝てない」
  • 中国人学生にとって合理的な選択となるドイツ企業
  • 中国市場に依存のリスク「日・独共に下方修正です」
  • 生産性を向上させ、競争力を再び得るには評価・転勤制度を見直すべき
  • 低いと言われしまう日本の生産性
  • そもそも生産性とは何か、疑問のある統計・レポート

交通遅延、紙文化、低い光回線普及率、長すぎるリードタイム

筆者が「ドイツの生産性の方が、日本より低いんじゃないか?」と思える場面は枚挙にいとまがない。交通インフラ、紙文化、遅いインターネット、なんでもとにかく長く時間がかかる事務処理プロセスなど、あげればきりがない。各々、実体験を交えながら説明したい。

まずドイツ在住の多くの人を悩ませるのがドイツ鉄道である。ドイツ人ですらもドイツ鉄道のことを良く言わない。よく言う人に、筆者は出会ったことがない。筆者の在籍していたMBAの同級生もドイツ鉄道について悪口を言っていたが、ドイツ語講師のドイツ人ですらも同じくよく批判していた。

つい最近でも、筆者が受講するドイツ語講座で、講師から通信アプリ(Whatsapp)で、こんなメッセージが届いた。

"Hallo, zusammen, wegen einer Sperrung am Haupbahnhof fahren die Züge nicht weiter. Werde mich deshalb ca.30 Minuten verspaten"(こんにちわ、みなさん、中央駅の通行止のため電車が先に進みません。そのため30分ほど授業に遅れます)。

このとき、同じく筆者も遅れてしまった。途中駅で停止したまま、目的地である中央駅まで行く気配はなく、電車運転手のアナウンスは大きくため息をついて「この電車は先に進めません。なので、ここから逆の方向へ行きます」と、申し訳ございませんと言う謝罪もなく、出発地の駅に向かって戻って行ってしまった。

電車が来ないというとき、スマホアプリの"DB Navigator(日本でいうNavitimeやジョルダンみたいなもの)"や電光掲示板をチェックするが、時刻通り来る掲示となっており、ひどい時はバグが起きていて、まともに情報が表示されていない時がある。リアルタイムに正しい情報を掲示していないこともよくある。何を信じたら良いかわからず、混乱することが多い。

日本の新幹線が20秒定刻より早く出発してしまい謝罪したニュースがBBCで報じられたが、そのように時間に神経質になるよりも、5分ぐらいの遅れは許容してやってもいい、というのは理解はできる。

しかし、遅れが生じたり、電車が来ません、などというのが何度も日常的に続いてしまうと、工場に働く労働者が定刻通り仕事を始められない、サービス産業従事者が滞りなく業務を遂行することができない、など生産性への悪影響が蓄積されていってしまっている、と言える。

筆者がMBAの課外授業で受けていたドイツ語講座のドイツ人講師は、ここ最近のシュツットガルト地域の電車の遅延はひどい、昔はもっと時間を守っていた、と言っていた。その講師は"Kein Stuttgart 21"を書かれた手提げ袋を持っていた。"Kein Stuttgart 21"とは、「ノーシュツットガルト21」のことで、プロジェクト反対の意味である。

その"Stuttgart 21"とは、シュツットガルト中央駅の大規模な改修工事プロジェクトのことを指す。この"Stuttgart 21"は地元シュツットガルトでは炎上プロジェクトの象徴であり、大遅延によって税金から捻出されるコストが肥大化していき、その金額は恐ろしいので聞いてはならない、とさえ地元で言われている。

Suttgart Zeitung(シュツットガルト新聞) "Kosten für Stuttgart 21 steigen erneut (シュツットガルト21のコスト上昇を更新)"「プロジェクト工事の相次ぐ問題のため、危機準備金として495万ユーロ(日本円で約5.9億円)を設定したことを発表」

「ドイツ人は計画性があって、時間を守る」と言われているが、このStuttgart 21のプロジェクト遅延だけでなく、さらに有名な遅延プロジェクトとして、ベルリン新空港建設も挙げられる。これは、ベルリンの2011年の開港を目指して進められたプロジェクトが、2019年現在になっても開港の目処が立たない状態である。日本のみずほ銀行のシステム移行の炎上に近い状況が起こっている、と言える。

また、ドイツの紙の多さに、「まるで日本みたいだな」と驚かされることがある。外国人局の通知、連邦雇用庁(Bundesagentur für Arbeit)からの通知案内、確定申告の結果通知などは、全て紙で届いている。

