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「息子は警察に殺された」埼玉県警水難救助部隊の“殺人訓練”、息継ぎさせず繰り返し沈め溺死

情報提供
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プールでの「訓練」中、息継ぎなしで繰り返し沈められて溺死した埼玉県警機動隊「水難救助部隊」新隊員・佐々木俊一さんの遺影を手に記者会見する遺族と代理人弁護士。1億9000万円の賠償を求める国家賠償請求訴訟をさいたま地裁に起こした(2015年6月29日、埼玉県弁護士会)。
 息継ぎをさせないまま水深3メートルのプールに繰り返し沈め、溺れて動かなくなっても「死んだふりか」と往復びんたをして放置、溺死させた--。暴力団かマフィアのリンチ殺人を彷彿させる凄惨な事件が、警察内部で起きた。埼玉県警機動隊「水難救助部隊」の新人隊員だった佐々木俊一さん(享年26)は、2012年6月29日、プールで訓練中、冒頭のような状況で死亡した。殺されたも同然と遺族が憤るのは当然。だが埼玉県警は「私的制裁ではない。あくまで訓練だった」と強弁、さいたま地検も、警察の肩を持つかのように、末端の隊員一人を業務上過失致死罪で在宅起訴しただけで幕引きを試みた。事件から3年、不誠実な対応に業を煮やした遺族は埼玉県と警察官4人を相手取り国家賠償請求訴訟を起こした。息子の元に行きたいと何度も思いつめたという母の千春さんは訴える。「息子は集団による暴行で殺されました。絶対に許すことはできません」
Digest
  • 呼吸させずに繰り返し沈める
  • 「佐々木、つかむんじゃねえよ」
  • 息をさせていなかった!
  • 「佐々木、やっていいですか」
  • 希望していなかった機動隊入り

呼吸させずに繰り返し沈める

「正直な話をしてほしいです。人間として正直な話をしてほしい。それだけです」

6月29日、埼玉県弁護士会の一室で開いた記者会見で、佐々木俊一巡査(享年26)の母・千春さんは涙声で訴えた。埼玉県警機動隊「水難救助隊」の新人隊員だった佐々木巡査が訓練中に溺死してからちょうど3年、千春さんら遺族は、埼玉県と救助隊の警察官4人を相手取り、慰謝料や逸失利益など約1億9000万円の賠償を求める国家賠償請求訴訟をさいたま地裁に起こした(さいたま地裁平成27年ワ1400号、原告主任代理人古城英俊弁護士)。

警察官ら4人の共謀により、制裁目的の暴行を加えて死亡させたとして、逸失利益、慰謝料、遺族の慰謝料を払う責任があるとの主張である。

これに対し、被告・埼玉県警側は8月5日の第1回口頭弁論で、「請求をいずれも棄却する、との判決を求める」との答弁書を陳述し、全面的に争う姿勢を明らかにした。次回弁論は9月30日午後11時から同地裁で開かれる(志田原信三裁判長、鈴木拓児・野口由佳子各陪席裁判官)。

 俊一さんの身に何があったのか--。真相究明と責任追及に向けた遺族のあらたな闘いがはじまった。

さて、遺族が提訴を決断するまでの道のりについて触れたい。機動隊の敷地内で起きた事件である以上、事件の詳細は現場にいた警察官しか知らない。しかし埼玉県警は遺族に対して、具体的な説明をなかなかしようとはしなかった。口の固い警察に対して遺族は粘り強く食い下がった。そのかいあってようやく事件の片鱗が見えてきたのは、事件後半年も経った2012年12月からである。

もっぱら警察の説明によれば、ことの経緯はおよそ以下のとおりだ。 

事件は2012年6月29日、埼玉県朝霞市にある埼玉県警機動隊の訓練用プールで起きた。午後1時半からはじめた水中訓練が終盤に移り、「完装泳法」というメニューになった。空気ボンベやウエイト(重り)、足ヒレなど総重量38キロもある潜水道具を身につけて水に入り、立ち泳ぎなどをする基礎訓練だ。ボンベの空気は使わず、呼吸はシュノーケルで行う。

38キロもの装備をまとった状態で水面に浮いたり泳いだりするには、効果的な足かきを続ける必要がある。佐々木巡査も足かきをして水面に浮こうとしたが、じきに足に痛みを覚えた。連日の激しい訓練でひざを負傷していたのだ。病院で「変形性膝関節症」と診断され、治療も受けている。

「無理だ…」

そう判断した佐々木巡査は、プールの浅い部分に移動すると底に立った。訓練プールは水深1・2メートル、3メートル、5メートルの3段階の構造になっている。佐々木さんが足をついたのは1・2メートル部分だった。そして訓練指揮官をしていたI巡査部長に訴えた。

「足が痛い。訓練を中止させてほしい」

だが、この訴えをI巡査部長は拒否した。そして訓練を続けるように命じた。「弱音をはいていると考えた」というのが理由である。

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亡くなった佐々木俊一巡査。プールでの訓練でたびたび失神し、「死ぬかもしれない」と漏らしていたという。

「佐々木、つかむんじゃねえよ」

やむなく佐々木巡査は泳ぎ続けようとした。膝が痛くて耐えられない。やはり無理だ--と、今度はプールの端に寄り、内壁に取り付けられたハシゴをつかんだ。そしてあらためて訓練中止を申し出た。これをみとがめたのはプールサイドにいた指導員のN巡査部長だった。

「佐々木、つかむんじゃねえよ!」

N巡査部長は大声で怒鳴り、水中マスクとシュノーケルをつけて水面に浮かぶ佐々木巡査の顔面を足で踏みつけ、力づくでハシゴから引きはがした。

水難救助部隊では、底に足をついたり、ハシゴをつかむ、水中マスクを外すことは「禁止行為」と呼ばれている。佐々木さんが怒鳴られたのはこの禁止行為をしたからだった。そして禁を破ったことに対する制裁(リンチ)がはじまった

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故佐々木俊一巡査の遺族が埼玉県と警察官4人を相手どって国家賠償請求訴訟を起こしたさいたま地方裁判所。被告側は全面的に争う姿勢をみせている。

埼玉県警本部。息をさせずに繰り返し水中に沈めるという行為は、普通に考えればリンチというべきだろう。だが埼玉県警は「訓練」だったとの主張を続けている。

機動隊の警察官6人が書類送検されたが、起訴されたのはわずか1人。もっとも階級の低いW巡査が業務上過失致死罪に問われている。遺族はとうてい納得できず、息子は警察に暴行を受けて殺されたと訴えている。

佐々木俊一さんが若干26歳で命を落とした埼玉県警機動隊。寮生活で、実家に戻るのはせいぜい月1回だった。運動は苦手で機動隊に異動がきまったときにはとまどっていた。事件前には警察をやめたいと上司に相談していた。相談を受けた上司がどのような対応をしたのかはいまだ不明だ。

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読者コメント

通行人2016/03/26 21:55
 2015/09/02 14:24
吾輩は無登録である2015/08/20 12:43
通行人2015/08/08 13:27
 2015/08/08 13:18
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