実名告発に踏み切った西川直樹さん。
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計測機器の専門商社・東陽テクニカの社員だった西川直樹さん(30代)は、2008年12月以降、3年間で合計23回、25時間に及ぶ面談で自主退職を強要された。「自分の夢」や「持っている資格」を書かせ、それを口実に転職を促す「誘導尋問」、転職活動以外の仕事をさせない追い出し部屋への異動、自らを無能と無理矢理認めさせるための「再教育プログラム」……。これら一連のパワハラの被害にあった西川さんは、うつ病となり休職を余儀なくされるに至ったが、同社の退職強要の違法性は、2012年の労災保険支給、続く民事裁判においても認定された。一部上場企業で執拗に行われた陰湿なリストラ手口の全容を、本人への取材と録音記録、判決文より、忠実に告発する。(一審・二審判決文はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇合計23回、25時間の退職強要面談
◇「給料泥棒」となじりつつ「残業付けるなよ」
◇「自分の夢を書け」
◇追い出し部屋とPIP
◇労基署、裁判所も違法性を認定
◇合計23回、25時間の退職強要面談
「西川君にはうちの仕事は向いていない。このまま成長しても、期待する程度にはおそらく届かないだろう。別の仕事を探したらどうか?」
リーマンショックの影響が日本でもあらわとなり、「派遣切り」が頻発していた2008年12月下旬のある日、東陽テクニカ(本社東京京都中央区、五味勝代表取締役社長)で技術系総合職として働いていた西川直樹さん(30代)は、直属の上司である小森俊夫課長と取締役でもある岡澤英行技術部長から、上記の言葉で、暗に退職を迫られた。
東陽テクニカは物性測定、電磁波障害測定、情報通信測定、音・振動測定、海洋計測などの測定機器を輸入販売している計測機器の専門商社で、東証1部に上場。西川さんは同社に2007年1月、技術系総合職として中途入社し、顧客企業への商品設置や調整、トラブル時の電話対応などに携わってきた。
東陽テクニカの言い分では、西川さんが会社を辞めるべき理由は「能力が低い」ことにある。だが、同社がのちに労基署の調査で提出した人事考課・勤務評定(2008年9月時点)では、西川さんの勤務態度は「責任度」が若干劣るとされているものの、「仕事の正確さ・早さ」「協調度」「積極性」「活動実績」「職務実績」「修得度」など、その他の項目に関してはいずれも「平均的」と評価されている。2009年9月には、「責任度」の評価も「平均的」に改善している。
最初の面談で西川さんが退職を拒むと、会社側は2009年1月下旬に行われた2回目の面談では、「客と折衝できない」「(顧客に詳しい説明をせずに)早く話を終わらせようとしている」などと批判。さらに西川さんが入社一年目に「10万円のコネクタを壊した」ことも、槍玉に挙げてきたという。
「たしかに2007年頃に携わっていた作業中、コネクタが動かなくなったことはありました。しかしこれは、通常の作業の流れの中で動かなくなっただけのことですし、そもそも故障した当時は始末書の一枚も要求されませんでした。それを2年も経ってから蒸し返し、確たる証拠もないのに私の過失だと言い始めたのです」(西川さん)
西川さんの集計によれば、東陽テクニカが西川さんに対して行った退職強要面談の回数は23回、時間数にして25時間に及ぶ。なお前述の西川さんの勤務評定は、面談が始まってからほとんどの項目で下げられたが、この評定を含め、東陽テクニカは3年にわたる退職強要面談において、西川さんに能力不足を証明する成果物、客観的データなどは示していない。また西川さんが在職中に始末書を書かされたことがないことは、のちに西川さんが東陽テクニカを提訴した裁判でも確認されている。
◇「給料泥棒」となじりつつ「残業付けるなよ」
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。東陽テクニカの五味勝代表取締役社長(写真は同社ホームページより)。東陽テクニカの「社員心得」には、「社員個人の人格を尊重し、人間としての尊厳を傷つける行為をしてはならない」とあるが… |
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西川さんによれば、同じ時期に東陽テクニカから自主退職を求められた同社社員は、他にも複数名いた。だが西川さんはあくまで在職を求め、2010年6月9日、東京都渋谷区にある東京管理職ユニオンに加入。ユニオンに加入した事実が会社に通知され、雇用についての協議が団体交渉で行われるようになると、2010年9月16日を最後に約半年間、露骨な退職強要が行われることは極端に減ったという。
だが、西川さんがICレコーダーで録音した9月16日の面談では、東陽テクニカの加羽沢総務部長(肩書は当時。2014年現在はすでに退職)による、以下のような発言が確認できる。
「(ユニオン加入は)意趣返しでやったわけじゃない?何かを求めてやったわけじゃない?それは何を求めてしたわけ?自分の改善良くしてくれるとか、何かプレッシャー与えてくれると思ったの?ユニオンが会社に対して代弁してくれると期待感思ったの?」
「『はい』じゃなくて、俺が投げたボールを返せ。本当にキャッチボールができない奴だな。それが分からない。答えになってないんだから」
「あなたをお客様の前に出せない。なぜかと言うと顔がまず怖い。あなたのために.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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西川さんの労災を認定した、中央労働基準監督の調査復命書。 |
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西川さんの「再教育」に使用された、フランスの周波数分析器メーカー「OROS」の製品マニュアルの一例(東陽テクニカホームページより)。 |
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