「歩行も仕事」と書かれたゲートをくぐって出勤する社員たち。トヨタ自動車本社工場入口で。
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一時金が満額回答の組合員平均205万円(平均38.0歳)、5年ぶり200万円超えと、景気のよいトヨタ。だがその裏では、“応援”で疲弊する中高年が続出しているという。震災復興やエコカー補助金・エコカー減税といった環境の変化に応じて生産量の増減が著しいため、その調整弁として、非正規の期間工だけでなく、ここ数年は、かつては考えられなかった「職制」(=班長など下級管理職のこと)や50代正社員が、応援要員として投入されているからだ。消費増税前の駆け込み需要を見込んで、今年8、9月に入社する期間従業員に限っては「初回の契約を更新すると10万円支給」というプレミアムまで乗せて人手を集めている。トヨタの現場業務はキツく、辞める者が多いからだ。戦力保持のため、毎朝、握力を量り、普段より2割数値が低いと注意を受けるという念の入れよう。昨今の工場内の動きを、現役社員に聞いた。
【Digest】
◇「標準作業表」歩く速度は一歩0・5秒、製品持つ3秒・・・
◇職制も45歳超社員も応援部隊に投入
◇震災復興後、エコ減税増産などで現場は「極限状態」
◇年度末に土曜出勤続出、残業時間も増大
◇ラインをストップさせる“勇気”
◇障害者・女性・中高年も“一人工”扱い
◇「標準作業表」歩く速度は一歩0・5秒、製品持つ3秒・・・
トヨタ工場のすべてのラインには「標準作業表」が、作業工程ごとに表示されている。俗に言うトヨタシステムは、労務管理、生産管理ほか広範囲にわたるシステムであり、カンバン方式、カイゼン活動、創意工夫提案などトヨタ独特な方式を数多く生み出してきた。
「『標準作業表』こそ、現場レベルでのトヨタシステムを端的に表しているものはないと思いますよ。これを知らないと、外部の人はトヨタ内のことが非常にわかりにくい」
こう語るのは、入社以来、数十年ずっと現場の工場で働き続けているベテラン社員のA氏である。その「標準作業表」には何が書かれているのか。Aさんに説明してもらう。
「トヨタ工場内すべての工程のところに貼り出されているのですが、製品を持つ3秒、セットする3秒、歩く速度は一歩で0・5秒…と細かに順番と秒数が指示されています。
左手にボルトをもち、右手で何を持つ、と左右の手の使い方も規定されています。間違えて左右を入れ替えると0・5秒遅れる…というように、手順や作業時間が示されています。
さらに、標準作業表のほかに、別紙で安全のポイントなど、いろいろな指示が貼られているのです」
本当に事細かに合理的に設定されており、これをすべて指示どおりにこなさなければならない。さらに、創意工夫提案活動、QCサークル活動など、さまざまな活動の義務を負うが、このうち一部は、かつて“自主活動”とされ、仕事ではないからと残業時間に組み込まれてなかった。
このような過重労働によって過労死した元社員・内野健一さんの妻が裁判を起こし、2007年12月に原告勝訴が確定したが、そのときに初めて、裁判所が「自主活動は業務」と認定したのである。
しかし裁判後、QCサークル活動は残業として扱われるようになったが、創意工夫提案活動は、まだ“自主活動”として扱われ、残業とされていないのが実態だ。
いずれにしても、一歩の時間を0・5秒と細かく管理される現場は厳しい。しかも最近のキーワードは、“応援”である。人手が足りない部署に他から連れてこられて短期間(基本的には3か月間)勤務することを「応援」と呼ぶ。この“応援要員”には中高年も含まれ、ただでさえ体力の衰えた彼らの疲労がたまっているという。
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トヨタ自動車労働組合が発行している『評議会ニュース』(2013年7月2日付)。組合では夏の一時金について調査をしており、同労組分科会の報告が掲載されている。主任から基礎業務職まで、各職層の一時金基準額のほか、会社とのやりとりのポイントも書かれている。 |
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◇職制も45歳超社員も応援部隊に投入
再びAさんに聞く。
「明確に特定するのは難しいですが、2000年代になってから、特にリーマンショック以後に目立ち始めたと思うのは、社内の他部署への中高年社員の応援が増え、それが常態化していることです。
かつては、①職制(下級管理職=おもに班長と組長)と②おおむね45歳以上、は応援に出さないことが不文律でした。ところが、最近はこの二つが崩されているのです。
たとえば最近、堤工場では、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。
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日本共産党トヨタ自動車委員会の機関誌『ワイパー』2012年6月号の一部。「職場は極限状態」と、過重労働のようすがわかる。なお、この機関誌は現在ではブログ『トヨタで生きる』に引き継がれている。 |
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工場での競争力強化にむけて会社とトヨタ自動車労働組合との話し合い。このテーマが話された「2013年生産問題懇談会の報告」を見る範囲内では、過重労働から従業員の健康を守るための意見などは組合側から出されていないようである。(評議会ニュース2013年7月2日号より) |
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『評議会ニュース』2013年7月2日発行。寮の家賃や社宅、そして水道光熱費の増減など、労働組合と会社のやりとりが、かなり詳しく出ている。 |
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