My News Japan My News Japan ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ニュースの現場にいる誰もが発信者のメディアです

ソニーはBMWを目指し、ソフトバンクの人事処遇とリクルートの新事業創出制度を取り入れよ

情報提供
BlogsIMG_A20150930174348.JPG
金融事業がエレキを補填する形になっているソニーの業績

先月までの一連の取材で記事を4本書いたが、ソニーはどこに向かうべきなのか、という話も、社員・元社員に毎回、聞いていた。今回、私なりのソニーが目指すべき戦略について、意見をまとめておこうと思う。ソニーは、古い日本企業の縮図(バブル期入社組の40代後半以上が多い、年功序列型賃金、終身雇用、コモディティー化、新興国企業との戦い)ともいえる会社で、他社にとっても、その答えは応用がきくであろうからだ。なお、インタビュイーは全員、いわゆる有名私大卒のエレキ事業に属する男性で、多様性のなさも日本企業らしい(20代~40代)。

ソニーの2015年3月期決算は1259億円の最終赤字で、無配だ。傾向としては、金融分野が安定的に収益を稼いでいるが、エレクトロニクス(エレキ)分野が赤字続きであるため補填しきれず最終赤字になる、という構造が、ここ10年で定着した感がある。

「今のソニーは、ジャックウェルチが就任した当時のGE。20年くらいかけて痛みを伴う構造改革を続けるしかない。フィリップスが『医療』『照明』『白物家電』の3つに絞る構造改革をしたように、大きなイノベーションがなくても稼げる市場を、確実に抑えていくべき」。数年前に話を聞いた中堅社員は、「でも、それはソニーには無理」ということで、ほどなくソニーを辞めた。

今のソニーに、「選択と集中」による構造改革が必要だという点は、誰も異論はないだろう。問題は、この10年、社員を減らすことに苦心してきたものの、いまだ7割超の社員が赤字体質なエレキに所属しており(連結社員数14万人のうち約10万人がエレキ、利益が出ている金融は8500人)、そこが胴体であり創業の事業であるから、エレキ中心に考えざるを得ない点にある。

業績拡大期はともかく、苦しい時期は、本業に立ち返り、本業に全リソースを集中するのがセオリーだ。ブラック批判で赤字転落したワタミは、本業の外食で生き残るため、介護事業の売却を決めた。真っ当な戦略である。

もちろん、何を選択するかが重要だ。シャープは「選択と集中」を誤って、コモディティー化の宿命を背負っていた『液晶事業』を選択して集中投資してしまい、現在、その液晶事業を売却せざるを得ない方針に追い込まれ、決定的な苦境に至っている。

グループ内に金融・音楽・映画会社は要らない

まず、迷う必要なく真っ先に判断可能なのは、非エレキ部門だ。金融・映画・音楽は完全に切り離し、売却すべきだと思う。エレキとのシナジーがないどころか、逆に足かせになっているからだ。

iPodでアップルに先行を許した際に議論になったが、特定の音楽レーベル(ソニーミュージック)や映画会社(ソニーピクチャーズ)を連結グループ内に持ってしまっていると、本業のエレキ製品で“等距離外交”ができず、消費者からもそう見られてしまい(アンフェアな品ぞろえだろう…)、さらに利害相反(iPodが普及するとソニーミュージックのCDが売れなくなる、著作権が侵害される…)を生み、不利なことばかりだ。

実際にソニーのスマホ「エクスぺリア」を使ってみても感じるが、消費者はソニーグループのコンテンツだけを見たいわけでは全くない。特定のレーベルに所属するアーティストや作品だけを見たい・聴きたいという消費者などほとんど存在せず、自分の好みに合った作品を横断的にすべて鑑賞したいのである。従ってソニーは、絶対に、どの音楽・映画会社とも等距離でなければいけない。

金融についても、これまでのソニーは、エレキの赤字を金融の黒字で埋め合わせることができたため、エレキの改革が放置されてきた面がある。消費者や株主はともかく、「社員共同体」としては、それが望ましかった。自分が在籍している間に、雇用と報酬が保たれれば、それでよいからだ。それがこの10年である。

