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自殺相次ぐ兵庫県警機動隊の陰険体質――「精神ボロボロ」の新人隊員を怒涛の「指導」攻撃で追い詰める

情報提供
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機動隊に配属されて3ヶ月後、23歳の若さで自殺した山本翔さん。遺書には、先輩隊員3人の名前とともに「先輩の嫌がらせや、上司からの嘘つき呼ばわりには精神的に限界です」と、いじめやパワーハラスメントを疑わせる記述があった。(遺族提供)
 2015年9月から10月にかけて、兵庫県警機動隊の寮で20代の新人隊員が相次いで2人自殺する事件がおきた。どちらも、生前の証言や遺書の記載などから、いじめやパワハラが疑われた。しかし県警監察室は、あくまで「指導」の範疇だとして、「いじめ」を否定、警察側に責任はなく本人の問題だ、と結論づけた。納得できない遺族は、公務災害の申請や提訴という形で真相究明に動きはじめた。それぞれの事件を遺族の証言を中心に報告する。まずは、「先輩の嫌がらせや、上司からの嘘つき呼ばわりには精神的に限界です」と書き残し、2015年9月28日夜に自殺をはかり、23歳の若さで亡くなった山本翔さんの事件から。自殺に追い詰められた背景には何があるのか、どうすれば防ぐことができたのか――。
Digest
  • 病院への緊急避難を責められた末の自殺
  • 上司の命令で病院から引き返す
  • 「耐えられん。死にたい」
  • 怒涛の「報告」要求
  • 「指導」に疲れ果てた「有給休暇」
  • 「機動隊はポンコツ」のうわさ
  • 「県警に責任なし」と監察官室結論

病院への緊急避難を責められた末の自殺

2015年9月28日夜、兵庫県警機動隊の独身寮「雄飛寮」(兵庫県須磨区)で山本翔隊員が自殺した。マスター鍵で戸が開けられ、隊員らが部屋に入ったのは22時18分。制服姿で首をつった山本さんが発見された。享年23。警察学校入隊から2年半、機動隊に入ってからわずか3ヶ月後の悲劇だった。

機動隊での仕事ぶりや生活について山本さんは生前、多くを語っていない。よって、具体的に何があったのかはわからない部分が多い。しかし、遺族によれば、先輩や上司のパワハラに悩んでいる様子をみせていた。うつ病に罹患し、希死念慮(※「死ねば楽になれる」等、自死について考えること)にとらわれていた可能性が高い。そして、自殺の誘惑から助かろうと、もがいた痕跡がある。

9月28日の早朝、山本さんはタクシーで神戸市三宮の赤十字病院に向かった。この日は、朝から警備の出動が予定されていたが、上司に連絡をせず病院に行った。尋常な行動でないことは自分でもわかっていたはずだ。それでも仕事を無断で休んだのは、「このままでは死んでしまう(自殺する)」といった危機感があったためだろう。

機動隊から逃れるように病院に駆け込もうとした山本さんは、しかし、「無断欠勤」をとがめる上司や先輩からの命令によって、寮に引き戻される。そして、執拗な事情聴取と「指導」を受ける。うそつき呼ばわりされ、報告書の提出を命じられ、外泊禁止を告げられた。

山本さんが自殺をはかったのは、こうした一連の出来事があった「長い一日」の夜だった。精神的に疲弊している新人隊員を前に、冷静に状態を観察して慎重に対処するのではなく、寄ってたかって、ひたすら非をとがめた。そうした無知・無配慮・無神経な対応が、彼を死のふちに追いつめた疑いがある。

以下、携帯電話の記録や兵庫県警監察室の報告から判明した9月28日の状況を詳しくみていこう。

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2015年9月から10月にかけて2人の新人隊員が自殺した兵庫県警機動隊の独身寮「雄飛寮」(神戸市須磨区妙法寺)。

上司の命令で病院から引き返す

監察官が遺族に報告した内容によれば、山本さんは9月28日朝、出勤時間の午前8時ごろになっても姿がみえないため、先輩が寮の部屋を確認した。部屋は施錠され、呼びかけにも反応がない。「寝ているのか」と先輩隊員は思い、電話をかけた。すると応答があった。

「寮にいます。すぐ行きます」

電話に出た山本さんはそう答えたという。

前日の9月27日、山本さんは外泊届けを出して神戸市内に借りているアパートに泊まっていた。28日は寮に戻っているはずだったが、じっさいにはアパートにいた。よほど機動隊に行きたくなかったのだと思われる。

「すぐ行きます」

そう先輩に言った山本さんだが、続く小隊長への電話では「体調が悪く、いま三宮にいて、タクシーで日赤病院に向かっている」と欠勤したい旨を伝えている。これに対して小隊長は、「順序が逆やろ! 寮に戻れ」と叱責して呼び戻す。「順序が逆」とは有給休暇をとる手続きをせずに欠勤したことをさす。

