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「ネット=鉛筆」論を克服するために

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「ペンは剣よりも強し」は、実際の由来はともかく、開成や慶応が紋章に使っているほど有名な言葉であるが、ロシア語通訳者の米原万里氏が書いた『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』によると、ロシア人が口にするのを聞いたことはないそうだ。代わりに似たような意味の「ペンで書かれたものは、斧では切り取れないよ」というロシア古来のことわざがあるからではないか、としている。

 それは、「武力に対する言論の優位」という意味もさることながら、もう1つ、「筆禍は取り返しがつかない」という意味に使うことが多いという。
 プラハのソビエト学校に通い始めた最初の日から、私は、『ペンで書かれたもの』に対するロシア人の特別な思い入れにたじろいだ。(中略)「どの学科も、生徒は正式なノート2冊と下書き用のノートを一冊ずつ持つことになっているらしいよ」(中略)つい正式ノートに鉛筆で書き込んでしまう私に向って、数学の先生も、ロシアの先生も諭した。「マリ、一度ペンで書かれたものは、斧でも切り取れないのよ。だからこそ、価値があるの。すぐに消しゴムで消せる鉛筆書きのものを他人の目に晒すなんて、無礼千万この上ないことなんですよ」
 これは1960年の話だが、最近、似たようなことをニコ動の番組でしゃべっていたのが、東浩紀である。「完全に印象論だけど」と断ったうえで、紙とネット(メルマガ)の違いについて、「日本のメルマガは、実際に社会を動かせるかどうかが試されるフェーズに入った」として、以下のようなことを言っていた。
 たとえば、大川隆法メールマガジンは成立しない。ネットだけで宗教は広まらない。紙とネットでは、コミットメント感や熱量が違う。ネット上の情報で、ホントに社会は動くのか、ということ。だから、若い人は出版をやったほうがいいのではないか、本の5万とウェブの5万は、ぜんぜん違うから。

僕は、ネット新聞を成功させるために、ネット上の記事と紙の記事の違いについて、ずっと考えてきた。全く同じ情報が載っていても、紙とネットでは、ネットのほうが安っぽく信憑性が低いために、ビジネス化する際の商品として不利だ。そこをどう克服するかが、成功のためのキーファクターであることは明らかだった。

asahi.comでさえ、一度掲載した記事を何らかの圧力がかかると数日で消してしまう(→これが有名)ことからも分かるように、ネットというのは、まさに鉛筆で書かれたものが簡単に消しゴムで消されるがごとし。「取り返し」がついてしまうメディアなのである。ネット=鉛筆なのだ。

ネットの記事は、ロシアの先生の言葉で言えば「すぐに消しゴムで消せる鉛筆書きのものを他人の目に晒すなんて、無礼千万この上ないこと」で、斧でも切り取れないペン書きの記事との差は歴然としているし、東氏の表現でいえば「コミットメント感や熱量」においてネットは劣るわけである。

紙に印刷されたものは改ざんできないが、ネットは一瞬で修正でき、丸ごと消し去ることもできるから、情報のチェックも甘いに違いない、という避けがたい人間の発想。これは歴史や教育の問題ではなく、単なる物理的なメディア特性の話なのであり、ネットの弱点である。だから、逆に、ネットの強みを徹底的に生かさない限り、勝ち目はない。

その一環として、MyNewsJapanでは画像やPDFダウンロードを多用したり、検索でデータベース的な使い方ができたり、という設計にしているわけだが、このたび、読者による評価システムとして「続報望む」を新たに導入した。記事の下で、会員が続報を望む場合に、無料で3point投票できるほか、追加で取材費などを無制限に提供できる。

東氏の言うとおり、ネットはコミットメント感が薄いメディアだ。冷やかしで見に来る客は多いが、行動にはつながらない。それでは、単なる悲しいガス抜きメディアでしかなく、情報の流れを変え、世の中を良い方向に変えることを目指した創設理念に反する。

現状、読者ができる行動として、情報提供や記事を書くことのほかに、「自分の代わりにこの問題を追及してくれ、続報を報じてくれ、自分にはスキルも時間もないが、取材費の提供はできる」というものがある。今回、そのインフラを整えることにした。

 同じ思いを持つなら、熱量が高いなら、行動してくれ、「同情するならカネをくれ」ということだ。全く新しい試みではあるが、ネットを鉛筆メディアで終わらせないためには変革あるのみ。ネットメディアに新境地を切り開き、コミットメント感溢れる高い熱量を持ったニュースメディアを作っていきたいと思っている。

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2011/08/12 13:57
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