「サラリーマンの会社なので、行くところまで行って“ゴーン”が来ないと。でも、金融とイメージセンサーがあるだけに、中途半端な状態なんです」(昨年、早期退職で辞めた元社員)

つまりソニーは、本業のイメージセンサーはともかく、金融事業を抱えているために、背水の陣を敷く必要がなかった。資金的な余裕があるので、サラリーマンあがりで内部昇格した経営陣が、あえて同僚たちを露頭に迷わせる「コストカッター」を、次の社長に迎え入れる理由がないのだ。

当時の日産のような、または今のシャープのような、危機的な状況に追い込まれれば可能だが、安定的に儲かる金融事業やシェアトップのイメージセンサーを持っているため、そうならないまま、中途半端な状態でジリ貧が続いてしまった。

さらに、映画や音楽でも利益が出ていたために、コングロマリットの宿命として、当然、黒字事業からCEOが輩出され、したがって、社員の7割超がエレキに属する会社なのに、エレキ出身者が経営トップに就けず、エレキ中心の戦略が立てられず、ズルズルと赤字が垂れ流され、ますますエレキから意思決定者を送り込めない、という悪循環が、2005年のストリンガーから、10年以上続いている。

ソニー生命・ソニー損保・ソニー銀行の客は、ソニーブランドに惹かれて加入しているのか?ゼロとは言わないが、もはや全く別モノだと考えられていると思う。それぞれ独自ブランドとして成長した金融事業は、高く売れる。映画・音楽も含め、「背水の陣を敷けない」「CEOを輩出できない」「シナジーがないどころか新事業の障害になる」という“エレキ再生の足かせ”は、早々に切り離してカネに換え、エレキ再生の資金とするのが、賢明な選択である。

GEの構造改革は米国ならでは

グローバルメーカーを例にソニーが目指すべき方向をあげるとすると、いくつかの選択肢があるわけだが、先例から、大きく以下の4つがある。

① GE:業界横断的な「選択と集中」。一時は金融を儲け頭に。
② フィリップス:メーカーという括りの中での選択と集中。
③ IBM:モノづくり→関連サービス業への業態転換。
④ BMW:同じ製品のなかでの高付加価値品へのこだわり、特化。

GEは、「選択と集中」によって、一時、金融事業が営業利益の過半を占めるまでになり、今また、製造業に回帰しようとしている。

ソニーは既に金融に手を出して儲かっているから、カルロス・ゴーンのような経営者を招聘して、「ゲーム」「イメージセンサー」「金融」に特化して残りは順次売却、みたいなGE方式をやれば、短期的には利益が出るだろうし株価も上がり、稼ぎ頭が不明なシャープに比べると、生き延びやすい。

だが、事業を従業員つきで、短期間に売ったり買ったりできる環境は、企業別労組が強い日本のメーカーにはなく、労使交渉をやっている間に事業環境が変わってしまう。

今回の取材でよくわかったのは、「大胆なリストラ」と対外的に言ってはいるものの、辞める人にも減給する人にも、配慮に配慮を重ねまくるという、「社員共同体」としてのソニーの姿だ。降格になる人でも、初年度最大2%減まで、次年度で5%減まで、など、超温情的な激変緩和措置が設けられていた。

ソニーは、ただでさえ日本で一番給料が高いモノ作りメーカーなのだから

この先は会員限定です。

会員の方は下記よりログインいただくとお読みいただけます。
ログインすると画像が拡大可能です。

  • ・本文文字数:残り6,027字/全文9,110字

画面が曲面になっている、LG電子のcurvedTV。セブの電器店にて。ソニーは目新しい新製品を出せていない。

ソニーのヒット商品が生まれない「負のサイクル」

公式SNSはこちら

はてなブックマークコメント

もっと見る
閉じる

facebookコメント

読者コメント

 2015/10/03 09:10
 2015/09/30 20:04
※. コメントは会員ユーザのみ受け付けております。
もっと見る
閉じる
※注意事項

記者からの追加情報