他の新聞社名を語り、景品を配り、騙して新聞契約を取ろうという手口。先日、新聞拡張員のあくどい商法の被害に遭った。
インターフォンが鳴って『今日はー。Y新聞新規ご契約ありがとうございます』という声が流れてきた。40年ほど購読してきたA新聞をやめ、Y新聞に変えた矢先のこと。Y新聞販売店の挨拶かと思い、ドアを開けると、オールバックヘアできつい目の、頬がこけたスーツ姿の男が顔を覗かせた。
『Y新聞契約ありがとうございます。これは新規契約お礼です』と洗剤を6個、ドアを開けて私に手渡した。なんどか、くどいようにお礼の言葉を述べたあと、『そうそう。私、A新聞販売店員から泣きつかれてしまって困っているんですよ』
『おやどうしました』と私。
『お宅は40年もA新聞を購読していたというじゃありませんか。なぜ購読をやめるんです』
私『・・・。』
『そうそう。洗剤よろしかったらもう4個差し上げます。Y新聞を新規にとっていただく上、A新聞も3ヶ月でいいから継続してくださいよ』
『変ですね。Y新聞の貴方がどうして、私の家がA新聞をやめたことを知っているんです?』と私。
『それは新聞拡張員の間の横の連絡ですよ。同じ世界で飯を食っているんで、頼み込まれたのですよ』
『それはできませんよ。Y新聞に切り替えたのだし、N経済と地元紙を取っているので4つも新聞を取るわけにはいきませんね』と言うと、突然態度が変わり、靴をドアの間に差し込み、ドアを閉じるられないようにして、ねちっこく繰り返し、A新聞を取れといい続ける。
『私の顔を潰さないでよ。頼むよ』
『貴方、ほんとうにY新聞の方?嘘でしょう。A新聞の方でしょう。洗剤なんか要りません。持って帰って』と押し問答した揚句、『Y新聞販売店に電話するから待ってね』というと、そそくさと洗剤を10個抱え、『あきらめないぞ。また来るぞ』と捨て台詞を残して帰って行った。
これと似たような事もあった。そのときは攻守逆でA新聞だと名乗ったにもかかわらず、Y新聞を勧誘された。
A新聞の購読を中止するのは、それなりの理由がある。費用の問題。A新聞の記事と編集の質の問題。予定記事の多さにウンザリ。広告に品性のないものが溢れ出したなどなど。しかも、集金おばさんが2回続けて期限切れチケットを置いてゆく無神経さ。
私も以前は雑誌社に在籍し、A新聞の言葉使いをお手本に原稿を書いてきたのだが、ここ10年来、徐々にロイヤリティがなくなってきていた。新聞拡張は、丸暴の世界と同じようだという噂は耳にしていたが、恐い思いをしたのは初めてだった。
その後、1,2度、その拡張員が門前に現われたが、取り合わなかった。
そのことがあって数ヵ月後、A新聞の本社の営業部員が現われたが、『拡張員で大分、ご迷惑をおかけしたようで、謝りに本社から参りました』と、前者とは打って変わって紳士的だった。戦争中の海軍大臣の親族という彼は、ひたすらあやまり続ける東北弁なまりに心をほだされ、なんとはなしに6ヶ月購読の印を押していた。
自分の利益のために、他社をだしに使い、偽って新聞勧誘をするのは許せない。大学で『新聞は公器。社会の木鐸』と新聞学の講義で、執拗に教え込まれたことを思い出し、『社説の格調の高さ』に相反して、やくざマガイの商法が、いまだに新聞の世界でまかり通っていることに、やるせなさを感じる今日この頃です。
