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電線の電磁場対策、経産省が検討会設置 焦点は参加メンバー

情報提供
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高圧送電線囲まれた児童館(東京都葛飾区白鳥)。そこに通うこどもたちのリスクを減らすための対策が必要だ
 国内外の疫学調査によると、送電線の近くに住んでいる子どもは、小児白血病になる可能性が1.5~4.7倍と高いリスクを負う。WHOの最終報告を前に、経産省は4月下旬、送電線による健康リスクについて検討するワーキンググループの設置を発表した。だが既に同様の取り組みを行っている英国の例を参考にすると、まず旧来型の不透明な参加メンバーの選考方法やバランスから問題になりそうだ。
Digest
  • 消費者参加のワーキンググループ設置
  • ポイントは小児白血病リスクの上昇をどう扱うか
  • ワーキンググループの参加者はどう決まるのか
  • 高圧送電線周辺60mの住宅建設禁止を提言した英国

消費者参加のワーキンググループ設置

送電線などの電力設備から発生する磁場による健康リスクについて、電力設備の所轄官庁である経済産業省が、ようやく対策を検討するためのワーキンググループを作るという発表を行なった

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経済産業省のプレスリリース

電磁場の健康影響については、WHOが1996年から研究プロジェクトを進めていた。その最終報告書(EHC環境健康基準)が、今年の6月にも公表されるという動きにあわせて、国内でもどのような規制が必要かを検討するという内容だ。

6月から、有識者、電力会社、消費者団体などが加わるワーキングループを設けて、秋までに具体的な規制の方法について報告書をまとめる予定とのこと。

 このワーキンググループは、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の中の電力安全小委員会の作業部会として位置づけられる。ワーキングループの報告書は、電力安全小委員会に上げられ、最終的には、電気設備の技術基準という省令の作成に使われることになる。

新聞報道によると、「磁界(磁場と同じ 筆者注)の規制強化へ」とあるが、経済産業省が実際に出したプレスリリースでは微妙に言い回しが違う。「規制のあり方、講ずるべき対策等について検討する」とある。日本には送電線の電磁場への規制は、電場の基準値があっただけで、磁場の基準値はそもそも存在していなかった。

電磁波の値の読み方(電磁波と電場、磁場について)
 電磁波とは、「電場」と「磁場」の振動(波)のこと。したがって電磁波の強さに対する規制は、電場と磁場それぞれの基準が定められている。また基準値は、周波数によって値が変わる。発生源から遠く離れたところでは、電場と磁場の強さは関連があるため、片方を測ればもう片方の値も計算できる。しかし発生源から近い場所では、そこから発生する磁場と電場がそれぞれ独立しているため、それぞれ個別に測る必要がある。

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世界各国の疫学調査の再評価。出典)「危ない電磁波から身を守る本」コモンズ2003年

国際的にはすでに、WHOの関係団体である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定める1000mG(ミリガウス)*というガイドライン値が存在している。基準がない日本ではこの1000mGという国際ガイドラインを基準値として採用するだけでも規制の強化と言えるわけだ。

*東日本の50Hzの周波数の場合。西日本の60Hznの周波数では833mGとなる

ポイントは小児白血病リスクの上昇をどう扱うか

しかし、今問題になっている小児白血病が増えるという値は、その1/333に当たる3mGもしくは、1/250の4mGだ。右に示す二つのグラフは、2000年に発表された、それ以前に行われた世界各国の疫学調査のデータをまとめて再評価したもの。

どちらも寝室の磁場の平均的な値が3mGもしくは4mGになると、小児白血病の発症率が1.5倍、2倍になることを示している。同様の結果は、国立環境研究所の故兜真徳氏が中心になって行われた日本国内の疫学調査でも確認されている。

