警察の元S(捜査協力者)、盛一克雄氏(48歳)。刑事の指示で知人のコーヒーに覚せい剤を入れて逮捕させるなど、警察に協力していた。
覚せい剤と手を切り、警察と関係を絶って約15年後、ある人に「捜査協力」のことを漏らし、その知人が警察に話の内容を漏らした。
数か月後、彼は覚せい剤取締法違反容疑で逮捕され、起訴後に有罪判決を受けた。
第三者をハメていた盛一氏が、逆にハメられる立場に逆転していたことがわかったと本人は言う。無実を晴らすべく再審の機会をうかがうとともに、2017年9月14日に国賠訴訟を提起したが、今年6月7日に請求を棄却された。ただちに控訴し、第二審はこの秋に始まる。
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「私は警察のS(エス=スパイ)だった」――衝撃の告発をするのは、盛一克雄氏(実名、48歳)だ。若いころ覚せい剤に手を染めてしまい、それを見逃す代わり「協力」するよう要求されて約9年間、石川県警内でSをしていたという。あるとき、盛一氏の知人Aにシャブを買わせろと刑事に指令され、実際に購入させた。注射器がない、と盛一氏が電話で相談すると、刑事は「体に覚せい剤反応がでないとだめだ」と、コーヒーに混ぜて飲ますよう指示された。間もなくAは逮捕された。さらに盛一氏は、白紙の調書に署名指印させられたことが何度かある。あとで警察が調書を書き、その偽造調書を、第三者の捜索差し押さえ許可状などを発布させる資料としていたという。友人の死や自身の結婚を機に、警察との関係を断ち、2人の子供にも恵まれた盛一氏。ところが、15年の歳月を経た2014年3月19日朝7時30頃、10人以上の集団がいきなりドアを開けて、乱入してきたのだった…。(国賠訴訟の訴状は末尾よりダウンロード可)
【Digest】
◇すごい数の刑事が家に乱入してきた
◇なぜ警察のS(スパイ)になったのか
◇白紙の供述調書に署名と指印
◇暴力団がらみの抗争に調書を使用
◇どのようにしてSを止めたのか
◇攻守逆転 ハメる側からハメられる側に
◇すごい数の刑事が家に乱入してきた
2014年3月19日朝7時30分、カギをかけていなかった石川県加賀市内の盛一克雄氏の自宅に、大勢の刑事たちがなだれ込んできた。
覚せい剤取締法違反容疑での、家宅捜索だという。とっさのことで何人かは不明だが、「とにかく多くてびっくりした」と盛一氏は回想する。
「若い刑事に、ずいぶん人が多いねと言ったら、『今回、やけに人が多いんですよ』と言っていました。普通ではないようでした。正確には覚えていませんが、10人は超えていたと思います。
私を覚せい剤取締法違反で内偵してやってきたなら、私の尿を採ればいいのに、このときは、妻のオシッコまで採られました。形としては任意ですが、それはひどいと思いました。
当時、小学校低学年の子供もいるときにガサに入るのは、いやがらせですし、嫁さんが覚せい剤などやっていないことは、調べればわかることです。」
この日、盛一氏の自宅、経営していた会社の倉庫、そこにある車両数台、自宅とは別に借りていたアパートなどが家宅捜索され、昼過ぎまでかかった。
後に起訴されたこの事件の判決文によれば、盛一氏の車にあったポリ袋や、借りていたアパートで発見された注射器から覚せい剤成分が発見された、とされている。
なお、このアパートには、複数の人間が出入りしていた。
実は、この時からさかのぼって二十数年前、20歳過ぎの1991~1992年ころ、勤めていた風俗店のマネージャーを通して、盛一氏は覚せい剤を使用するようになった。
しかし、結婚を機に、30歳ころに、きっぱりとやめていたのである.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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現在進行している国賠訴訟に提出された一連の書類を見ると、かつて警察に協力して第三者への強制捜査に結びつけていた盛一氏の立場が逆転していることが見てとれる。
当初、覚せい剤の譲り渡し容疑で逮捕されたが、「覚せい剤の使用」で起訴された。
氏名を手書きにしたのは筆者。旧姓が書かれているためである。
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刑事事件一審の判決文。覚せい剤を止めていた盛一氏の尿検査で覚せい剤反応が出た。ありえない話だが、この検査結果をもとに裁判所は使用したと認定した。この尿検査に疑問があり、今後解明していく必要がある。 |
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刑事事件の控訴趣意書。盛一氏の知人M子が「盛一氏がK男に覚せい剤を譲り渡しているのを見た」旨の供述をし、それがもとで盛一氏が強制捜査された。
M子による虚偽供述が捜査の端緒であり、虚偽供述による令状の発布、その結果の尿検査結果も無効だという主張だ。
今回の記事ではまったく触れていないが、尿検査のときに警察官が不審な動作をしていたと盛一氏は証言している。
また、同種の事件に比べ、この事件では尿検査関連の証拠資料が極端に少ないとの指摘がある。(読者からの要望があれば、今後の記事にして伝えたい)。 |
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刑事事件、控訴棄却の判決文。M子の供述の真偽、尿検査の疑問には踏み込んでいない。また、盛一氏が開示請求したM子の検面調書(検事作成の調書)は存在しないという検察のウソは不問にふされた。 |
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盛一氏への捜査の発端をつくったのがM子の供述だ。覚せい剤取締法違反の刑事裁判では、警察官作成の員面調書は開示されたが、検察官作成の「検面調書」は存在しないとされていた。
ところが盛一氏が判決後に調査したところ、存在しないはずの検面調書が3通存在していたことが判明。画像はそのうちのひとつ。 |
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