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クウェートで米軍バスにひき逃げされた自衛官を追い出した防衛省の鬼畜ぶり

情報提供
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2006年7月4日。クウェートの米軍基地で米軍属のバスにはねられ重い後遺症を負った池田頼将・元3等空曹。顎関節の障害で口があかず、流動食しか食べられない。また手にひどい震えが残り、字を書くのも困難だ。全身の痛みで起きているのが辛いという。
 死傷者ゼロ、全員無事で帰国した――イラク・クウェートへの自衛隊派遣について防衛省は、そう公言してきた。だがそれはウソだった。2006年、クウェートの米軍基地で、池田頼将3等空曹が米軍属のバスにひき逃げされ、口が開かないという重い後遺症を負っていたのだ。池田3曹は、現地では治療を受けることもなく2ヶ月間、放置。帰国後は暴力などのパワハラを受けて追われるように退職した。米軍と加害者からまともな謝罪はない。公務災害も一部の治療費だけで打ち切りとなった。「信じていた組織に裏切られ、何度も死にたいと思った」。先日、名古屋地裁に国家賠償請求訴訟を起こした池田さんが、苦悩に満ちた胸中を語った。(国賠訴訟の訴状はPDFダウンロード可)
Digest
  • 悪夢の「米独立記念日」マラソン
  • 「米軍にひかれたんだから米軍に診てもらえ」
  • 「帰国便がない」という嘘
  • 適用されていなかった「公務災害」
  • 「症状固定」で治療費打ち切り
  • パワハラ地獄
  • 職場の扉が開かない
  • 真相を闇に葬らせたくない

悪夢の「米独立記念日」マラソン

2006年7月4日、中東時間の午前6時。イラク戦争の米軍側攻撃拠点であるアリアルサラム米空軍基地では、アメリカの独立記念日にちなんだマラソン大会が開かれていた。快晴の空の下、米兵200人と航空自衛官100人の計約300人がスタートを待ってひしめく。その最前列に航空自衛隊・池田頼将3曹(現在は退職)の姿があった。

池田3曹は小牧基地(愛知県小牧市)の所属で、通信の仕事を専門としている。入隊歴15年のベテラン隊員だ。イラク特措法に基づいてクウェート行きを命じられたのが3ヶ月前。任務は比較的平穏に過ぎ、生活にも慣れた。池田さんは走るのが好きで、クウェートに来てからも毎日数キロを走った。単調な毎日での数少ない楽しみだった。速くなって日本の同僚たちを驚かせたかった。

7月4日にマラソン大会があると聞いて迷わず参加を決心した。小さな大会はこれまでにも何度かあり、すべて参加してきた。その手応えから「一等賞」は十分に狙えると踏んでいた。優勝して賞品を手土産に持って帰りたい――と自主練習を重ねてきたのだった。

午前6時を少し回ったころ、スタートが切られた。最初から飛ばして先頭グループに入った。作戦どおりである。ほぼ直線の片道2・5キロを往復する5キロのコース。前にいるのは大柄な米兵2人だけだ。風を避けるように2人の背後にぴたりとついた。後続ランナーを大きく引き離し、3人は固まって走った。

「ペースはかなり速かったです。しかし余力はありました」

3人の独走でレースは進み、やがて2・5キロの折り返し地点にきた。前の2人に続いて池田さんは左回りにUターンした。回り切ると道の右端に給水所があった。ペットボトルを手にとり、水を口に含んだ。そして、追い抜くぞ、とペースを上げようとした。

次の瞬間だった。

「ドスンと鈍い音がして、背中のあたりに強い衝撃を受けました」

 あとは目の前が真っ暗になって気が遠くなった。

「気がついたら米軍の診療所らしいところに寝ていました。車にはねられたらしいと聞かされました。これを飲め、と米兵から渡されたのは小指の先ほどもある錠剤4個。やっとの思いで飲み込むとまた気が遠くなりました」

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全員無事帰国しました」と書かれた航空自衛隊のイラク派遣に関するホームページ(上)。池田さんが米軍属の車にひき逃げされた事件は長い間伏せられてきた。下は池田さんが事故にあったアリアルサレム米空軍基地(グーグル地図より)

「米軍にひかれたんだから米軍に診てもらえ」

再び目が覚めたのはほぼ1昼夜が過ぎた後、自衛隊の自分のベッドに寝かされていた。

「首や肩に激痛がありました。足を見ると血だらけ。周囲には誰もいませんでした」

そして口を開けようとした途端、激痛が襲った。鏡をみると左顎がななめにゆがんでいる。どうやっても口が開かない。一等賞の夢から一転、悪夢のような日々のはじまりだった。

何が起きたのか、池田さんは、にわかに分からなかった。米軍が雇ったKBR社のバスにひき逃げされたと知ったのは、ずっと後のことである。KBRとは戦争ビジネスや石油関連業など幅広いビジネスを展開する「ハリバートン」の子会社だ。ハリバートンはチェイニー副大統領(当時)が一時CEOを務めていたこともあり、ブッシュ政権と深い縁を持つ

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池田さんを後ろからはねたのは、米軍が雇ったKBR社のバスだった。KBRはチェイニー副大統領(当時)がかつてCEOをしていたハリバートンの子会社だ。KBR社から池田さんに謝罪はないという。

怪我の苦痛に加えて、自衛隊から冷淡にあしらわれたことで、池田さんはうつ病にかかった。いまでも深刻な不眠に悩む。上は服用中の睡眠薬。下はパワハラをうけた職場である新潟救難隊の通信班(自衛隊ホームページより)

池田さんは何度も自殺を考えたが、死ねば真相が闇に葬られると考え、思いとどまった。そして自殺する隊員がもうこれ以上出て欲しくないと国賠訴訟を決意した。自衛隊の自殺率は公務員トップ。今年夏に自殺があった入間基地。現場近くでは何ごともなかったかのように出店が並んでいた(2012年11月3日の航空祭)

池田さんの事件は自衛隊内で隠された。真相ははたして法廷で明らかにされるのか。第1回口頭弁論は12月21日10時30分から名古屋地裁で開かれる。

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satosuke-4281252017/02/14 00:12

スーダンに行った自衛隊もそうだろうか?だとしたら、気の毒だ。

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Louis2012/12/14 13:53

ハリバートン社の被害者

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読者コメント

三宅勝久2013/01/03 12:37会員
職種は違えど2012/11/15 08:46
国防軍人2012/11/14 17:34
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