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24万円の受信料滞納で出版労組委員長を訴えたNHKの「番組押し売り」と強制徴収の手口

情報提供
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東京都渋谷区神南にあるNHKの本部。
 NHKが受信料支払いを求める裁判を起こしたり、強制執行を断行するなど、強引な営業を展開している。フリーの編集者やライターでつくる労組・出版ネッツの委員長・澤田裕氏も今年に入って、8年10ヶ月分、約24万円の支払いを請求する裁判を起こされた。裁判でNHKは、弁護士の代わりに職員が原告席に着くなど、余裕をみせていた。澤田氏が受信料支払いをペンディングするようになったのは、安倍晋三と中川昭一の両議員によるNHKへの介入をスクープした朝日新聞記事が発端だったが、裁判所はその争点化を拒否し、勝敗の行方は厳しい。NHKは電話で澤田氏に支払いを催促し、それを録音までしていた。支払督促の対象になるのはどのような世帯なのか?自宅へ立ち入らない限り受信設備の有無は確認できないはずだが、どうやって個人情報を入手しているのか?どうすれば「理不尽な番組の押し売り」から逃れられるのか?受信料取り立てをめぐる謎に迫った。(訴状=支払督促状はPDFダウンロード可)
Digest
  • 原告は籾井勝人
  • NHKは時効10年を主張
  • 未納者に対して財産の差し押さえも
  • Bキャス社から個人情報入手
  • 受信料未納の背景に格差社会
  • メディア「不偏不党」は幻想

「NHKさんは、このような裁判を何件ぐらい起こしておられるのですか?」

わたしの質問に、NHKの若い“弁護士”は、ギョッとしたように眼を大きく見ひらき、こわばった声で、

「お答えしません」

と言うと、足早に法廷を立ち去った。

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NHK会長就任の記者会見における籾井勝人氏の問題発言を報じた朝日新聞の記事(1月26日付け)

わたしは“弁護士”の後を追って、薄暗い廊下を歩き、階段を降りた。

「件数だけでも教えてくださいよ。件数だけでも」

と、繰り返した。しかしその“弁護士”は、一度もわたしの顔を見ることなく、一階のロビーを横切って、裁判所から立ち去った。受信料の滞納者を法廷に立たせたことで、後ろめたい思いをしているのかも知れない。

被告の澤田裕氏が、上階からロビーへ降りてきた。

「NHKの弁護士は、なんという方なんですか?」

「あの方は、弁護士ではありません。NHKの職員です」

「職員?弁護士は立てていないのですか」

「立てていません」

澤田氏は、1961年生まれの52歳である。編集者として、教科書会社や編集プロダクションで働いた後、フリーランサーとして独立し、おもにサイクリングに関連した書籍や雑誌の編集・執筆に携わってきた。現在は、出版に関わるフリーランサーの組合である出版ネッツ(出版労連傘下)の委員長代行も務めている。

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「日本放送協会放送受信規約」の全文。

NHKが澤田氏に請求してきた受信料の滞納額は、約24万円(8年10ヶ月)。弁護士に相談したところ、代理人就任の条件として、報酬30万円が提示された。勝訴の見込みが極めて少ない裁判であるうえ、たとえ勝訴しても、弁護士費用だけでNHKが請求してきた額を上回るわけだから、代理人を依頼するメリットがない。そこで、敗訴覚悟で、本人訴訟で対抗することにした。

これに対してNHKが代理人を立てずに職員が出廷したのは、財政が苦しいからではなく、裁判が形式だけのもので、確実に勝訴して滞納金を手に入れる自信があったからだ、と推測される。両者とも、弁護士なしの法廷闘争となった。

個人的なことだが、わたしは大企業が代理人弁護士を立てずに金銭を請求した裁判例を、他に知らない。

原告は籾井勝人

今年の2月3日、澤田氏は、越谷簡易裁判所から「支払督促」と称する書面を受け取った。NHKの籾井勝人会長が、裁判所を介在させて、澤田氏が滞納した約24万円の受信料の支払いを求めてきたのである。

澤田氏が支払いに応じれば、その時点で係争は解決する。これに対して、異議を申し立てれば、係争は簡易裁判所に持ち込まれる。

籾井会長が受信料の支払いを請求してきた根拠は、放送法の第64条である。それによると、テレビを設置して、アンテナにつなぐなどNHK放送を受信できる状態になった時点で、NHKと放送契約を結ぶことが義務付けられている。

NHKを受信できる環境を設置しながら、放送契約を結ばずに受信料を支払わなかった場合の罰則規定はないが、NHKは支払いを請求するための法的措置を取ることができる。

こうした状況の下で、たまたま澤田氏が法的な戦略のターゲットになったのである。

澤田氏は、2002年4月にNHKとの間に、衛星カラーの放送受信契約を締結した。しかし2005年4月から、受信料の支払いをペンディングにした。これを起点として、月々の滞納額がふくらみ、NHKが督促期間とした2013年11月までの8年10ヶ月の間に約24万円が累積したのである。共働きとはいえ、フリーランスの立場にある澤田氏にしてみれば、かなり大きな負担である。

しかし、支払いをペンディングにしたのは、経済的な理由ではない。澤田氏が言う。

「わたしは受信料を払わないと言っているわけではありません。中立・公正でなければならない公共放送の内容に疑問を持つようになったから、支払いを留保しているのです。政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかないという籾井会長の就任会見での発言について司法委員立会いの和解交渉で、これは放送法の逸脱ではないかと問いかけても無言のままでした。NHKには、ぜひこの点について説明してほしいのですが、その意思は毛頭ないようです」

澤田氏が受信料の支払いをペンディングにした動機は、2005年1月12日付け朝日新聞に掲載された、ある記事を読んだことだった

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2014年2月25日付けのNHK文書「放送受信料の未収者に対する強制執行の申し立てについて」。

(上)「公的年金制度における未加入者・未納者数の推移」。(下)「生活保護世帯と保護率の推移」。出典:厚生労働省。

出典:NHKオンラインの資料42

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