面を食らったのが、職安(連邦雇用庁)のカウンセラーが紹介できそうな会社情報を後日、手紙で送ってきたことだ。カウンセラーと面談をした際、親切に対応してもらったが、事前に私のメールは登録されていたので、メールで、PDFによって送ってくれた方がいいのに、と思えた。手紙で郵送してくるのは、税金の無駄遣いに思えた。

また、筆者は法律に則り、日本の運転免許証をドイツ語訳した書類を添えて、ドイツの運転免許証(Führerschein)を申請したが、5ヶ月近く経っても、何も連絡がこない。Landratsamt(地域の省庁)の免許センターに電話したものの、「待っていてください」と言われただけであった。申請してから5ヶ月は、どう考えても遅すぎる。

しかし、知り合いの日本人にアドバイスされたのが、「外国人の運転免許証は遅くなるので、手紙で嘆願書を書くと、彼らは動きますよ」とのことであった。今の時代、「手紙を送れ」というのに驚いたし、かなり面倒に思えた。

なぜなら、筆者は現在ドイツ語講座にてドイツ独特の手紙フォーマットを何度も練習させられているからである。この手紙のルールが、ドイツ独特で、Absender(送り主)、Empfänger(受取)、日付(Datum)、題名(Betreff)、書き出しの記述の仕方、位置が厳密に決まっている。

これは、日本語の「御中」「記」や「敬具」のようなルールと同じであるが、さらにビジネス文章的なうまい表現も使わなければならない。これは、就職活動のカバーレター(Anschreiben)も全く一緒であり、そこでドイツ語のレベルをチェックされる。

これらのルールを守って「ちゃんとした」ドイツ語を書かないと、読まれることがなくなる。消耗させられる作業である。

次に、ドイツのブローバンド事業について触れたい。ドイツのインターネットは遅い

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(写真上)ドイツ鉄道の遅延の様子。ドイツ鉄道はよく遅延し、電光掲示板も正確でなく、乗客を混乱させる。深刻そうに頭を抱えるビジネスマンや駅員に怒って叫ぶドイツ人を見ることもある。(写真下)筆者の同級生が送ってくれたもの。1,264分後に到着とありえない数字が掲示されている。

ドイツテレコムのVDSL(Veryhighspeeddigitalsubscriberline、超高速デジタル加入者回線)装置。元通信インフラ会社で働いていたので、チェックしてしまう。驚いたのが、VDSL装置がマンションの宅内でなく屋外の遠い場所に備え付けられており、さらに宅内までは銅線ケーブル(Kuperkabel)で接続されているという図であった。このVDSL装置から宅内まで距離があるので、伝送損失が高くなってしまい、回線速度が遅くなってしまう。また、銅線は傍受が最もしにくい回線とのこと。

(写真上)遅延に遅延を重ねて、莫大な公的資金が注入されて地元で物議を醸している中央駅大改修プロジェクト"Stuttgart21"の工事の様子。(写真下)そのStuttgart21を反対するデモが毎週月曜日に開かれており、その集会の様子。

(写真上)基本的にドイツは紙文化。外国人局の通知、職安の通知や案内、確定申告の結果通知など紙が多い。連邦雇用庁(BundesagenturfürArbeit)から届いた手紙の通知。(写真下)一方で、「スクラップ・アンド・ビルド」で徹底的に効率化を目指した中国の象徴とも言える「アリペイ」はドイツのドラッグストアであるdm(ドイツ版マツモトキヨシ)でも見ることがあった。

中国のエンジニア系学部の学生に人気のある企業一覧(Universum社調査より)。ドイツ企業に黄色枠、日本企業に青線枠をつけた。上位100社のうち、ドイツ企業は、シーメンス、BMW、フォルクスワーゲンなど8社がランクイン。一方、日本企業はトヨタ、日産、ソニーの3社のみ。

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vox_populi2019/08/13 19:13

無料部分を読むのみだが(サイト主の方、すみません)、面白いドイツ人論。結局ドイツ人の「労働生産性」が「高い」のは単に賃金が高いからであり、高賃金でも回る経済循環が今のところは存在するから、なのだろう。

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goodstoriez2019/08/12 23:44

“知り合いの日本人にアドバイスされたのが、「外国人の運転免許証は遅くなるので、手紙で嘆願書を書くと、彼らは動きますよ」とのことであった。今の時代、「手紙を送れ」というのに驚いたし、かなり面倒に思えた”

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