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「1時間の急速充電で1時間しか走らない」 テスラモーターズを『モデルS』ユーザーが提訴――全額賠償に一度は応じたトラブルの全容とは?

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テスラの青山ショール―ムで展示されている高級セダン型EV「モデルS」。エンジンルームにはエンジンの代わりに巨大なバッテリーが搭載されている。(撮影:筆者)
 電気自動車(EV)メーカー「テスラモーターズ」の日本法人が、同社の高級セダン「モデルS」を購入したユーザーから、購入時の説明義務違反による損害の賠償を求めて提訴されていたことがわかった。訴状によれば、原告の電気工事会社社長は社用等で年間約100日旅行するため、EVの航続距離や充電環境が気になると購入時に説明していたが、販売担当者から「航続距離502km」「全国に約2000箇所の急速充電器があり心配ない」と言われ、昨年12月、1031万円で購入。自宅にテスラ用の充電設備も新設した。だが実際の走行可能距離は、テスラの言う数値の「6割にも満たない」ことが判明。さらに急速充電器も性能不十分で、結果的に「1時間の充電で1時間しか走らない」と幻滅して売却した。テスラ側は訴訟前、一旦は全額賠償に応じる姿勢を見せるなど主張が一貫していない。原告は「普及率が未だ0.1%に満たない電気自動車の販売は、ガソリン車以上の丁寧な説明が必要」と訴える。
Digest
  • ユーザーから訴えられたEVベンチャーの雄
  • 「航続距離502km」「充電の心配なし」と聞き購入
  • 実際の航続距離、「6割にも満たない」
  • 充電困難な電気自動車
  • 口コミサイト投稿阻止のため「全額賠償」に了解
  • テスラ側の反論
  • テスラ社員「訴えられているのは初めて聞いた」

ユーザーから訴えられたEVベンチャーの雄

「電気自動車(EV)がガソリン車を超えられることを証明」しようと、南アフリカ出身の起業家イーロン・マスクにより、2003年に米国でシリコンバレーを拠点に設立されたテスラモーターズ。同社が12年6月に発売したセダン型EV「モデルS」は大半がユーザーからの受注生産ながらすでに全世界で6万6000台以上を販売。創業者のマスクCEOは、宇宙ロケット開発事業や太陽光発電事業にも進出し、「ネクスト・ジョブズ」の最右翼と目される時代の寵児だ。

そのテスラ日本法人「テスラモーターズジャパン合同会社」(福岡武彦代表)が、顧客との間でトラブルとなり訴訟に発展していると聞き、筆者は15年9月14日、この裁判の第一回口頭弁論を傍聴するため、横浜地方裁判所に足を運んだ。横浜市の電気工事会社社長AさんがモデルSを購入したものの「使いものにならなかった」として、同社を相手取り損害賠償を求め提訴した、というのである。

当日の法廷には、原告側は50代後半とおぼしきAさん自身と市民総合法律事務所(横浜市)の金谷達成弁護士の2人が出席。テスラ側は会社の関係者らしき人は傍聴席にも見当たらず、被告席には山下淳弁護士(長島・大野・常松法律事務所)のみが立った。

口頭弁論では、テスラ側山下弁護士から、「(テスラは)原告の要望に真摯に対応してきただけに、提訴に至ったのは残念。早期に解決したい」と、本格的な証拠調べも始まらないのに、早々に和解を求める発言があった。

原告側も、閉廷後に話を聞けば「金額次第で和解は可能」と言う。だが実際に和解できるかとなると、そう簡単ではなさそうだ。具体的な額こそ口をつぐんだが、金谷弁護士いわく、現時点でテスラが提示している賠償額と、原告の要求額275万5510円との間に「相当の開きがある」というのである。

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日本でもイーロン・マスク氏への関心が高まっている。15年9月には本人公認の伝記の邦訳版も刊行された。

