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銀座線は“殺人電車” 危険度高い茶石綿除去も「乗客に知らせる必要ない」

情報提供
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オーマイニュース2006年9月12日の記事より
 「アスベスト除去作業車が脱輪、先月下旬」という記事を読み、東京地下鉄が乗客に知らせず、除去工事を半年もかけてダラダラやっている事実を知った。同社によれば、リスクが高い茶アスベストがトンネル内に150メートルも吹き付けられており、既に1ヶ月以上前から工事を行っているが、「乗客には知らせなくてよい」「表示はこれから」などと、法律を守る意識が全くない。工事開始日も嘘だった。この調子だと、工事もいい加減である可能性が高く、乗客は殺されかねない。銀座線には絶対に乗ってはいけない。
Digest
  • 乗客をモルモット代わりに
  • 乗客には「知らせなくていい」
  • 心配を取り除くのが法の趣旨
  • 2つの駅だけでやる
  • 表示をやるということは分かっていたと思う
  • いい加減な行政で、また問題先送り
  • 「表示しないのは論外」
  • 「リリースとサイト告知で十分」と乗客無視の広報
  • 「生活者犠牲」の日本の政治構造あらわす
  • 由らしむべし、知らしむべからず

アスベスト(石綿)は、昨夏、明らかとなったクボタによる“公害殺人事件”で広く知られたように、健康な人を死に至らしめる危険物質だ。タバコの煙とは異なり、「閾値」がない。つまり、ここまでなら安全、少量なら健康回復できる、という類のものではなく、どんなに少量であっても、吸い込むと、一定の確率で、30~40年後に、肺がんや悪性中被腫を引き起こすことが、分かっている。

もっとも普及している白石綿(クリソタイル)よりも、さらに危険性が高いのが茶石綿(アモサイト)、青石綿(クロシドライト)で、後者2つは、禁止時期も95年と日本のなかでは早い。白が原則禁止となったのは2004年10月、つい2年前の話だ。

乗客をモルモット代わりに

石綿除去作業は、大気汚染防止法によって、工事内容の掲示が義務付けられている。東京地下鉄が乗客に知らせないのは、要するに、乗客が減って減収となるのを恐れているからだ。客観的に見て、ほかの理由はない。

しかし、その人命無視、企業利益優先の姿勢は、明らかに間違っている。お客様相談センター(03-3941-2004)に尋ねた。

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茶アスベスト(東京都配布資料より)

対応した工藤氏によれば、東京メトロ銀座線の神田~末広町間のトンネルに150メートルも吹き付けられていたのは、茶アスベストで、含有率も85~89%と高く、もっとも危険なパターンである。これも発表時には完全に隠していた。

--8月28日より行う、ってリリースには書いてありますが、直前に脱輪事故があったそうですね。スケジュール変更しなくていいのですか。

「作業は、9月4日から始めたということです」

--発表したものは、結果的に嘘だった、と。

「だいたいの期間を発表しただけです、実際の作業は少し遅れたようです」

--はっきり日にちが書いてある以上、変更があるならお知らせすべきでしょう。そうでないと信用を失う。そもそも、来年2月まで、半年もかけるのはなぜですか。乗客の立場からは、短期集中で問題箇所だけ閉鎖してやってくれるのが一番、安全です。ダラダラ6ヶ月間も乗客をリスクにさらすのは、間違っている。

「運行に支障が出ないよう、夜のうちに工事をする、ということになっています。テストを行い、安全性は確認しておりまして、定期的に、測定もしています」

--問題箇所を遮断して工事をするのが一番安全な訳ですが、その間、乗客を振り替え輸送すると余計な支出になってしまうので、企業利益を優先させたとしか思えません。そもそも、10億円もかけて開発した除去専用車両を、今回、初めて使う訳で、実績もない。乗客はモルモット替わり、ということですよね?去年、問題になったばかりですから、除去技術自体、まだ確立されていませんし。

「われわれとしては、安全だと思っています。環境測定をやって確認もしますから」

--誰が測定するのですか?

「東京メトロの職員と、業者です」

--それなら、もし異常値が発見されても、隠しますよね。人が行う以上、失敗は防げませんが、除去が失敗したと知られたら、何十万人がそこを通っている訳だから、大騒ぎになる。当然、あなたたちは隠し通すはずです。行政などの第3者でないなら、測定など意味がありません。

「区役所にも確認をとって、安全な方法でやっていますから」

--人力で、ヘラでそぎ落とすって書いてありますね。それなら、痕にいくらかは残るはずですから、電車が走り抜ければ風力で舞いますよ。100%安全な訳がないでしょう。

「……」

--誰か、ちゃんと説明できる人はいないのですか?

