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ワタミの調停 過労死遺族をクレーマー扱い、「貴重なご意見として承る」連発

情報提供
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ワタミフードサービスによる調停申立書の一部。責任はないが金銭は払うという姿勢で貫かれている(12年11月28日受付)
 ワタミ過労死遺族の森夫妻が今月9日、損害賠償などを求めて渡邉美樹元会長らを提訴したのは、民事調停で決裂した末のことだった。その調停や事前交渉の資料を読み込むと、ワタミ側は安全配慮義務違反はないとする一方で、遺族から請求があったから「示談金額」を提示する、と「責任はないがカネは払う」趣旨の主張を続け、事実説明を求める遺族の質問の一部には「貴重なご意見として承る」と幾度も跳ねのけるなど、まるで遺族をクレーマーのように扱ってきたことがわかった。また、調停以前はワタミとワタミフードサービスの2社連名で対応してきた会社側だったが、調停では子会社のフード社(渡邉美樹氏が役職から外れている)のみを当事者としており、2社が森さんに約束した「真摯な対応」もウソだったことも明白になった。1年以上にわたる取材結果から、ワタミ側の対応にどのような問題があったのか、報告する。(遺族の質問に対するワタミからの回答文書を末尾に添付)

ワタミ株式会社リスク管理グループ長の対応を受ける森夫妻。ワタミ本社1階ロビーで。左下のマル内は、別確度から撮影したグループ長の胸ポケットの拡大(12年9月20日)
 居酒屋「和民」店員の森美菜さん(当時26)が入社2カ月で過労自殺した問題で、ワタミ側が、美菜さんの労働実態について説明を求める両親をクレーマー扱いしてきたことが、民事調停の資料などからわかった。

 民事調停は昨年11月から、美菜さんの両親である森豪・祐子夫妻とワタミフードサービス株式会社の間でおこなわれてきたが、今年11月に決裂。それを受けて夫妻は今月9日、損害賠償などを求めて渡邉美樹元会長らを提訴した。

 提訴後の記者会見で森さんは、筆者の「これまでのワタミ側の対応をみたところ、クレーマー扱いされてきたのではないか」との質問に、「そうですね。(会社からすれば)単なるクレーマーなんだと思いますね」とうなずいた。

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ワタミフードサービスによる調停申立書の一部。画像1枚目の部分に出ていない部分を含む。

 美菜さんは2008年4月、ワタミフードサービス株式会社に入社。神奈川県横須賀市の「和民」京急久里浜駅前店に配属され、同年6月12日に過労自殺した。労災認定は12年2月。

◇被害者遺族を裁判所に呼び出す ワタミは責任認めず
 クレーマー扱いがわかったのは、(1)民事調停の申し立て手続(2)調停内での森さんの質問に対するワタミ側の回答内容(3)調停以前におこなわれた協議申し入れにワタミ側が回答した文書などによる。

 とくに手続きでは、加害者であるワタミフードサービス株式会社が、会社に責任はないが賠償額を決めたいとして、自ら調停を申し立てている。加害者が被害者遺族を裁判所に呼び出しており、異例だ。

 12年11月28日受付の調停申立書によれば、フード社が求めているのは、「相手方らに対し支払うべき損害賠償額を確定すること」。相手方は森夫妻のこと。

 フード社は申立書で、まず「安全配慮義務違反があるとは考えていない」と責任を否定したうえで、夫妻からの請求に対して示談金額を提示するなど真摯に話し合いをしようとしたが、夫妻が話し合いに応じないためやむなく調停を申し立てたと説明する。

 続く部分も含めて、全文を引用する。[ ]は筆者による。

本調停を申し立てた理由

 「そもそも、申立人[ワタミフードサービス株式会社]は、故人の自殺につき、安全配慮義務違反があるとは考えていないが、故人が業務に起因してなくなったと認定されたことを非常に重く捉え、遺族である相手方らとは真摯に話し合いをしようと考えていた」

 「そのため、上記のように、申立人は、相手方らからの請求に対し、妥当と判断した示談金額の提示を行い、法的義務のない再発防止策についても可能な限り要望に応える形での回答をそれぞれ行ってきたのである」

