俳優・津川雅彦氏を起用した大東建託のCM(上・同社HPより)と、本社が入居する品川のビル(下)。不況でも業績を伸ばしている。
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♪いい部屋にはいい笑顔/いい部屋にはいい暮らし――『幸せなら手をたたこう』の替え歌を使ったCMで知られる不動産大手・大東建託株式会社(東京都港区、多田勝美・代表取締役会長)。この有名巨大企業で営業マンとして働いていた谷坂聡太郎さんが2007年10月、自殺した。享年42歳。連日15時間に達する労働に加え、トラブルの埋め合わせとして約360万円を会社から要求され、悩んでいたという。昨年11月、「会社が自殺に追い詰めた」と遺族が静岡地裁に提訴、このほど口頭弁論が始まった。CMの印象とは裏腹の、陰惨な社内実態が浮き彫りになっている。
【Digest】
◇被告「大東建託」不在の法廷
◇本人不在のまま「360万円払え」
◇工事代金膨らんだワンルームアパート
◇360万円払います――本人不在で決められた「覚書」
◇毎日朝8時前から夜11時すぎまで超15時間労働
◇売り文句は「相続税が安くなる」と「家賃収入」
◇「3年いればベテラン、たいてい1年で辞める」
◇「自分も死にたくなった」と遺族に語った元社員
◇被告「大東建託」不在の法廷
2月1日、雨模様の静岡地裁204号法廷(財賀理行裁判官)で第一回口頭弁論が開かれた。原告席に宇佐美達也弁護士ら弁護団と、亡くなった谷坂聡太郎さんの妻ちえさんが座る。対する被告・大東建託側は欠席のため空席だ。
訴状によれば、大東建託藤枝支店の営業マンだった聡太郎さんは、自殺する直前、契約のトラブルから発生した工事費の超過金の一部として360万円を負担するよう上司から再三求められ、悩んでいた。この不当な要求が原因で抑うつ状態に陥り自殺に至ったとして、妻のちえさんと娘が原告となり約4000万円の損害賠償を会社に求めている。また、聡太郎さんの母親も慰謝料などを求める訴訟を別途静岡地裁に起こしており、係争中だ。一方の大東建託は、答弁書で全面的に争う姿勢をみせている。
この日の法廷では妻のちえさんが証言台に座り、裁判をはじめるにあたっての気持ちを述べた。
「夫が亡くなって二年三ヶ月がたちました。何が起こったのかいまだによくわからないけど、いま、亡くなったのは事実ということを頭の中で認識すると、悲しくてたまらないです。普段の娘との生活の中では夫のことを頭から切り離していますが、思い出すと無念な気持ちと強い怒りで頭がいっぱいになります…」
声を震わせながら陳述が続く。
「…夫は仕事上のトラブルが原因で人生を終えるという選択をしてしまいました。それにもかかわらず会社側は事実を認めず、その責任から逃れようとしています。それが遺族にとっては一番残念で無念なことです。(中略)会社は、自ら命を絶つまで夫を追い込んだ事実をしっかり認め、社員をそこまで追い込んみ苦しめたことをしっかりと受け止めて欲しいです…」
傍聴人のまばらな法廷にか細い声が響く。
年間売り上げ高約9548億円・経常利益約739億円・従業員数1万3000人あまり(連結・2009年3月期)。巨大企業を相手にした遺族の闘いは、こうして静かにはじまった。
◇本人不在のまま「360万円払え」
聡太郎さんが失踪したのは10月上旬の夜のことだった。夕方ごろいったん帰宅したが、そのまま無言で出て行ったきり連絡がつかなくなってしまったのだ。動転した妻ちえさんは手掛かりを求めて勤務先の藤枝支店に行った。そこで対応したのは課長や支店長ら上司。彼らが口をそろえて言った言葉が忘れられない。
「みんなのために協力してほしい」
「協力」――つまり金のことだった。聡太郎さんには会社に払うべき金が約360万円ある、それを払ってほしいというのだった。
「360万円」とは次のような事情である。聡太郎さんが担当していた契約がトラブルとなり、工事代金の一部を上司2人と聡太郎さんの3人で埋め合わせることになった。埋め合わせの総額は約770万円。上司2人がそれぞれ約200万円で、聡太郎さん分が約360万円――。
上司らは「本社に入金を待ってもらっている」「皆クビになる」とも話した。その口ぶりから本社は事情を知らない様子だった。課長ら2人はすでに払っており、あとは聡太郎の360万円だけ。だから早く払ってほしいのだと、妻を前に上司らは繰り返した。
行方不明になった社員を探すどころではない。上司らの関心はひたすら「360万円」にあった。
こんなやり取りをしている頃、聡太郎さんは死を目前に逡巡していた。会社が力を貸していてくれていれば助かったかもしれない、と遺族は悔やみきれない。
支店からさほど遠くない海辺で、首を吊った状態の聡太郎さんが警察官に発見されたのは翌朝未明。救出の甲斐なく手遅れとなった。ペットボトル数本、タバコの吸殻、銀行のメモ用紙に走り書きした遺書が見つかった。
〈無責任ですみませんでした〉
そう詫びを述べた遺書の宛先は、トラブルとなった契約の当事者である地主の男性だった。夫の身に何があったのか――ちえさんが混乱のきわみにあった死亡当日、件の上司らは無遠慮にこう伝えてきたという。
「車の中に残っている書類を返してほしい」
葬儀に上司らの姿はなかった。夫はなぜ死んだのか、会社に何かあやしいことでもあるのか。不審がどんどん膨らむ。
やがて上司らは会社を去り連絡が取れなくなってしまう。会社からは説明らしい説明や謝罪の類はなかった。遺族が提訴を決断したのは、こうした大東建託の姿勢に不誠実さに傷つき、怒りに耐えられなくなったからにほかならない。
◇工事代金が膨らんだワンルームアパート
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亡くなった谷坂さんが働いていた大東建託藤枝支店(現在は移転)。行方不明になった夫の身を案じる妻に、上司らは「360万円払ってほしい」と言ってきたという。 |
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トラブルとは、焼津市内の元旅館だった場所に4階建てのワンルームのアパートを建てる話に絡む。以下は、聡太郎さんの話を通じて妻が把握したいきさつである
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藤枝市内の新築アパートに掲げられた大東建託の看板。営業マンの労働時間は1日15時間以上に及ぶ。 |
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自殺で死亡した大東建託営業マンの遺族と同社との間で訴訟が続いている静岡地裁(静岡市) |
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