東北大学の非正規職員の無期転換方針にいての概要。労働契約法では、雇用期間が5年に達した有期労働者が無期転換を申し込めば自動的に無期契約になる。しかし、同大学は様々な条件を課して、無期転換のハードルを高くしている。
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東北大学が揺れている。大学側が、雇用安定を目的とした改正労働契約法の趣旨に反して、今年2月から4月にかけての説明会等で、5771名の非正規職員のうち3243人を、2018年3月から数年間で雇止めする、とあらためて宣告したからだ。背景には、短期契約を繰り返す有期契約労働者の雇用安定を図るために13年4月に施行された改正労働契約法がある。有期雇用労働者の雇用期間が通算5年に達すれば、本人が希望すれば期限のない無期契約に転換できるものだ。ところが東北大学は、非正規職員の無期転換を阻止するため、当事者の意見も聴かず5年で雇い止めとする就業規則を成立させた。同じ目的で5年雇止め規則を作った早稲田大学は刑事告訴・告発され、5年上限を撤回。多くの大学も5年上限を次々に取り下げている。また、65%の企業が5年以内の無期転換を決定、という調査もあるなかで、同大学は孤立を深めている。非正職員ら約1200名が、雇い止め反対の署名を里見進総長あてに提出するなど、反撃が始まった。
【Digest】
◇東北大学 衝撃の3243人雇止め宣告
◇あと出しジャンケンの東北大学 過半数代表選挙のあとに改定案
◇不利益変更でないと大学側は強弁
◇たらい回し方式で長期勤務
◇経営サイドの弁護士も「これはアウト」
◇結局 当事者の意見は聞いていなかった
◇優秀な人だけ選抜 法の趣旨を曲解
◇四労組共闘は早稲田大学との決定的なちがい
◇“早稲田大学ショック”で全国の大学が次々に5年上限撤回
◇長期雇用にむかう一般企業も
◇東北大学は取材に「答えられません」
◇東北大学 衝撃の3243人雇止め宣告
2015年5月1日現在、東北大学の非正規職員は5771名(正規職員は4686名)。そのうち、実に3243人が事実上クビになるというのだから、大事件である。
2018年3月末日から数年かけて、膨大な数の非正規職員を雇止めにしていく、というのだ。ある理科系の講師が言う。
「これから東北大学で起きようとしている実質的な大量首切りの本質を一言でいうならば、漫画『鬼』(山岸涼子作・潮漫画文庫)の世界ではないだろうか」
講師の言葉が気になって、実際に読んでみた。この漫画は、1995年~96年にかけて『月刊コミックトム』で連載されたもの。天保の大飢饉に襲われたある村で、重大な決定がなされた。生き延びるため、社会(村)を存続させるため、口減らしのために、小さな子供たちを殺さなければならなくなった。
だが、自ら手をかけて子どもを殺すなどできない。そこで、良心の呵責に耐えかねた大人たちは、子どもたちを深い穴倉に落とし、自ら手をかけずに餓死させようとする。
間引きされれば、一瞬の苦しみですむかもしれないが、穴倉で文字通り弱肉強食の生存競争をして餓死する、という塗炭の苦しみを、子どもたちは味わうことになる。そんなことが、この『鬼』には描かれている。
これを東北大学に当てはめれば、解雇という被雇用者への殺人を犯すのは、痛みもともない、様々なハードルを乗り越えなければならない。だから正社員に転換する前に雇止めとして職を奪い、穴倉に放置し生存競争せざるを得ない状況に追い込む。
このような大学の“本音”が現れたと筆者が思ったのは、6月27日に学内で行われた東北非正規教職員組合と首都圏大学非常勤講師組合と大学との団体交渉の内容を知ってからだ。
組合側は、改正労働契約法を遵守して、雇用期間5年を経過した非正規職員が希望すれば無期契約にできるように重ねて要請した。その交渉が後半にさしかかったとき、大学側担当者がこう発言したのである。
大学側――われわれは、解雇ということに慣れてないんですよね。そこが大きなところで、非常勤講師であれば、カリキュラム上で必要なくなったとか、根拠があると思う。
(中略)
組合側――解雇がいやだから、(職員を)抱え込んで解雇の手続きをするのがいやだから雇い止め!?
非常勤講師の場合は、カリキュラム変更やプロジェクト終了などの関係で授業がなくなれば講師の仕事もなくなり、比較的、雇止めにする理由が見つかりやすい。しかし、仕事内容に恒常性・継続性がある職員に対しては、合理的な解雇要件を並べるのが面倒で難しいから、こういう発言が出てくる。
このやり取りを知ったとき、殺すのは忍びないから深い穴に子供たちを放置する『鬼』で描かれた世界に通じるものがあると、筆者も感じた。
なお、9月29日に実施された第2回団交では、大学側代理人が、解雇に慣れていないから雇止めにしたい、という意味で言ったのではないと、上記の件を強く否定している。
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非正規職員の雇用期間上限を5年にする就業規則は2014年4月1日改定なのに、1年さかのぼってから5年のカウントを始めるという。 |
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◇あと出しジャンケンの東北大学 過半数代表選挙のあとに改定案
東北大学の非正規職員は、かつて雇用期間3年を上限とする就業規則があった。今回、非正規職員の契約期間を最長5年としたのは、労働契約法改正が2013年4月1日に施行されたことに関係している。
細切れに契約し、3年上限であれば、最初の1年は仕事を覚え、2年目は有効に仕事をし、3年目は次の仕事探しに集中する。
これでは働く側が安定しないのはもちろん、経営にとっても支障をきたす。そのために法改正し、有期契約労働者の通算雇用期間が5年を経過し、労働者が希望すれば雇用期間の定めのない無期契約転換できることになった。
ただし、給与・待遇・福利厚生・その他の条件は従前のままでよく、安定雇用にはつながるが、差別の固定化でもある。
2013年4月1日が施行日なので、5年後は2018年4月。そこからは、労働側が希望すれば、「正規社員と給与等の待遇は異なるが、雇用は無期で安定する」という新たな身分が生まれることになる。東北大学は、この新身分の発生を阻止しようとしており、法の趣旨に反しているのは明らかだ.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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選別して無期契約に転換させることは法の趣旨に背いている。 |
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東北大学職員組合(正規職員組合)が非正規職員らによびかけた署名。約1200名が署名し、そのうち約200名は正規職員だ。 |
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正規社員と非正規社員が分断されているなかで、東北大学の職員組合(正規職員)は、一貫して非正規の雇止めに反対しており、非正規の組合や地元の組合とも連携している。 |
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独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の調査では、有期契約のフルタイム職員を5年で無期転換にする企業が65%。パートタイムでもそれに近い企業が無期契約にする予定である。 |
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