就業人口10万人あたりの職種別「脳・心臓疾患」「精神障害」認定率ランキング。被雇用者では管理職が一番高いが、全体で高いのはダントツで自営業者。
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部長クラスに残業代を払っていない会社が95%、89%は課長クラスにも残業代を払っていなかったことが、財団法人「労務行政研究所」の調査で明らかになった。管理監督者を労働時間管理の適用外とした労働基準法第41条を、部課長クラスに単純に(または恣意的に)あてはめているため、とみられる。このように、どれだけ働かせても残業代を払わずに済むのならば、必然的に管理職の過労死は多くなるはず――そう考え、厚労省が公表する過労死関係の職種別の労災認定数と、国勢調査の職種別の就業人口データ(推計値)を掛け合わせたところ、就業人口あたりの労災認定率は、全体平均3.3に対して、管理職はその4倍にもなる13.5と、被雇用者のなかでは、もっとも高かった。次に高かったのは、自動車運転者の6.0だった。(労災認定者の職種×業種クロス集計データはダウンロード可)
【Digest】
◇就業人口10万人あたりの労災認定を計算
◇管理職の労災認定率、自動車運転者の2倍
◇工事業、福祉・介護、運送業に多い管理職の労災認定
◇就業人口あたりの認定率を調べていない厚労省
◇資料ダウンロード
財団法人「労務行政研究所」の11月5日の発表によると、同研究所が今年5月から7月にかけて実施した「労働時間・休日・休暇等に関する実態調査」で、管理職の残業代など支給実態を聞いたところ、部長クラスに残業代を払っていない会社が95%に達し、89%は課長クラスにも残業代を払っていなかった。
調査は、上場企業3455社と、資本金5億円以上で従業員500人以上の非上場企業311社の計3766社を対象におこなわれ、回答のあった233社を集計したという。
2008年に「名ばかり管理職」が問題になったように、労働基準法は41条2号で、「監督若しくは管理の地位にある者」は、週40時間といった労働時間の適用対象外となっている。
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
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本来は(法的には)仕事の中身によって決められなければならないが、「監督若しくは管理の地位にある者」=管理監督者を、イコール管理職クラス(課長・部長・店長)としている会社が多いことから、実態としてはワーカーなのに残業代が支払われない「名ばかり管理職」の問題が発生するわけである。
管理職というだけでどれだけ働かせても残業代を払わなくていい(と会社が解釈している)となると、過労死するほど働かせたほうが会社にとってはお得だ。実際に過労死する管理職も多いはずである。
◇就業人口10万人あたりの労災認定を計算
そこで、就業人口10万人あたりでみたときの職種別の「脳・心臓疾患」「精神障害」労災認定率をまとめたのが、下の表だ。脳・心臓疾患と精神障害はそれぞれ、死亡すると「過労死」「過労自殺」と呼ばれるようになる。
労災認定と「過労死・過労自殺」は、以下のように、密接に絡んでいる。これは、過労死した場合に遺族が労災認定を求めるケースも多いためだ。
【脳・心臓疾患】=平成23年度、認定310(うち死亡121)、平成22年度認定285(うち死亡113)。【精神障害】=平成23年度、同325(うち死亡66)、平成22年度、同308(うち死亡65)。(→参考:精神障害の労災請求件数が3年連続で過去最高を更新)
職種の分類と労災認定数のデータは、厚労省が毎年公表している職種別の労災認定数(2010年度と11年度の合計)によるもの。その就業人口データは、2010年国勢調査による職種別の推計人口をもとに筆者が作成した。労災認定率は、両年度の平均値である。
2010年度+2011年度 | 就業人口 | 脳・心臓疾患 | 精神障害 | 計 |
職種 | 推計値 | 認定数 | 認定率 | 認定数 | 認定率 | 認定数 | 認定率 |
その他の管理的職業※1 | 69,500 | 30 | 21.58 | 20 | 14.39 | 50 | 35.97 |
法人・団体管理職員※2 | 211,800 | 28 | 6.61 | 29 | 6.85 | 57 | 13.46 |
自動車運転者 | 1,517,600 | 150 | 4.94 | 33 | 1.09 | 183 | 6.03 |
営業・販売事務 | 526,400 | 32 | 3.04 | 26 | 2.47 | 58 | 5.51 |