「私が窓口となっておりますので」

乗客には「知らせなくていい」

--そもそも、ブロックに分けて除去する、と書いてありますね。アスベストは壁一面に吹き付けられていて、境界線もないのだから、それをブロックに分ける作業で、まず確実に粉塵が舞いますね。そこを、窓を開けた電車が通れば、確実に乗客が吸い込んで、一定の確率で死に至ります。

「はい…。詳しいことは分かりませんが」

--とにかく、リスクはあるんですよ。閾値がないんだから。なぜそれを、乗客に知らせないのですか?法律で掲示が義務付けられていますよね。乗客にきちんと知らせた上で、リスクを受け入れて利用を続けるか、リスクを避けて他の交通手段を利用するか、乗客が選択できるようにすべきなんです。

「プレスリリースを出していますし、サイトには載せています」

--乗客のほとんどの人が、そんなものは見ていないんですよ。アンケートでもとってみてください。誰も知らないから。知らせたら、批判を浴びて困るから、知らせないだけでしょう。なぜ、銀座線の各駅の掲示板などに張らないのですか?

「今のままで、いいと思っています。今後の検討課題とは、させていただきます」

--乗客には知らせなくていい、と。

「はい、それでいいと思っています。乗客向けに、新たに告知をするつもりはありません。東京メトロとしての答えと思っていただいて結構です。ご意見としては、承らせていただきます」

--ほかにも日比谷線や千代田線などで吹きつけがありましたが 、そちらの工事日程などを教えてもらえませんか

「それについては、公開するつもりはありません」

おそるべき回答だった。コンプライアンス意識ゼロだ。乗客の安全や不安について、まったく考えていないのである。情報を隠すということは、工事もいい加減にやるつもりに違いない。

心配を取り除くのが法の趣旨

法律を、確認しよう。環境省(環境局環境改善部大気保全課大気係)に尋ねたところ、告知義務については、下記の通りだ。

 大気汚染防止法18条の15などに基づき、
・人の眼に触れるように工事内容を表示しなければならない
・区役所に、工事の2週間前までに届け出なければならない

「表示の趣旨は何ですか?」との問いには、「近くを通る人が、心配しないように、ということです」とのことであった。

2つの駅だけでやる

届け出を受理した千代田区役所に尋ねる。生活環境課・小泉氏が対応した。趣旨を伝えると「問い合わせてみます」とのことで、折り返し電話を貰った。

--どういうことでしたか。

「表示をしていなかったので、これからやる、ということです」。

--私が東京メトロに聞いたときは「やるつもりはない」とはっきり言っていましたけど。どこに表示させるんですか。

「トンネルを挟んだ2つの駅(神田、末広町)の、目に付くところだけです」。

--じゃあ、たとえば渋谷から乗って座って、上野で降りる人は知ることができませんよね。1メートル先に工事現場があるにもかかわらず。窓からアスベストが入ってきますが。2つの駅だけ使っている人なんて、全体のごくわずかでしょう。

「そういわれてみると、ごもっともではありますが。でも、全駅は無理だそうです。係長がそう言っております」

--理由は?

「そもそも安全に工事が行われている、という前提ですので」

--表示による告知の問題とは、別の話です。表示も守らないんだから、工事も守っていない可能性が高いですよね。ルールを守らない人たちなんだから、信用できませんよね。そもそも今回、初めて使う機械で除去するわけで、実績もないし、安全な技術が確立されているとは言いがたいんですよ。

「ほかの乗客に対しては、プレスリリースやWEBサイトで知らせている、とのことです」

--リリースなんて誰も読みませんから。乗客は、東京メトロのWEBサイトを毎日見る生活を送っていますか?乗客にアンケートでもとってみてください。要するに、今ごろになって表示したら、なぜこれまでやらなかったのかという責任問題になるのを恐れているだけでしょう。ずいぶんいい加減ですが、誰がこの件、許可したんですか?

「届出、でいいことになっています」

--責任の所在を明確にしないと、また同じことがおきます。届出を受理した担当者は?最終的には課長が承認するんでしょう?