「航続距離502km」「充電の心配なし」と聞き購入

「今はそれ以上の話は控えたい」という原告側の意向を汲み、筆者は裁判資料を閲覧した。訴状によると、原告のAさんは14年秋頃にテレビ番組を通じてテスラモーターズと「モデルS」の存在を知り、同年9月19日に横浜市戸塚区にあるテスラのサービスセンターに足を運んでいる。

その時、AさんにモデルSの説明をしたのは、当時テスラの社員だった「I」(テスラ側反論文書によれば、すでに同社を退職済み)という人物だった。

電気自動車の購入が初めてだったAさんは、この時I氏に、さまざまな質問をしたようだ。自分が社用、私用で年間100日程度旅行することや、その旅先には遠方もしばしば含まれること、従ってモデルSの航続可能距離や日本各地の充電設備設置状況などは特に気になっていることなどを伝え、説明を求めたという。

これに対しI氏は、テスラモーターズジャパンの公式サイトにも記載されている「航続距離502km」(※1)との表示を掲示。さらに充電器の設置状況については、PCの画面を示しながら「全国2000箇所以上ある『CHAdeMO』(チャデモ※2)を月額1000円で回数の制限なしに使用できる」と述べたほか、「その他にも無償の充電器が各地の公共施設などにある」ので心配ないと説明したという。

※1 15年10月1日現在の同サイトには、「航続距離最大528 km」とある。

※2 国際電気標準会議(IEC)が国際標準として承認した電気自動車用急速充電器の商標

これらの説明を受け、Aさんは1031万4750円の代金を払ってモデルSを購入すると決断。14年12月26日に納車された。

なお購入前、Iからは「モデルSには特別なカーナビシステムがあり、今すぐには使用できないが、15年3月中には使えるようになる」とも言われたが、実際に提供開始されたのは15年6月下旬だった。

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モデルSの売りの1つであるディスプレイ。

実際の航続距離、「6割にも満たない」

こうして納車されたモデルSは、使用直後から「さまざまな不具合」があったという。Aさんにとって特に困ったことは、主に2つあった。

そのひとつが、モデルSの実際の航続距離が、事前に聞いていたよりもはるかに短いことだった。「502㎞」という名目上の航続距離は、Aさんからすれば「『優良誤認』『不表示』『不実証告示』『商法の契約条項違反』などが考えられる」(投稿より)ものだったようだ。

15年正月、Aさんは横浜から静岡県三島まで、約170km走行した。モデルSは運転席のディスプレイに「その時点の充電量」と、その充電量で走れる「走行可能距離」が表示されるようになっている。Aさんは、モデルSのフル充電時の航続可能距離が502㎞である以上、170㎞走った時点でもまだ330㎞以上走行可能であると想定していたが、三島に到着した時点で、ダッシュボードに表示されていた充電量は300㎞走った場合並(つまり残りの走行可能距離200㎞程度)だった。実際の走行可能距離は、テスラが可能とする距離の6割にも満たなかったのである。

この時Aさんは「何かの間違いだろう」と思ったという。だが、同じ現象はその後も続き、Aさんの疑念は徐々に高まっていった。

訴状には、Aさんの使用状況が細かく記録されている。たとえば、

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チャデモ協議会が作成する「急速充電器マップ」。たしかにこの「数」を見てしまえば、電気自動車の充電環境を疑わなかったのも理解できる。

テスラを訴えた原告が「モデルS」への不満を投稿したクルマSNS「みんカラ(みんなのカーライフ)」。この投稿の下書きを見せたのち、テスラは「全額賠償」を申し出てきた。

マイクロソフト、グーグルなどを経て、現在はテスラモーターズジャパンの広報を務めるという土肥亜都子氏(写真は「ダイヤモンド・オンライン」より)。

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  2015/11/03 19:23
  2015/11/03 19:12
2015/11/02 22:30
古川琢也2015/10/04 14:35会員
 2015/10/04 04:07
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