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西武鉄道 入社2年目社員が上司の不正を会社に相談できず「お客様センター」にメール乱発し解雇…150万円で和解

情報提供
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西武鉄道の航空公園駅の駅員だった汐見悦次氏(仮名、推定20代前半)は上司のプール金を暴こうとして解雇された。写真は汐見氏が働いていた航空公園駅の改札窓口
 西武鉄道に新卒で正社員採用された汐見悦次氏(仮名、推定20代前半)は、配属先の西武新宿線「航空公園駅」で、上司が現金をプールしているのを目の当たりにした。同社では、プール金は不正会計と同一視して、厳しく取り締まっている。しかし、上司に相談できない心理状態に陥った汐見氏は、不正をただすため、客になりすまして、同社の苦情受付「お客様センター」に、投稿メールで告発した。その後、プール金以外の件もメールで告発したり、さらには無言電話や売上の不正操作にまで手を染め、エスカレート。会社側の調査に対して全て白状した汐見氏は、諭旨解雇された。納得いかない汐見氏は、地位確認を求め提訴。今年8月、150万円の解決金で和解したが、会社に戻ることはできなかった。西武鉄道の風通しの悪いカルチャー、そして、不正を正そうとする正義感はあっても手段を誤ると台無しになる――そんなことが分かる事例をお伝えする。
Digest
  • 社内で不正経理と同一視されるプール金の現場を目撃
  • 客を装い苦情受付窓口に告発メール
  • 上司を懲らしめるため無言電話、売上集計で不正操作…
  • 解雇され地位確認求め提訴、150万円で和解

社内で不正経理と同一視されるプール金の現場を目撃

訴状や準備書面などの裁判資料によると、原告の汐見悦次氏(仮名、推定20代前半)は、西武鉄道の専門職(旅客サービス)の正社員として採用され、駅員業務に従事した。2010年~13年のいずれかの年(※特定を避けるため)に大学を卒業し、同年4月に入社している。

勤務先は、西武新宿線の新所沢駅だった。同年12月、西武新宿線の「航空公園駅」に転勤となった。ここで汐見氏は、信じ難い光景を目にした。上司の駅員である梅田克男・主任と住吉菊蔵・副主任(仮名。以下、登場人物は全て仮名)が、利用客が乗り越して改札窓口で支払った現金の一部(1日当たり、多い時で千円程度)を、会社の内規に違反して、そのまま改札内に留めているのを知ったのだ。

西武鉄道では、日々の金銭管理で、駅券売機で記録される売上データと、実際の現金の数字に「ズレ」が生じた場合、徹底的に原因を究明し、ズレの原因を確認するか、ズレが解消されるまで、駅員が多大な労力、時間を費やして対応することになっている。

それでもズレが解消しない場合は、調査結果を、本社に報告しなければならない。その厳格な管理ゆえに、社員のなかには、余剰金をプールしておき、ズレを解消する者も現れるようになっていた。

西武鉄道では、そうしたプール金をつくる社員は「不正経理と同一視」して、厳しく指導し、時には懲戒処分を行い、周知徹底していた。

こうした会社の教えをスポンジのように吸収していた汐見氏は、自分の上司が不正行為をしていることに、不快感と恐怖心を抱いた。

しかも、その上司2人は、現金が合わなかったとき、しばしば汐見氏のせいである、と責任転嫁していた。

汐見氏は、管理職に相談したかった。

しかし、梅田主任が「俺が田中・本川越駅管区長に『異動させろ』と言った係員は、いなくなる」と言っていたのを聞いたことがあった。

さらに別の上司や同僚が、「梅田主任は、航空公園駅の勤務者について、何か不満を抱くと、航空公園駅を管轄する新所沢駅の助役を介さず、直接、田中管区長へ話しを持って行く」「梅田主任は、田中管区長へ事実を捻じ曲げて告げ口する」と言っていたのを聞いたこともあった。

管区長は周辺の駅員たちのトップで、汐見氏にとっては雲の上の存在。その管区長と「太いパイプ」を持つ梅田主任の不正をただそうとすれば、逆に報復を受けるのではないか。その恐怖から、汐見氏は管理職の上司に相談できず、悶々と悩む日々を送った。

客を装い苦情受付窓口に告発メール

不正を何とかしたい。でも上司に逆らったら潰される…。この正義感と恐怖の葛藤のなかで、ついに汐見氏は、打開策を見つけた、と思った。その方法とは、汐見氏が告発したとわからない形で、上司の不正を明るみに出すため、利用客が西武鉄道の苦情受付の窓口『お客様センター』にメールで投稿したように装う、というものだった。

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上は西武鉄道の苦情受付の窓口『お客様センター』の投稿ページ(同社HPより)。下は汐見氏が客を装って告発した一回目のメール文の概要。(※筆者が裁判資料をメモして作成したもの=コピーや撮影はできないため)

こうして航空公園駅に転勤してから半年後の6月18日、汐見氏は、画像のメールをお客様センターに送った。

その内容は、先日、航空公園駅で、駅員から電話があり「切符交換の際、お金を返してしまったので、いつでもよいので持ってきていただきたい」と電話で言われた、というもの。このメールのポイントは、駅員のミスにより、駅の売上データと、実際の現金に齟齬が出たことになるという点だ。

この苦情メールの後、本社社員が、航空公園駅の駅員を事情聴取することになった。結局、プール金は暴かれず、上司は不問に付されたが、本社が迅速に対応したことに、汐見氏は驚いた。

そして、そのことに味を占めた汐見氏は、もっと航空公園駅の不正をただしてもらおう、と思い、何度もお客様センターにメールを送った。(※メールは全15通、全文はPDFダウンロード可)

メールの内容は、例えば、「新所沢駅で若い駅員がゴミ箱からマンガ雑誌を数冊手に持って部屋に入って行った。仕事中に倉庫の中でマンガを読んでいるのか?」というものや、「航空公園駅で特急券を買ったが、券売機が止まってしまい、スミヨシという年配の係員が対応したが、逆に私に『どうしたらよいか』と聞いきて、大分待たされた」、「改札を尋ねた女子高生のことを、駅員二人が『いまの子、胸デカかったですよね?』と言っていた」などで、日時や場所はぼかしている部分もあるが、汐見氏が見聞きした事実に基づいた内容が多かった。

その中で、7月19日付のメールには、「航空公園駅の深夜のバス停で、20歳代ぐらいの駅員が、バスが遅れたことについて、乗客の一人一人に説明して、帽子を取り頭を下げてお詫びをしていて、対応が非常に良かった」と書いていた。この駅員とは汐見氏のことだった。

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上は新所沢駅構内のゴミ箱。下は航空公園駅のロータリー

最初は、世直し、不正を正したい、という志が見てとれたが、この頃から、自分の評価を上げたい、というエゴイズムも見え隠れし

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上は券売機。下は窓口処理機

上は解雇通知書、下は和解条項の概要

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