「生活環境課の課長は島田です。公害指導係は、関根係長がおります」

--じゃあ、関根さんに代わってよ

「すいませんでした、以後気をつけます、ということですので…」

表示をやるということは分かっていたと思う

--そんないい加減な態度でいいとは思えない。本人に代わって。

 公害指導係・関根係長がでる。
--公害指導係なのに、ぜんぜん指導できてないですよね。東京メトロが守らなかったのか、あなた方が指導しなかったのか、どっちですか?

「それは、言った、言わないの問題になりますので…、東京メトロも、(表示を)やるということは、分かっていたと思います」

--じゃあ、東京メトロが法律を守る意志がなかった、と。危険な会社ですね。しかも、それを行政が指導しなかった、ということ?

「われわれも、いちいち現場を確認していませんので。千代田区内だけでも、現場がたくさんあるものですから」

--地下鉄は公共機関だし、何十万人もの乗客が現場の近くを通ります。そういう優先順位をつけられない、ということですね。では、なぜ、法律の趣旨に則って乗客に、知らせないのですか?

「近い駅に表示する、ということでいい、やむをえない、という判断です」

--それでは乗客の大多数には知らされませんが、それでは現場近くを通る人に心配させない、という法律の趣旨に反すると思いませんか。

「全員に知らせなくても、やむをえない、ということです。ご意見があったことは承っておきます」

またも、行政と企業の癒着である。これまでのアスベスト問題の先送りと、まったく構図は同じだ。

いい加減な行政で、また問題先送り

こういった行政のいい加減な対応が、日本のアスベスト対策を遅らせ、大量殺人につながった。かつて1987年、学校校舎のアスベストが問題となり、「学校パニック」と呼ばれたが、そのときに打ち出された対策は不十分で、昨年、また問題になった。

たとえば、港区に聞いたところ、区内では、赤坂中学校の美術準備室などで、青アスベスト(50%以上混入)が見つかり、今夏、除去工事を行った。

担当者によれば「当時、見落としていまして。だから、今回は私自身、よく見てまわりましたから」(施設課・カマタ氏)などと、のんきなことを言う。見逃した責任は誰もとらない。だが、この放置された17年間のあいだに吸い込み、30年後に死ぬ人が、確実に一定の比率で出てくることだけは間違いない。行政による生徒殺人である。

マスコミは一時的に騒ぐだけ、行政はやる気なし、政治家は企業利益優先で国民の命には興味なし、なので、またも、過ちは繰り返されるだろう。これが日本の政策決定の現実なのだ。

たとえばフランスのパリでは、不特定多数の人が出入りする可能性があるすべての建物について、民間・公共機関を問わず、建材にアスベストを使用しているかを検査して、市民に情報公開しなければならない、という。

これは、TBSのパリ支局員が、昨年、パリ支局の建物に調査官が検査にやってきた風景をリポートし、「うちは、アスベストはなく、きれいでした、とのことです」と、ニュース番組で報道していたから、間違いない事実だ。

フランス国立図書館では、蔵書についても、アスベストのクリーニング措置を講じているそうだ。これは、生活者の立場で論理的に考えれば、当然の措置である。長期にわたって曝露を受けた書籍には、当然、アスベストが混ざっているからだ。

東京大学内の図書館や日比谷図書館など、アスベスト工事を行った図書館の本には、当然、アスベストが付着している訳で、それをめくれば飛散し、吸い込んで30年後に死ぬリスクが高まる。日々、被害者が増えているが、日本では全く無策なのが実態だ。

本当に生活者の安全を考えた政策とは、そういうものである。市民革命の元祖であるフランスと、市民革命を経ていない日本の違いは大きい。日本は、企業利益第一の国なのだ、と実感させる。人の命に対する意識が、まったく違う。

東京メトロの例でも分かるとおり、日本のアスベスト対策は全く抜け穴だらけで、根本的な解決につながっていない。自衛策を打とうにも、交通機関各社のプレスリリースを毎日、見続けて質問し続けないと電車にも乗れないのだから、生活者が、健康を保って生きられるような国では全くないのだ。政治を変えなければいけない。

「表示しないのは論外」

そもそも、東京メトロのような、明らかに法律の趣旨を踏み外して利益を得ようと考えている違反者に対して、罰則はないのか。環境省に尋ねた。大気環境局大気環境課の藤井氏が対応した。

--東京メトロが告知義務を守らなかった。こういう場合、罰則はないのか?

「まず行政から『適合命令』を出して、それに従わないと、6ヶ月以下の懲役、50万円以下の罰金に処することができます。

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神奈川新聞1986年10月6日

朝日新聞2005年8月5日朝刊一面

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