引越社関東を提訴した現役正社員の西村幸三氏(仮名、34才)。提訴直後に懲戒解雇されたが、解雇無効の仮処分申立をし、ただちに復職を果たした。裁判は続行中。
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アリさんマークでお馴染みの引越社が、エース級現役社員と元社員らから4件の訴訟を相次いで起こされた。同社では、長時間労働に伴う残業代未払いに加え、引越作業による荷物破損や車両破損を従業員に弁償させる制度で400万円請求された社員もいる。その際、社員会から借金させ給与から毎月天引きするため、社員はこれを“アリ地獄”と呼ぶ。今回は、このアリ地獄問題に関連して会社を提訴した現役正社員(34歳)のケースを取り上げる。会社は提訴の報復として懲戒解雇し、見せしめで“罪状”を列記した顔写真入りの指名手配書のようなビラを全支店に貼り出し社内報にも載せ全社員に配布したが、解雇無効の仮処分申立て後、会社側は彼を復職させざるを得なくなった。同社の内情を報告する。(訴状等資料3点ダウンロード可)
【Digest】
◇アリさんマークの引越社で大騒動
◇提訴した業績ナンバーワン社員を懲戒解雇
◇全従業員に西村氏を誹謗中傷したビラ配布
◇「社員にやさしい会社」と思い入社
◇派遣会社に登録して休日出勤する「強制NSシステム」
◇引越作業の破損を従業員に弁償させるシステム
◇ユニオンに加入すると配転で給与51%減
◇ドラフト会議で選ばれなかったから配転?
◇闘って懲戒解雇撤回、新たに損害賠償・慰謝料300万円追加
◇アリさんマークの引越社で大騒動
「まじめに頑張りまっせ。アリさんマークの引越社です!」
元プロボクサーでタレントの赤井英和のテレビCMを見たことのある人も多いだろう。引越大手の一角を占める引越社では、社員と元社員12人が7月31日に名古屋地裁に集団提訴。同日付けで東京地裁には配転不当と損害賠償を求めて正社員の西村幸三氏が提訴するなど、次から次へと問題が噴出している。
同社は1971年に名古屋市で創業し、業績を伸ばした現在では、名古屋に本社のある株式会社引越社、株式会社引越社関東、株式会社引越社関西など合わせて従業員4520人(15年2月)、グループ売上高は273億円(14年3月末)にまで成長。
引越用トラックには働き蟻をイメージしたロゴマークが描かれているが、従業員達は、自分たちが置かれた状況を“アリ地獄”と称する。長時間労働、残業代の多くが支払われないことなどが問題化しているのだ。
しかし、それだけなら「うちの会社だってひどいもんだよ」という声も当然聞こえてきそうだ。だが、同社の実情を探っていくと、尋常ではないことがだんだんわかってきた。
現在進行中の現役社員および元社員による訴訟。
○7月31日、㈱引越社を相手取り12名が名古屋地裁に集団提訴
○7月31日、㈱引越社関東を相手取り現役社員の西村幸三氏が東京地裁に提訴
○8月20日、㈱引越社関西を相手取り元社員1名が大阪地裁に提訴
○8月24日、㈱引越社関東を相手取り元社員4名が東京地裁に集団提訴
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会社を訴えた引越社関東の正社員、西村幸造氏(仮名・34歳)の経験をたどりながら、この会社の実情にせまっていきたい。
◇提訴した業績ナンバーワン社員を懲戒解雇
2015年8日11日午前7時40分、東京都中央区日本橋小伝馬町にある引越社関東の本部で朝礼が始まり、約80人の社員が参加していた。人事係長がとつぜん言った。
「人事の方から一件、あのー報告があります。えー●●(西村)君! 前へ」
人事係長の命により、西村氏は全社員の前に立たされた。
「貴殿は、会社の名誉を害し、信用を傷つけ、会社に莫大な損害を与えました。(中略)平成27年8月10日懲罰委員会の審議に基づき、平成27年8月11日限りにて、貴殿を懲戒解雇処分といたします」
唐突にみんなの前で懲戒解雇処分を告げられたのである。西村氏は、個人でも加入できる
プレカリアートユニオン(連合傘下の全国ユニオン加盟=以下ユニオン)に加入し、未払い給与の支払いや、仕事中の破損事故を社員が弁償させられていることなどの是正を団体交渉で求めていた。
その直後に配転させられ、給料を51%減額されたことに対し、西村氏は配転の無効と差額給料の支払をも求めて7月31日に東京地裁に提訴していたのだった。
ちなみに西村氏は、営業専任職だったとき(14年12月)に、70~80人中で営業成績1位であり、会社に貢献している。懲戒解雇は、明らかに報復措置だろう。サラリーマンにとって懲戒解雇は死刑執行に等しい。社員達の面前で“死刑判決”を受けた直後、西村氏は4人の管理職に呼ばれ、会議室で“判決理由”を告げられた。
N本部長 「こういう態度とる前に、そっちがそういう態度をとってきてるわけだから、そりゃそうやろ、ニュースも出てるし、会社に訴状送ってきてなっ。
業務上の機密を漏らして、機密事項を漏らした。職制(職場で労働者を管理する立場の人)を批判した、誹謗中傷した、どうしようもないな」
配置転換などについて訴訟を起こしたことが懲戒解雇の理由だと、N本部長は明確に告げたのである。
これを聞いて、「悔しいです」と西村氏は涙を流した。追い打ちをかけるようにN本部長は、こう語った。
「やっぱりこんだけ就業規則に抵触するものが出てくると、というので今回の判断に至ったということやな。(中略)お前がとった行動にとって、全従業員がものすごい迷惑を被っとる事実だけは忘れんとってほしい。(中略)今回この件があっていろんな問い合わせも入っておるしやがな、実際にお前は個人で東京で、あの提訴したわけやから、その内容が出てきとるわけ。うん、そのへん敵に回したこと忘れんなよ」
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解雇通知書も理由書も交付されず、「服着替えて帰ってくれていいから」とそのまま西村氏は帰宅させられた。
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賃金の未払い、社員に作業中の破損の弁償を負わせていることなどを問題にした社員に対し、報復的措置。こうした告知は名誉棄損にあたるとして西村氏は慰謝料を追加請求した。 |
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◇全従業員に西村氏を誹謗中傷したビラ配布
それだけに留まらず、会社は懲戒解雇したことを伝えるビラを全支店に張り出したのである。
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社員会である「友の会」から社員に借金させ、弁償金を給与から毎月天引きしている。 |
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引越業務で様々な破損があると、社員に弁償を請求するシステム。業務の内容からして破損を完全にゼロにすることはできず、本来なら会社として負うべきリスクのひとつだ。
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(上)営業専任職時の平均給与は月額35万円超。(下)配置転換後は額面18万円代。
残業代未払いや弁償金返済制度の是正を求める社員を配置転換し、給与を半減させた。 |
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(左・上下)解雇無効を訴えた申立書。(右・上下)復職通知。わずか一カ月余りで解雇撤回。
何の前触れもなく、弁明の機会も与えられず、就業規則や懲罰規定も周知させていないのに突然に懲戒解雇された。ただちに解雇無効の申立てを裁判所にしたところ、会社は懲戒処分を撤回した。 |
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