My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

通学中の中学生狙った強制わいせつ未遂でも「停職」どまり 警察職員による性犯罪多発の背景に浮かぶ“甘すぎる懲戒指針”

情報提供
20230221_180136
関内駅(横浜市)構内のエスカレーターに貼られた盗撮犯罪防止を呼びかける神奈川県警のポスター。県警の警察官や職員が痴漢や盗撮で有罪になる事件は後を絶たない。

川崎市内の路上で今年5月、神奈川県警交通規制課・今野由惟警部補(当時36歳、逮捕後に依願退職)が通学途中の女子中学生を背後から襲った強制わいせつ事件(7月の刑法改正で現在は不同意わいせつ罪)で、横浜地裁(藤原靖士裁判官)は10月4日、今野被告人に対して懲役1年6月執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。神奈川県警(直江利克本部長、職員数約1万7千人)の警察官や職員による性犯罪は後を絶たず、2022年度は過去10年で最悪の9人もの職員がわいせつ行為等で懲戒処分となった。警察による性犯罪は社会の安全を揺るがす重大な問題だが、背景には行政処分の甘さがあった。

Digest
  • 女子中学生襲った警部補に猶予刑
  • 通学路で待ち伏せ、口ふさぐ
  • 家族への不満を縷々述べる被告人
  • 用意周到に現場を下見
  • 裁判官が指摘した「違和感」
  • 停職6ヶ月のワケ
  • 盗撮は減給が定番、痴漢でも停職
  • 県教委、知事部局より性犯罪に甘い警察指針
  • 「取材には応じない。理由は言わない」神奈川県警

※「神奈川県警懲戒処分台帳(2011~2022年度)」等資料4点PDFダウンロード可

通常の地方公務員であれば懲戒解雇になるケースでも、警察職員はクビにならず、痴漢・盗撮で減給または停職、強制わいせつでも停職どまり。こうした甘い処分の原因を探ると、警察庁「懲戒処分の指針」にたどり着いた。少なくとも性犯罪については、神奈川県知事部局や県教委の指針よりはるかにゆるい。指針の見直しが必要ではないかと県警に尋ねたところ、返ってきたのは恐るべき傲慢な答え――「取材には応じられない。理由は答えない」だった(広報課を通じて県警監察官室=荻原英人室長)。県民や市民の安全など二の次だった。

女子中学生襲った警部補に猶予刑

20230406_142613
今野警部補(停職6か月、依願退職)に対する強制わいせつ未遂罪事件が審理された横浜地裁。

10月4日、横浜地裁560号法廷で神奈川県警交通規制課・今野由惟警部補(犯行当時、依願退職)に対する強制わいせつ罪の判決公判が開かれた。保釈ずみの今野被告人は傍聴席から法廷に入り、被告人席に座った。メガネをかけたやせがたの中背、疲れた中年のサラリーマンといった風情。

藤原靖士裁判官が言い渡した判決は、懲役1年6月執行猶予3年(求刑同1年6月)。

「現職の警官として被害者の実情や心情を人一倍理解している立場でありながら犯行に及んだことは、厳しく非難されるべきである」

主文につづく判決理由で藤原裁判官はそう述べた。そして判決言い渡しが終わると、執行猶予中に有期刑の有罪判決を受けた場合は猶予が取り消されることや、猶予終了後に犯罪を犯すと罪が重くなり、実刑の可能性が高くなること、控訴手続きなどをひととおり説明してから、次のように説諭した。

「金輪際犯罪を犯すことなく社会生活を送ってほしい。よろしいですか」

「はい…」

ほとんど聞きとれない小声で今野被告人は答えた。

(いったいどれほど反省しているのか。裁判官も不安を感じたのではないだろうか)

犯行の状況について去る9月13日の公判の傍聴を通じて知っている筆者は、そんな感想を持った。

このときの判決は新聞やテレビで報じられたものの、扱いは総じて地味で一過性のニュースで終わった。警察官の性犯罪がありふれて、さほど驚きをもって社会に受け止められなくなってしまった。

通学路で待ち伏せ、口ふさぐ

20230406_141222
神奈川県警職員の採用募集ポスター(横浜市の県警本部)。

以下は9月13日の公判で判明した事件の内容である。

今野被告人が神奈川県警に入ったのは2013年。途中の経歴は明らかにされていないが、事件当時は本部の交通規制課に所属していた。

5月1日は非番だったが、出勤すると家族に嘘をついて早朝に外出。犯行現場となる川崎市の某所に到着し、午前5時40分ごろから徘徊を開始する。制服姿の女子生徒の胸を触りたい――。それが動機だった。付近の監視カメラ映像によると、6時31分、被害者とは別の女子中学生を追跡している。しかし、他人(ひと)目のあるルートを通ったために、犯行を断念する。同43分ごろ、通学中の被害者(13歳の女子中学生)にねらいを定め、後をつける。背後から接近して手で口をふさぎ、もう一方の腕を首にかける。「静かにしろ」と脅しながら付近の敷地まで押していく。

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り8,409字/全文9,883字

交通取締に出動する神奈川県警のパトカー。事件当時、今野警部補は本部の交通規制課に所属していた。

所属警察官や職員の性犯罪が後を絶たない神奈川県警(県警本部の庁舎)。

神奈川県庁の県政情報センター。警察は記者クラブメディアを優遇する一方で、フリー記者など支配が及びにくい記者を露骨に排除して巧みに世論操作をしている。フリージャーナリストにとって、県警が説明したくない事実を追及する上で情報公開制度は重要な武器になる。

県警に対する情報公開請求で部分開示された懲戒処分台帳。2022年度の性犯罪多発が目を引く。

盗撮事件を起こした巡査長の懲戒処分報告書に添付された「身上調査書」。警察庁の懲戒処分の指針に照らして「減給」がふさわしいとの監察官(甲斐次幸警視)の意見が記載されている。

神奈川県教委と神奈川県知事部局の懲戒処分の指針は、性犯罪についてみると警察庁の指針よりも厳しい。いずれも地方公務員であり、処分の根拠法も同じ地方公務員法(29条)だが、所属する組織によって処分の基準が異なる。警察の特権意識が透けてみえる。

上から警察庁、神奈川県教委、神奈川県知事部局の各懲戒処分指針。

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報

本企画趣旨に賛同いただき、取材協力いただけるかたは、こちらよりご連絡下さい(永久会員ID進呈)
新着記事のEメールお知らせはこちらよりご登録ください。