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ガーナ人強制送還死亡事件 「窒息死疑い」から一転、「奇病による突然死」に変わった医師鑑定の謎

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強制送還のために東京入管職員9人がかりで、スラジュさんはエジプト航空の機内に運び込まれた。そして意識不明となり空港内の診療所で死亡が確認された。当初、職員らは詐病だとして応急手当をしようとしなかった。成田空港の診療所と空港に設置された蘇生用のAED。
 2010年3月22日、旅行客でにぎわう成田空港で、ガーナ人男性・アブバカル=アウデウ=スラジュ(ABUBAKR AWUDU SRAJ)さんは死亡した。20年以上連れ添った妻との間を裂かれ、強制送還されようとしたさなかの出来事だった。東京入管の職員9人は、動物でも運ぶようにスラジュさんの両手両足に手錠をかけ、抱えあげて機内に運び、座席に座らせたうえで両手を腹にくくりつけ、猿ぐつわをかませ、さらに体を前に畳むように押さえつけた。その結果の死だった(前回記事)。事件直後の解剖所見は「窒息死の疑いあり」。ところが、遺族が国賠訴訟を起こしてから2年後、国側は新説を言い出した。いわく、本人も知らない「心臓病」があり、その発作による突然死だった、制圧とは無関係の病死、国に責任はない――。そんなことがあり得るのか。訴訟記録から検証する。
Digest
  • 窒息で死亡したと原告主張
  • 解剖所見も当初は「窒息死の疑い」
  • 窒息死の3大兆候
  • 「認否留保」を繰り返した被告国
  • 「制圧とは無関係の心臓病死」主張する国
  • 日本法医学会理事長の鑑定・意見書
  • 「蘇生しても救命可能性なし」と田鎖鑑定

窒息で死亡したと原告主張

スラジュさんが死亡したのは東京入官職員による過剰な制圧によって窒息したためである。国や職員には賠償責任がある――。

事件からおよそ1年半が過ぎた2011年8月、スラジュさんの妻とアフリカの肉親らはそのように訴えて、国と入管職員9人を相手どって国家賠償請求訴訟を東京地裁に起こした。9人の職員とは、星公久・白根政彦・水谷巨寿・森田慎也・石井大介・河端高広・白藤友哉・東川健二の各氏だ。

職員の供述などによれば、事実経過はおよそ次のとおりである。

スラジュ氏は両手両足に手錠をかけられ、うつ伏せに抱え上げられてエジプト航空機内に運び込まれた。機内では9人がかりで座席に押さえつけられ、両手をプラスチックバンドで結び直して腰のベルトに固定し、タオルで猿ぐつわもされた。

続いて、スラジュ氏の右隣席に位置していた東川健二氏が、スラジュ氏の頭部付近に左手をかけるようにして同氏の上半身を下方に引き寄せ、前かがみにさせた。この動作によってスラジュ氏はぐったりとした状態となる。その様子をみたエジプト航空社員は搭乗拒否を通告、送還は中止となり、スラジュ氏は機外へ運びだされた。

 「前かがみ」の動作を境にスラジュ氏は終始ぐったりとしていて意識のない状態だった。しかしが、入官職員らは「詐病」(病気のふり)だときめつけ、救命措置をとらなかった。機外へ出て入官施設に戻る車のなかで、ようやく呼吸をしていないことに気づき、空港内の病院に運ばれた。しかしすでに遅く死亡が確認される。

検死や解剖の結果、この一連の経緯から、スラジュさんは窒息して死亡した、と原告は判断したのである。訴状から引用しよう。

スラジュ氏は、送還機内において多数の戒具(手錠・腰縄・結束バンド)により体を固定され、被告ら(東京入管職員)に数人がかりで体を押さえつけられることによって、物理的にも全く抵抗することができない状態であるとともに、身体に強い圧力をかけられた状態にあった。さらに、口には上下の歯が前に出る程強く猿ぐつわ様にタオルが巻かれていた。このように、スラジュ氏は容易に呼吸のできる状態にはなかった。

にもかかわらず、被告星(リーダーの東京入管職員)は、必要がないにもかかわらず、体を数人掛かりで、固定されていたスラジュ氏を前かがみにさせる指示をした。かかる指示は、スラジュ氏の気道を締め付けて窒息状態にしたり、頚椎等身体の中枢部分を損傷させたりするおそれのある危険な行為である。さらに、被告東川(スラジュ氏の隣にいた入管職員)は、被告星の上記指示に対して、単にスラジュ氏を前かがみにするのではなく、被告職員らによって固定されたスラジュ氏の首を相当に強い力で押さえつけて前かがみにさせようとした。かかる被告東川の行為は、スラジュ氏を窒息状態や頚椎損傷等に至らしめる極めて危険性の高い行為である。

 このように被告職員らは、自損行為等(自殺など)に至るおそれが全くなかっただけでなく、容易に呼吸のできない危険な状態にあったスラジュ氏に対して、何ら必要性もなく、しかも明らかに過剰な態様で、スラジュ氏の生命・身体に重篤な危害を加える危険性の高い有形力の行使を。これは過失を超えて故意による暴行と評価せざるを得ない。そして、その結果、スラジュ氏は現に死亡に至っており、被告らは故意による不法責任を負う。

スラジュさんに抵抗らしい抵抗はなかった。それにもかかわらず、手錠や猿ぐつわなどを使い、大人数によって過剰で違法な制圧を行った。呼吸がしにくい状態に陥っていたところへ、力づくで体を前折りにされたことで窒息死させた――という主張である。

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スラジュさんは横浜の入管施設から成田空港に移送され、搭乗橋の非常口(パニックドア)から職員らに抱えられて機内に運びこまれた。成田空港の搭乗橋(上・右端の円筒部分)とパニックドアの階段をのぼった付近(下)。

解剖所見も当初は「窒息死の疑い」

法医学の教科書によれば、窒息死は往々にして明瞭な痕跡を残さない、という。スラジュさんの場合も、それにあてはまる。索状痕や扼殺痕(首を絞めた痕)などあきらかな痕跡はなかった。死体検案書には「不詳の死」と記載されている。その上で、大勢の職員によって制圧されるという死亡直前の状況を踏まえて、窒息死が引き起こされた可能性が、司法解剖によって指摘されている。

千葉県警の依頼による司法解剖は、2010年3月25日、千葉大大学院医学研究院法医学教室で行われた。執刀したのは岩瀬博太郎教授と早川睦講師である。解剖に基づく5月19日付の鑑定書には次のように述べられている

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国賠訴訟で国側は当初、死因不明を理由に「認否を留保」するという態度をとっていた。その後、心臓の房室結節にできた腫瘍(CTAVN)を原因とする病死だと断定、国の責任を完全に否定する主張をはじめた。中央の赤丸付近が房室結節とよばれる、心臓のいわば「電線」の重要部分。

スラジュさんはCTAVNという稀な病気による病死したと池田典昭九州大教授は鑑定した。東京入管職員の制圧行為っとは関係ないという。鑑定書に添付された腫瘍の写真。

池田典昭九大教授は日本法医学会の理事長を務めている。

窒息死の可能性を指摘した解剖医の早川医師は、池田教授らがCTAVNによる病死と鑑定したのにあわせて、窒息死の可能性を撤回した旨を述べた陳述書を国側から提出した(上)。下は成田空港に展示されたエジプト航空機の写真。

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sarutoru2013/11/22 11:09

“CTAVN”

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hituzinosanpo2013/10/28 09:55

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たろう2019/07/22 05:48
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hiro2016/01/22 18:25
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