写真上:勝訴直後の待機患者。(左)鳥居浩さん、(右)宮内伸浩さん。
写真下:記者会見をする岡本圭生医師。
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前立腺癌患者に対する小線源治療の妨害事件で大津地裁は2019年5月20日、滋賀医科大に対して、治療妨害を禁止する前代未聞の仮処分命令を下した。これにより、岡本圭生医師の癌治療を希望している待機患者ら33名が救済されることになった。しかし、岡本医師を今年限りで大学病院から追放する病院側の方針に変わりはなく、患者会は反発を強めている。病院と岡本医師らの対立が深まるなか、5月には新たに2件の刑事告訴が、それぞれ岡本医師と5人の患者から提起された。法的措置の件数は5件に増えたことになる。これら係争の最初の司法判断である治療妨害の禁止命令の内容は、岡本医師の主張をほぼ全面的に認めたものとなっており、今後の係争の行方を予測するうえでも興味深い。仮処分命令の中身、および他の法的措置について解説し、大学病院の実態をあぶりだす。(仮処分命令と刑事告訴関連の文書はダウンロード可)
【Digest】
◇大津地裁の画期的な判断
◇癌の非再発率96%超の岡本メソッド
◇最先端医療である岡本メソッド
◇診療予約が取れなくなった岡本外来
◇岡本医師の主張を全部認めた決定書
◇病院に対して5件の法的措置
◇朝日新聞の記事と塩田学長の弁解
◇人事関連の文書も捏造
◇ルールを無視したQOL調査
◇「性生活に満足している?」
◇カルテの不正閲覧
◇松末院長による診療予約停止
◇手術の直前に診療予約の停止
◇北海道から来院した患者にも配慮も謝罪もなし
◇大学病院の病理
大津地方裁判所の
西岡繁靖裁判長は5月20日、癌患者と主治医が申し立てた癌治療の妨害を禁止する仮処分申立に対して、人命優先の決定を下した。
午後1時35分。裁判所の玄関から2人の患者が小走りに駆けだしてきて、曇り空の下で持ち受ける報道陣や支援者らの前で、「待機患者の救済認められる!」と書いた紙を広げた。カメラのシャッター音が一斉に響いた。
「どうでしたか?」
「勝ちました」
「よし!」
拍手が起こった。
「認められたのは、(申立人の)7人だけですか」
「岡本先生が治療される患者全員です」
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写真上:裁判所に入る鳥居さんと宮内さん。写真中:判決後に裁判所の前で記者の質問に応じる鳥居さん。写真下:おなじく宮内さん。 |
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岡本圭生医師による最新の癌治療を妨害されていた33人の患者を、司法が救済したことが判明した瞬間であった。患者らの多くは、癌の転移リスクが高く、岡本医師による最先端医療を受ける以外に完治できる可能性が低い人達である。治療を妨害され、命を裁判所の判断に委ねていた待機患者である。
仮処分の判決は、法廷で宣告されることなく、裁判所の事務局で決定書を受け取る慣例になっている。
申立人のひとりである宮内伸浩さんは、患者代表として裁判所の事務局で決定書を受け取る前に、顔に微笑を浮かべながら、
「受験の合格発表を待つような心境です」
と、筆者に話していた。自分を励ますかのように、
「大丈夫だと思いますがね」
とも、繰り返していた。常識的に考えれば、宮内さんらの請求は、まず認められる。しかし、日本の裁判には、「報告事件」と呼ばれる理不尽なケースがあり、これに指定されると、最高裁事務総局の政治判断で判決が下される。その前近代的な実態を繰り返し取材してきた筆者は、宮内さんらの勝訴に確信が持てなかった。暗い想像も脳裏をよぎった。
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裁判所前で判決の報告を待つ患者と支援者。 |
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微笑を浮かべた宮内さんとは裏腹に、鳥居浩さんは、能面のように顔を強ばらせたまま裁判所の庁舎に消えた。筆者は、鳥居さんが癌告知を受けたときも、同じ表情だったに違いないと思った。
しかし、20分後に宮内さんと一緒に裁判所の玄関に姿を現した鳥居さんは、安堵の笑みを浮かべていた。記者に取り囲まれて、口を開いたときは、思わず顔をゆがめて涙をこらえた。顔の輪郭が何度もゆがんだ。が、涙がにじみでた。その表情は、これまで待機患者らが耐えてきた日々を物語っていた。
◇大津地裁の画期的な判断
「前例のないケースについて画期的な判断をしていただいた」
仮処分の申し立てを行った岡本医師と患者らの代理人を務めた小原卓雄弁護士は、判決後に開いた記者会見で、裁判所に敬意を表した。
ひとつの事件で民事裁判や刑事告訴が連続して提起されることは特にめずらしくはない。滋賀医科大を舞台とした事件も例外ではない。いくつもの法的措置が連鎖している。治療妨害を禁止するこの決定は、数ある係争の最初の認定である。その意味で、最初の「勝訴判決」を受け、しかもそれが完勝だった岡本医師と患者ら、それに弁護団の喜びの大きさが想像できる。
実際、岡本医師も、決定を高く評価した。
「担当医として裁判所の適正な判断に敬意と感謝を表します。今回の仮処分において そもそも医療は誰のものか?医療とは誰のために行われるものか?という根本的なことが問われたと考えています。いうまでもなく医療は患者さんのために存在し、患者さんを救うために行われるべきです.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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大津市郊外にある滋賀医科大医学部附属病院。 |
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読売新聞に登場した河内明宏教授。専門はダビンチ手術。 |
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疑惑がかかっている有印文書。「岡本」の三文印が押されている。詳細は本文。 |
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