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International Journal of Cancerという学術雑誌に2006年に掲載された日本での疫学調査の論文。寝室が4mG以上のこどもは、リンパ性白血病の発症リスクが4.7倍になっている
注)この国内の疫学調査は、2006年11月9日の読売新聞記事でも「葬られた疫学の警鐘」とよばれるような不思議なあつかいを受けてきた。2002年に研究スポンサーである文部科学省の科学技術振興調整費の事後評価でなぜか最低のC評価とされたのだ。しかしその後2005年には国際的な学術専門誌に論文として公表され、WHOの報告書(EHC)の評価にも利用されている。文部科学省の最低評価が果たして正当な評価であったのかの検証が必要だ。

個人的には、政府の諮問委員会みたいなやり方は、正直なところ信用できないという思いが強い。官僚が事前にお膳立てした方針があり、それを遂行するまての形式にすぎないケースばかりだからだ。

あまりにも露骨な例だが、環境省が作った水俣病懇談会で、患者救済に積極的に提言する柳田邦男氏らの委員の行動に対して、環境省幹部がかなりご立腹だったのか、「懇談会は、行政のやりたいことを推進するためのガソリンだ。我々と違う方向へ進もうとするなら、ブロックするしかない」と朝日新聞の取材に対して言い放った例でも明らかだ(2006年9月2日『朝日新聞』)

経済産業省のワーキンググループでは具体的には、どのような内容が検討されるというのだろうか。原子力安全・保安院 電力安全課の辻本崇紀氏に話を聞いた。

「先ず結論ありきでは決してありません。これから規制のあり方全体を議論して決めていくということです」

--3もしくは4mGでの小児白血病のリスクについても議題になるんですよね?

「4mGの扱いについては、WHOの報告書(EHC)の中でどのように扱われるかということも見ながらということになります。人間を対象にした疫学調査で弱い関連性が認められていながら、動物実験では問題がないということなので、この問題への扱いは、非常に難しいなと思っていいます。どういう対策を取るべきなのかという点はもちろん、ワーキンググループでの大きな議題の一つであるのは確かです。今はそれ以上は申し上げられません」

これまで、電力会社は、動物実験で問題がない、メカニズムが不明だということで、具体的な低減対策の実施を一方的に拒んできた。私がこれまでに受けた相談事例でも、家の前の配電線によって家の中が4mGの磁場にさらされて、東京電力に対策を頼んだ人がいる。

そこではWHOが現在健康影響に見直しの最中だというのに、1987年のWHOの文書を根拠に「5万ミリガウスでも安全です」と説明だけで済ませてきた。しかし、これからは、「安全かどうかは経済産業省で検討中じゃないか」と切り返されることになるので、電力会社は新たな対応が必要になることだろう。

ワーキンググループの参加者はどう決まるのか

こういった対策を検討するワーキンググループを決定する際には、参加メンバーをどのように決定するのかが重要だ。後で述べるようにイギリスでは既に同じような取り組みが2004年よりスタートしている。そこではできるだけ広い範囲での利害関係者による話し合いによる合意のプロセスが重要視されている。

利害の対立は当然あることを前提に、違うもの同士がどのように真剣で白熱した議論を展開させながら結論を出さないかぎり、一般の人たちも信用して受け入れるような内容にはならないということだ。

実際のメンバーは保健省などの関係省庁、電力事業者や不動産業者に加え、小児白血病患者の家族代表や電磁波問題を告発してきたNGOの代表なども参加している。

経済産業省のプレスリリースでは、メンバーについて「学識経験者、電気事業者、消費者関係団体等から構成する」と書いてある。

具体的にどのような人選のやり方をするつもりなのか。従来の最初から結論ありきの取り組みではないということであれば、当然様々な利害関係を代表した人選が不可欠だ。

--イギリスでは、幅広い利害関係者を参加させるなど人選に気を使っているようですが、経済産業省では、メンバーの選定の決め方についてどのように考えていますか?

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岡本泰輔2012/08/16 10:28会員
電磁波2010/06/05 03:43会員
ひろ2008/02/01 02:51
ウサギより2008/02/01 02:51
スペインは2008/02/01 02:51
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