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「ハローワークの求人票に騙された」――新入社員が初任給前日に“過労運転”事故死 夜勤明け、バイクで帰宅中に グリーンディスプレイ

情報提供
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グリーンディスプレイの昨年の新入社員、渡辺航太さん(遺族提供)。
 都内の空間デザイン会社「グリーンディスプレイ」の新入社員だった渡辺航太さん(当時24)が、昨年4月下旬、夜勤明けの帰宅中に原付バイクで単独事故を起こし、死亡した。居眠り運転が原因とみられるが、遺族によれば、過労死レベルの長時間労働が続いた結果だった。この事故にはもう1つ、同社がハローワークに実態と異なる求人票を出していた問題があった。航太さんは求人票を信じて採用面接を受けたが、実態は、航太さんの会社選びの方針に完全に反していた。遺族は「求人票に真実が記載されていれば、息子は入社しなかった」と話している。航太さんはなぜ死亡するに至ったのか。話は会社選びの時点から始まっていた。命を奪われない会社選びとは――。(記事末尾より訴状ダウンロード可)

 「ハローワークにある仕事なら安心だと思っていました」

 ケアマネジャーをしている渡辺淳子さんは、新宿駅近くの喫茶店で、息子の航太さん(死亡時24歳)の就職先について、そう話した。

 「会社からは『求人票を信じる方がおかしい』ということを言われました」

 「求人票に真実が記載されていれば、息子は入社しなかった」

 航太さんが昨年3月に入社したのは、東京都世田谷区に本社のある空間デザイン会社、株式会社グリーンディスプレイ。名称のとおり、植物を使った空間演出を手がけ、東京の日本橋三越や六本木ヒルズをはじめ、有名ホテルや百貨店などの植栽を受け持っている。

 デザイン関係の仕事を希望した航太さんにとって、非常にやりがいのある仕事だった。2020年の東京オリンピックにも、仕事を通して関わる見込みがあった。

 航太さんは楽しそうに仕事のことを話していたと、淳子さんは言う。

 「テレビで銀座の飾りつけを見ては『あれはうちがやったんだよ』とか、六本木が映れば『あそこはうちがやったんだよ』と、目がキラキラしているわけです」

 「良い仕事だと思うんです。息子にとても向いていると思います。いつ書いたのかわかりませんが『自分のやりたい仕事ができる』というメモが手帳に残っていて、いまも宝物として持っています」

 しかし、入社翌月の昨年4月24日、夜勤明けの帰宅中に原付バイクで単独事故を起こし、死亡した。

 事故があったのは神奈川県川崎市内の見通しのよい直線道路で、制限速度で走行中に車道左端から歩道にはみだし、そのまま電柱などに衝突したという。

 会社のタイムカードによると、航太さんは事故前日(23日)の午前11時ごろ出社。約22時間後の24日午前8時50分ごろに退社するまで、記録上の労働時間は約17時間にのぼる。

 また、事故前5日間の労働時間は平均12時間におよび、残業時間は事故前1か月間で86時間45分に達していた。

 事故の原因は、ブレーキをかけた痕跡がないことなどから、航太さんの居眠り運転とみられるという。

 淳子さんによると、グリーンディスプレイが求人票で示した勤務条件には夜勤の記載がなく、マイカー通勤も「不可」と明記されていた。これは、航太さんの会社選びの方針に明確に反しており、会社に騙された場合を除けば、絶対に入社しない会社だった。

 話は事故の前年、航太さんが就職活動をしていた2013年秋にさかのぼる。

◇「事故防止」重視して会社選び 家族と相談し方針明確に
 13年春に都内の大学を卒業した航太さんは、同年9月、東京西部のハローワークで求人票を見ていた。在学中に就職活動が終わらず、卒業後もアルバイトをしながら続けていた。

 希望するのはデザイン関係の正社員だが、家族と相談して、会社を選ぶにあたって譲れない方針を2つ決めていた。

 1つは夜勤がないこと、もう1つは自動車通勤が禁止されていること。

 これは、介護業界で働く淳子さんが、夜勤での自動車運転がどれほど注意していても危ないことをよく知っていたからだ。淳子さん自身、「夜勤とマイカー通勤が常識で事故が多発している」とする介護施設を避け、居宅介護支援事業所を勤務先に選んでいる。

 そんな希望と方針にちょうど合致したのがグリーンディスプレイだった。

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航太さんがハローワークで入手したグリーンディスプレイの求人票。

 航太さんがハローワークで取得した同社の求人票によれば、勤務時間帯は午前8時50分から午後5時50分とのみ記載され、「マイカー通勤不可」と明記されていたのだ。

 淳子さんも同社にいい印象をもち、航太さんに向いている仕事だと思ったという。

 このころの様子や2人の会話ついて、淳子さんは次のように話す。

 「卒業して半年たってもなかなか決まらなくて、ハローワークにも行っていました。本人は焦っているのでしょうけれど、ここがいいかな、そこがいいかな、ここを回ってきたんだよと、食事をしながら話していました

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航太さんが勤務していた横浜市内の拠点(横浜ベース)外観。

航太さんの勤務時間グラフ。休憩時間の扱いは遺族と会社のあいだで争いがある。

訴状の一部。航太さんの労働時間は過労死認定レベルの過酷な労働だったと主張する部分。

航太さんの給与明細書の一部。正社員登用後(3枚目)の基本給は6万円を下回っており、残業時間は空欄になっていた。

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exbaron2015/09/19 23:14

また可視化された社会をナメきってる事案ですか。

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読者コメント

  2018/02/09 12:54
 2018/02/09 12:54
渡辺 淳子2015/10/04 12:44
 2015/09/23 21:52
2015/09/19 15:45
2015/09/19 11:39
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