C:働く生活者にとってのワーストカンパニー
(仕事2.0、生活1.0、対価1.0)
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「いつ辞めるの?いいから早く辞めて、帰ってきなさい!」――ある店長は、森さんの過労自殺が明らかになって以降、親からそう言われた。心配するのも無理はない。なにしろ、たまたま事故死したわけではなく、『死ぬまで働け』『結果がすべて』『出来ないと言わない』などの理念教育が徹底され、追い詰められた末の死だ。「“365日24時間死ぬまで働け”は、入社前から有名でした。『そう簡単に休めると思うなよ!』『オマエが休んでる間、お客が心配じゃないのか?』と言われ、休みは悪、と教育されます。新卒の頃は、3か月間休みゼロで働く店長を間近で見ました」(理念集、就業規定、給与規定はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇「人間に冷たい」社風
◇一番下にしわ寄せがくるタテ社会
◇「悪魔だと思いました」
◇売上が行かない→坊主に
◇ワタミ店舗社員の1日
◇森さんの事件後、「労基法は守っていこう」
◇デスクワークがまるごとサービス残業に
◇2013年3月から組織階層を簡素化
◇「宗教でした」という研修
◇3~4年で店長に
◇大量採用、大量離職
◇3年働くと社内公募の権利発生
◇正社員の人件費も実質的には変動費
◇売上さえ立っていれば自由
◇基本給に深夜勤務手当が含まれる
◇今夏のボーナス、高評価な店長でも「6万円」
◇各種ボランティア代金に夢手帳も給料天引き
◇住む場所も選べず、3日前引っ越しも
◇「人間に冷たい」社風
単なる長時間労働なら外食業界に共通する問題でもあるが、ワタミの場合は、特に会社のカルチャーが「冷たいタテ社会」で、逃げ場がないのだという。
ある元社員は、森さんの過労自殺を機に吹っ切れて退職を決意し、今年に入って他業種に転職した。「ワタミ社員の人柄の特徴は、『人間に冷たい』ということ。1歩店に入ったら『使える人』『使えない人』に分別され、結果がすべて。周りに悩みを打ち明けたり、相談できる環境がなく、1人で思い詰める。森さんは、その例だと思う」
「森さんの事件は『不慮の事故』だとして会社側は責任を認めないんです。過労自殺が労災認定されたことも社内では隠され、報道で初めて知りました。報道された日は社内で話題になりましたが、ちょうど社員旅行の日で、そのまま行って、みんなで乾杯もしたんです。その時、この会社は絶対におかしい、と思いました」(元社員)
この元社員は中途入社で、前職もブラックな労働環境だったため、長時間労働自体には慣れていた。だが、やはりタテ社会の冷たい社風には驚いた。
「年に1回、温泉旅館などに社員旅行をするのですが、夜の宴会で、社員全員が瓶ビールを持って、まず部長のところにぞろぞろと集まるんです。あれはすごい光景で、ビックリしました。『上の言うことは絶対』だから、ああなるんでしょう」(同)
◇一番下にしわ寄せがくるタテ社会
タテ社会なので、渡邉美樹会長から発せられた無理な命令のしわ寄せは、ヒエラルキーの一番末端に位置する、現場の店長や社員、そして特に、自殺した森さんのような、新入社員へと押し付けられていく。
「だから、現場の社員たちが、正月のおせちを買わされるはめになるんです」(同)。これは2011年まで、正月のおせち販売のノルマを「1人2つ以上」と設定されていた話で、社員の間では有名だ。なにしろ、居酒屋のおせち料理なのに1人前が1万8千円もするため、売れるわけがない。ところが、上からの命令は絶対。
「多くの社員が、自腹を切って買っていました。私も自腹で買って、実家に送ったら、『何これ。5千円くらいしたの?』って聞かれて。1万8千円だというと、『いつものやつ、2つ買えるよ』と。そのくらい割高な商品でした」(同)
現役の店長も買わされたクチだ。「毎日、『注文とれたのか?』とマネージャーから確認の電話がしつこく来るので、最後は自腹で買わざるを得なくなりました。私は、バイトと一緒に店で食べました」。この、明らかに利益率が高い“割高おせち”は、最初から社員に買わせるつもりで開発したのでは、とさえ思わせる。
この自腹購入も、表向きは強制ではなく自発的なものであるが、現実は「強制」そのもの。この巧妙な仕掛けは、あらゆる場面で出てくる“ワタミ教”行動パターンの特徴なので、覚えておいていただきたい。
◇「悪魔だと思いました」
買わされるだけで済むなら、ましなほうだ。昨年(2012年)の春、ある30才前後の社員が、20代の店長にイジメられ、鬱病で出社できなくなり、自殺を図った事件が発生した。
「仕事上のミスで自分より若い店長に怒鳴られ、1人に大量の納品作業を押し付けられるなどイジメみたいな状況でした。鬱を患い、睡眠薬を大量に飲み、自宅から救急車で運ばれたんです。死を覚悟していたと思う。最近の睡眠薬は安全に配慮されてるから、死ねなかったんです」(元社員)
特に「人間に冷たい会社」と感じたのは、そのあとだった。「その話を、マネージャーが『しょーがねーなー』などと、悪口を言いながら、笑って社員らに話すんです。『悪魔だ』と思いました」(同)
こうしたエピソードは、ワタミの社風が、森さんの自殺(2008年)以降も、何ら変わっていないことを示している。
真面目な性格だと、追い込まれて鬱になりがちだが、ごく一般的に多発しているのが、「バックレ」である。ある日、突然、出社しなくなる。
「バックレは実際、多いのですが、社員がバックレると、部長や本部長が、実家まで説得に送り込まれるんです。そうなったケースを何人も知ってます.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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ワタミフードサービスの組織階層(概要) |
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ワタミの理念。これらは一言一句まで完全に暗記しなければ研修所から帰れない。 |
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職務と基本給の金額。ワタミの給与規定より。 |
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ワタミのキャリアパスと報酬水準(ワタミフードサービス) |
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ワタミ店長の給与明細。NPO会費の天引きが多い。 |
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