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疲労蓄積で「本当に多い交通事故」「配達用バイクが自賠責保険にすら入っていない」「不着5回で解雇」――日本経済新聞の新聞奨学生が解雇(=一括返済)に怯えながら働く実情を内部告発

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新聞奨学生の労働実態を内部告発した芸能専門学校の学生。
 4月から新しい新聞奨学生が全国の新聞販売店に配属される。この制度は各新聞社本体が運営母体となっており、仕事と学業を両立する手段としてよく知られるが、奨学生の「過労死事件」も起きるなど問題点の指摘も絶えない。このたび日本経済新聞の販売店で働きながら都内の芸能専門学校へ通う青年が、職場の実態を内部告発した。規定の労働時間や月6日の休日数が守られず、疲労蓄積のなかで配達中の交通事故も多発し、生命の危険を感じる問題も起きているが、事故を起こしたバイクが自賠責保険にすら加入していないことがわかり、安全に使えるバイクの台数も十分でないという。配達員の出入りが激しく内部での物品紛失が多く、夕食は毎日が仕出弁当で、少ない給料から2万9千円も天引き。配達の不着5回で解雇(つまり奨学金一括返済)を受け入れる、との念書を書かされた同僚もいるという。新聞奨学生SOSネットワークの村澤純平氏は「どの学校を選ぶか、どの店に入店するか」で奨学生の運命が左右される、と話す。新聞奨学生のリアルな現場の実像を報告する。
Digest
  • 同じ奨学生で配達部数が異なる
  • 奨学生の給与――時給850円
  • ケガから回復しないまま仕事
  • 仕事と勉学は両立できず
  • バイクのキーと順路帳が紛失
  • 多発する配達中の交通事故
  • 「不着」のペナルティー
  • 新聞奨学生の人数が激減
  • NSN西日暮里は取材拒否

東京・飯田橋の喫茶店で、日経新聞の新聞奨学生として「NSN西日暮里」(荒川区)で働いている平野治(仮名)さんが、職場の実態を内部告発した。

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内部告発者が在籍するNSN西日暮里(東京都荒川区)

「自分の体験からすると、新聞販売店での仕事は積極的にお勧めできないですね。わたしの場合、奨学生になる前にローソンストア100などのコンビニで夜間勤務を続けていたこともあって、夜間労働に慣れていたので、早朝の新聞配達の仕事にもなんとか耐えてきました。しかし、職場の空気がたまらなく嫌です。パワハラや悪質ないたずらがあるからです。ただ、働きながら学ぶ手段として、新聞奨学生もひとつの選択肢であることは否定しません」

平野さんは、1989年に東京・世田谷区で生まれた。母子家庭で育つ。ロボット工学を学びたいと思って、高校卒業後に職業能力開発総合大学校(通称、ポリテク大)へ進学したが、授業料が払えなくなって中途退学した。

大学に入学する際に、新聞奨学生になることも考えたが、選んだ学科が実験の多い理科系だったために、奨学生になれば夕刊配達の業務に支障をきたす。そこで夜間のコンビニのアルバイトを選んだのだが、それだけでは学費と生活費をまかない切れなかった。

やむなく大学を退学し、数年のあいだアルバイトを転々とした。しかし、自分のキャリアを身に着けようと思って、都内の芸能専門学校に入学したのである。

この専門学校は、新聞奨学生向けの特別カリキュラム(夕刊配達ができる時間割)を持っていた。俳優、タレント、歌手、声優、それに作曲家などを養成している。平野さんは、ボーカル科の「シンガーソングライター・コース」を専攻した。歌唱と作曲を学ぶコースである。

平野さんは奨学生に応募する際に、どの新聞社の販売店を選ぶべきかを、慎重に考えた。新聞社によって待遇が異なると聞いていたからだ。また、販売店によっても奨学生の扱い方がまちまちである、とも聞いていた。なかには便利屋のように奨学生を使う店主もいる。しかし、奨学生は実質的に自分で個々の販売店を選択することは、ほとんどできない。そこで少なくとも新聞社の系統だけでも、慎重に検討したのである。

最終的に平野さんが候補として絞り込んだのは、朝日新聞と、日経新聞だった。

両者とも経営が安定している、と聞いていた。しかし、朝日には配達業務のほかに集金業務を含むコースもあるので、仕事の流れによっては、集金業務を求められる可能性もあった。これに対して、日経には集金業務がない。それが決め手となって、最終的に日経を選んだ。平野さんが言う。

「集金業務がなければ仕事と学校とを両立できる、と思いました。しかし、実際はそんなにあまくはありませんでした」

平野さんは、日経新聞の育英奨学会に直接電話をかけ、奨学生になりたい旨を告げた。新聞奨学生は歓迎すべき人材である。奨学金に縛られて退職しにくい状況に置かれるうえに、奨学生には「働きながら勉学にいそしむ意欲的な若者」というイメージがあるので、奨学生の受け入れを希望する販売店は多い。犯罪歴がある者が配達員として紛れ込むこともある販売店の中で、新聞奨学生は安心だ。使いやすい人材なのだ。

平野さんはすぐに採用され、東京都内の販売店に配属された。2014年春のことだった。

ちなみに平野さんが入店したのは日経の販売店であるが、実際には朝日新聞や毎日新聞などの配達も請け負っており、スポーツ新聞も配達していた。

店舗が入るビルの2階から7階が、寮になってた。それぞれの奨学生に、6畳ほどの広さの一間が割り当てられる。バスとトイレは自室にはなく、共同のものが各階にある。

筆者はこれまで複数の新聞奨学生にインタビューをしてきたが、新聞奨学生の住居は、ほぼこのレベルである。過去には、隣の部屋とべニア板で仕切っただけのタコ部屋まがいの寮もあったが、現在ではそこまで劣悪な寮はあまりないようだ。

同じ奨学生で配達部数が異なる

平野さんの1日は、午前2時半の起床から始まる

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日本経済新聞育英奨学会のリーフレット。労働条件は奨学制度の仕組みが説明されている。

NSN西日暮里(荒川区)に面した大通り。交通量が多い。

厚生労働省が日本新聞販売協会へ送った「交通労働災害防止に向けた取組の強化について」と題する文書。新聞配達中の事故の多発を指摘している。

新聞奨学生が職場で死亡した、上村過労死事件の概要。『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)より抜粋。

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hynakun2016/03/11 21:13

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元日経新聞奨学生2016/03/10 16:20
元日経新聞奨学生2016/03/10 16:16
 2016/03/05 19:57
hino2016/03/05 18:01
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