建築・土木・測量技術者※3 | 476,100 | 16 | 1.68 | 20 | 2.10 | 36 | 3.78 |
情報処理・通信技術者※4 | 886,700 | 18 | 1.01 | 26 | 1.47 | 44 | 2.48 |
接客・給仕 | 1,673,100 | 18 | 0.54 | 21 | 0.63 | 39 | 1.17 |
飲食物調理 | 1,970,700 | 27 | 0.69 | 17 | 0.43 | 44 | 1.12 |
商品販売 | 4,209,300 | 42 | 0.50 | 25 | 0.30 | 67 | 0.80 |
一般事務 | 7,732,600 | 31 | 0.20 | 75 | 0.48 | 106 | 0.69 |
営業職業 | 3,328,700 | 13 | 0.20 | 28 | 0.42 | 41 | 0.62 |
製品製造・加工処理※※ | 3,327,000 | 14 | 0.21 | 19 | 0.29 | 33 | 0.50 |
- 認定率は就業人口10万人あたりの労災認定数(生死を問わない)。
- 認定率=(認定数/就業人口)x10万人
- 「計」欄の認定率は2年度分の平均。計算式は、認定率=(認定数計/(就業人口x2))x10万人
- 就業人口は2010(平成22)年国勢調査の推計値による。「抽出速報集計」の表番号7−1を使用した。
- 厚労省のランキングで使用された職業分類(日本標準職業分類の中分類)が、国勢調査で使用された職業分類(国勢調査用にアレンジされた日本標準職業分類の中分類)に存在しない場合、「平成22年国勢調査に用いる職業分類」に従って職業分類の小分類を組み合わせて就業人口とした。組み合わせた小分類の内容は以下の通り。
- ※1:他に分類されない管理的職業従事者
- ※2:法人・団体管理的職業従事者
- ※3:看守+消防員+警備員+他に分類されない保安職業従事者
- ※4:建築技術者+土木・測量技術者
- ※5:システムコンサルタント・設計者+ソフトウェア作成者+その他の情報処理・通信技術者
- ※6:ブロック積・タイル張従事者+屋根ふき従事者+左官+畳職+配管従事者+土木従事者+鉄道線路工事従事者+その他の建設・土木作業従事者
- ※※:製品製造・加工処理従事者(金属製品を除く)
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厚生労働省が毎年公表している職種別の労災認定数(2010年度と11年度、生死は問わない)と、2010年の国勢調査の職種別の推計人口をもとに筆者が作成した。労災認定率は両年度の平均。
10万人あたりの認定率が36.0ともっとも高かった「その他の管理的職業」は、工場経営者、牧場経営者、映画館経営者、クラブ経営者、旅館経営者など、「個人が営む事業の経営・管理の仕事に従事するもの」(平成22年国勢調査に用いる職業分類)に相当する。ただし、経営・管理以外の仕事もおこなう場合は、小売店主、飲食店主、旅館主人などとして、別の分類(たとえば小売店主は「商品販売従事者」)になる。
そして2番目に多かったのが、認定率13.5の「法人・団体管理職員」。これが、部長、部次長、課長、支社長、支店長、工場長といった、「管理職」という言葉から思い浮かぶ職種に該当する。公務員は含まれないが、国立大学法人や独立行政法人、日銀の管理職もこの分類に入る。
「その他の管理的職業」は「個人が営む事業」の経営者に相当することから、雇用される側ではないため別扱いとすると、「法人・団体管理職員」の認定率は、その他の職種より格段に高い。その状況は、脳・心臓疾患での労災認定数トップの自動車運転者(同6.0)と比べると.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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厚労省が公表している「脳・心臓疾患」「精神障害」の職種別労災認定数ランキング(生死は問わない)。2010年度と2011年度。 |
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職種x業種の労災認定数ランキング。厚労省補償課の職業病認定対策室が筆者に提供した資料から作成。 |
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2010年の国勢調査で使われた職業分類の表紙。職種別の就業人口はこれの小分類を見ながら作成した。 |
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