 「相手方らの申立人に対する直接行動の後、申立人は代理人を通じて示談について話合う旨の回答、通知をなしているが、相手方らはこれに応じようとしない」

 「そこで、申立人はやむを得ず早期適正な解決のために本調停を申し立てるに至った次第である」

申立人の主張

 「故人の死亡については、神奈川労働者災害補償保険審査官により、業務起因性が肯定されている。しかしながら、業務起因性の有無と使用者の安全配慮義務違反の存否は直結しない」

 「本件では、一定程度の長時間労働は存在したものの、休憩の設定や定期的な面接等により十分な対応・措置を採っていたものであり、申立人に安全配慮義務違反は存しない」

 「とはいえ、申立人は、故人が申立人における業務に起因して死亡したと認定されたことを極めて重く受け止めており、相手方らに対し、一定程度妥当な金額を支払う意向である。そこで、相当な示談額を確定するべく協議を行いたい」

 責任はないが、請求されたので払うというのがフード社の主張の骨子だ。

 会社側のこの姿勢について、森さんは、「因縁をつけられたから、会社に責任はないが払いましたということになりかねない」と懸念を述べたことがあった。

◇親会社を調停から外すワタミ 子会社のみ当事者に
 申し立て手続きでもう1つ重要なのは、会社側当事者が、グループ全体を統括するワタミ株式会社の子会社、フード社のみだった点だ。

 民事調停が始まる以前、森夫妻に対応してきたのはワタミ株式会社とフード社の2社で、夫妻に送られた連絡文書も2社の連名で出ている。

 ところがワタミ側は、調停になると、親会社であるワタミ株式会社を当事者から外した。

 ワタミグループでは雇用や人事などはワタミ株式会社が掌握しており、美菜さんが入社したのはフード社だったが、内定決定通知書は「ワタミ株式会社代表取締役・CEO渡邉美樹」の名前で出ている店舗配属の辞令も「ワタミグループCEO渡邉美樹」とフード社の栗原聡代表取締役の連名だ。また、人事労務関連の社内テキストはワタミ株式会社が作成している。

 美菜さんの労働実態の把握を第一とする森夫妻にとって、もっとも事情に詳しいワタミ株式会社が、当事者から抜けてしまった影響は極めて大きい。

 だが、ワタミ側の2社は、調停を申し立てたことを伝える12月5日付の文書で、「貴殿らからの質問事項に関しては、同調停内において真摯に対応させて頂きます」と述べているのだ。

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ワタミフードサービスによる最初の回答書。数行程度の回答しかなかった(13年1月29日付け)。4月下旬の回答文書は記事末尾のリンクから全文閲覧可。

 実際に調停が始まると、事実説明を求める森さんの質問に、フード社は充分な回答をせず、調停開始から半年ほどが過ぎると、森さんの質問に「貴重なご意見として承らせていただきます」と回答し始めた。

◇事実説明求める質問に「ご意見として承る」 民事調停で
 民事調停は、賠償額を確定したい会社の狙いに反して、森さんが質問し会社側が回答するという形式で、美菜さんの労働実態を把握することが当初の目標となった。

 これは、「(美菜さんが)なぜ死んだのかわからないままでは、金銭の話し合いには応じられない」という夫妻の意向に、調停委員が賛同したからだ。真摯な回答による実態解明なしに業務改善はできないという思いもあったという。

 森さんは11月1日付けの申入書で、美菜さんの労働実態が入社前の説明とまったく違うのはなぜかなど、11項目の質問を出していたが、会社側は回答しないまま11月28日に民事調停を申し立てた。

 しかし、フード社は1回目の調停に回答を持参せず、調停委員の説得によって1月29日付けでようやく最初の回答文書を出したが、その文面は数行から10行程度と短く、実態解明につながるような十分な説明にもなっていなかった。

 回答文書は「ワタミフードサービス株式会社代表取締役社長桑原豊」の名前で出ており、代表者印が押されている正式なもの(右記参照)だが、こんな回答だった

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ワタミグループの組織構成や意思決定の仕組み、リスク管理グループについての説明。09年版CSR報告書(上2枚)と13年版同報告書(下1枚)による。

森さんとワタミ側とやりとりの文書の一部。ワタミ側が労組関係者を拒絶するために民事調停を起こしたのではないかという疑いが生じる。

渡邉美樹氏がフェイスブックで「ご遺族に具体的なご提案をするなど真摯に対応してまいりました」などと発言したメッセージ(13年12月8日)

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