三宮から須磨区妙法寺の寮までは、電車やバスを乗り継いで1時間弱はかかる。タクシーを使うと20分から30分。「寮に戻れ」という小隊長の命令にしたがって、山本さんはタクシーで三宮から須磨区の機動隊寮に向かう。寮についたのは午前9時すぎ。以後、上司と先輩による聴取や「指導」が絶え間なく続く。

寮に到着するとすぐに、山本さんは複数の先輩にあてて「戻りました」とラインで連絡した。続けて午前9時20分すぎには、小隊長に電話で「寮にもどりました」と報告した。小隊長は、「事前連絡なしに病院に行こうとしたいきさつ」や体調について聴取した上で、「事前連絡なく所在不明になるものは外泊させらないやろ!」などと叱責した。

小隊長への電話報告が終わると、こんどは寮の部屋で先輩隊員から「指導」された。

「本当に病院に行ったのか。行くなら先に小隊長に連絡せなあかんやろ」

そんな小言を言われながら、山本さんは有給休暇を取る手続きをする。書類の作成や上司の決済などはこの先輩が本人にかわってやった。休暇取得の手続きが済むと、あらためて小隊長に電話で報告した。その際小隊長は「三宮(神戸赤十字病院)にいくまでもなく隊の近くの尾原病院で診てもらえ。そこでだめなら大きな病院にいけばいい」と診察先の変更を指示している。

参考までに、神戸赤十字病院には心療内科があるが、尾原病院には精神科も心療内科もない。仮に山本さんが「心の不調」を医者に訴えたかったとすれば、尾原病院では不十分だったと思われる。

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兵庫県警機動隊本部。独身寮と隣接している。

「耐えられん。死にたい」

有給休暇の手続きと報告が終わったのは午前10時。正式に有給休暇をとったのだから以後は自由に自分の時間として使えるはずだが、じっさいは違う。間をおかずに山本さんは分隊長に電話で報告している。この電話で分隊長も叱責をしている。

「寮にいたというが時間的につじつまが合わんやろ! ハイツ(アパート)から病院(日赤病院)に向かったのではないか! 今までうそを言うなと言っていたのが、まだわからないのか」

そうした発言があったとされる。外泊先のアパートからもどっていないのに寮にいるような話を山本さんがした点をついて、厳しく「指導」したのだ。記録によれば通話時間は26分に及ぶ。

この分隊長による電話の「指導」は、山本さんに小さからぬ精神的ダメージを与えたのはまちがいない。電話が終わった直後、午前10時40分ごろから11時すぎにかけて、自殺をほのめかすメッセージを親しい知人に何度も送っている。

「これ以上マルキ(機動隊)には耐えられん。死にたい。この世からほんまに消えたいと思えるくらいつらい」(午前10時44分)

「朝からずぅーと自殺したいとか考えてまうんよ。今日だってそうやし、この前もいろんなこと言われてこれ以上耐えられれん。ずっと死にたいとしか考えられん。やから今日休みもらった」(同)

「皆には悪いと思っている。やけど、これ以上今の職場にはいられん。つらいし、しんどい、こんなことになるなら死んだほうがいいってなる」(午前11時22分)

「死にたい」「死んだほうがいい」と繰り返す山本さんに、知人は、「みな悲しむ」「仕事やめてもいい」と、思いとどまるよう返信した。そのかいがあったのか、11時半、山本さんは兵庫県警の「なんでも相談室」(※警察組織内に設置された、パワハラなどを相談する番号)に電話をかけている。

監察官の調査報告によれば、山本さんが電話で相談した内容は以下のとおり。

・ 職場でパワハラがあってつらい。

・ 職場の上司に信用されていない。うそつきよばわりされる。

・ 先輩になんどか腹を殴られた。しかし(暴力よりも)信用されていないことが辛い。

・ 職場の人間関係が厳しすぎるので職場を変わりたい。

相談室は「緊急性はない」と判断した

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兵庫県警機動隊の玄関を警備する警察官。

山本さんの部屋にはプロテイン錠剤の大瓶が残されていた。綱引き選手として猛烈な訓練をさせられており、体重を増やすために摂取を指示されていた、苦痛であるなどと生前話していたという。また、山本さんはきれいずきだったが、部屋は親族が驚くほど乱雑だった。うつ病にり患していたとの鑑定がなされている。(遺族提供)

山本さんは機動隊でもっとも年次が浅く、宴会では「一発芸」を求められた。本人は苦痛だったとみられる。尻で割り箸を折る動画を調べた痕跡が、山本さんの携帯電話にあった。インターネット上に投稿された「尻で割り箸を折る」動画の数々。(本文とは直接関係ありません)

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公務災害と認定2018/03/30 12:49会員
甚六2018/02/04 00:49
 2018/02/03 23:41
 2018/02/03 23:38
筆者2018/02/03 22:59
情報提供2018/02/03 22:01会員
本人訴訟常連2018/02/03 18:13
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