ウソの説明をしてまでも口座情報の開示を拒んでいる愛媛県警伊予署。犯行に使われた携帯電話も持ち主照会をしないまま野放し、携帯電話不正利用防止法は何のためにあるのか。
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「みずほフィナンシャル株式会社でございます」--みずほ銀行の関連会社をかたり、多重債務者の弱みに付け込んで200万円を詐取した「偽みずほ事件」。 被害者の女性は気を取り直し、弁護士とともにカネの奪還に立ち上がった。だがそこへ立ちはだかったのが、口座残高情報の開示に動かぬ愛媛県警伊予署のウソとサボタージュ。社保庁と同様、自分らキャリア組は2年でいなくなるからといって、トップの種谷良二本部長の責任は免れない。仕事をしないのなら、同じくボーナス返納のうえで解体するほかない。
【Digest】
◇詐欺グループからカネを取り返す3ステップ
◇「弁護士」と聞いて態度が変わる警察官
◇「残高開示は銀行次第」愛媛県警の建前
◇「ウソでごまかせ」所轄署の本音
◇被害者そっちのけ 無神経警察にモノ申す
◇被害届を躊躇する“本物みずほ"
◇詐欺グループからカネを取り返す3ステップ 「“みずほフィナンシャル株式会社”は、みずほグループとはいっさい、まったく関係ございません。お気をつけください」
やっぱりだまされていたのか--。
”本物みずほ”から冷酷な事実をつきつけられ、被害者のA子さんは絶望のあまり一時は自殺を考えた。データ削除費に強制執行受理費--融資話をえさに適当な口実をつけて次々とカネを振り込ませる卑劣な詐欺の手口。被害金総額は185万5890円にのぼる。子どものために大切にとっておいた学資資金のすべてを、わずか1ヶ月で失った。
■実録・みずほフィナンシャル“貸します詐欺" 被害放置する本物みずほ 打ちひしがれたA子さんをかろうじて支えたのは、民間の借金問題相談所「松山たちばなの会」のボランティア相談員たちだ。
そして、相談した途端、明るみになったひとつの事実にA子さんは驚かされる。
500万円ほどあったはずの債務が、実質は140万円に過ぎないことがわかったのだ。いわゆる金利のカラクリだ。つまり、グレーゾーン金利(29.2%以下)で払わされてきた借金を、利息制限法(元本額に応じて15、18、20%の三段階)で再計算する。
その結果、5社あったサラ金のうち、3社が「過払い」--完済したうえに払いすぎた状態になっていたというわけだ。
もっと早く気がついていれば、返済金に窮するあまり「偽みずほ」にひっかかることもなかったに違いない。
大手サラ金1社あたり年間100億円を軽く超える広告費で潤ってきた民放テレビ、新聞は、せめてもの罪滅ぼしに「グレーゾーン」や「過払い」についての宣伝を毎日やり、取り過ぎた利息を消費者に返すよう業界に働きかけるべきだ。
筆者はそう思う。
A子さんにしてみればお金を払うことより、払わないことを考えていればよかったのだろう。いまとなっては後の祭りである。
「だまされたお金が返ってくるかどうかは分からないけど、専門家に相談してみましょうよ」
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愛媛県東部の町・新居浜市で全国のヤミ金融や詐欺グループの
被害救済に取り組む菅陽一弁護士。ヤミ金相談は警察頼みになりがちだが、被害者のためにお金をいかに回収するか研究に余念がない。
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たちばなの会相談員・青野貴美子氏のアドバイスで、A子さんは今年5月10日、ひとりの弁護士のところにたどり着く。菅陽一氏--愛媛県東部の地方都市・新居浜に拠点を構え、全国のヤミ金融と戦っている熱血弁護士だ。
じつは、ヤミ金融や多重債務者を狙った詐欺があとをたたない背景に、相談に乗る弁護士が多くないという実情がある。引き受けてもカネにならないからだ。被害者はたいてい無一文になっており、弁護士費用など払える状況にない。
被害金が回収できて経費なり報酬が取れるならともかく、その可能性は低い。犯人グループの素性すらまずわからない。運良く警察に逮捕されても、多くの場合、犯人は資産を持っていなかったり移転させていたりする。ヤミ金相手に裁判を起こしても、損害賠償はおろか被害金すら戻ってこないことが多い。だいたい訴状が届かない。
結局、引き受けようとすれば費用持ち出しのボランティア活動になってしまう。弁護士は嫌がり、もっぱら民間の相談所で対応することになる。相談所は警察を頼りにする。警察とて、おびただしいヤミ金や詐欺犯すべてを摘発することは物理的に不可能だ。結局、「やった者勝ち」となり、ヤミ金や詐欺グループが好き放題に暴れまくる悪循環が続いている。
こういう状況のもとで、菅弁護士のように積極的にヤミ金から被害金を取り返すことを研究し、取り組む専門家の存在は貴重な存在だ。
菅弁護士がヤミ金や詐欺グループ相手に実践する被害金奪還の流れは概ね次のとおりである。
(1)警察に被害届を出して、警察を通じて犯行に使われた口座を銀行に凍結させる (2)警察を通じて、犯行に使われた携帯電話の持ち主を突き止め、利用を停止する (3)凍結した口座に残高が残っていれば、名義人に対して返還請求訴訟を起こす |
どこにいるかわからない主犯を相手にするのではなく、口座の名義人を狙うところがミソである。
名義人は多重債務者だったり、善意の第三者だったり。ホームレスが口座を作らされるケースもある。犯行グループの全体像はわからないが、訴えを起こせばこれらの名義人はまず裁判にでてくることはない。従って口座に残されたお金を取り返すことができるというわけだ。
◇「弁護士」と聞いて態度が変わる警察官 ただ、取り返せるのは残高が残っている場合である。犯行の手口は日々巧妙化しており、最近では分業が当たり前。入金があると同時に引き出し役が金を引き出す。あるいは口座を使わず、バイク便で送金させるなど口座凍結対策に対抗しているという。
A子さんから事情を聴いた菅弁護士は、すばやく動いた。
「もたもたしていると口座からカネを引き出されますからね。電話も止めて他に被害者が出ないように、早く手を打たなければなりません」
A子さんが事務所を訪れた5月10日のその日のうちに、菅弁護士は被害概況をまとめた書類数通を作成、これらを携えて警察に被害届を出すようA子さんに指示した。
書類のタイトルは「ヤミ金融被害調査書」「犯罪に利用された携帯電話に関する情報提供票」など。前者の書類には被害金を取られた状況と犯行に使われた6口座のリストを記載、後者には犯人が使った携帯電話の番号を記した。
これをもとに、銀行が口座を凍結し、携帯電話会社が契約者の情報を開示するよう警察に働きかけるとの狙いだ。
口座凍結の根拠になるのは、銀行取引約款、本人確認法や組織犯罪処罰法。携帯電話については携帯電話不正利用防止法である。いずれにしても警察に被害届を出すことが不可欠となる。弁護士事務所を後にしたA子さんは、そのまま最寄りの伊予警察署に向かった。
警察署での印象をA子さんが語る。
「言われたとおり生活安全課を訪ねました。古くて汚れた部屋でした。女性の職員が出てきて、どういうご用件ですか? と聞いてきました。詐欺に遭ったと答えたら、それは刑事課だと。刑事課は同じフロアの別の場所にありました。3人の刑事がいました。丸坊主のヤクザっぽい刑事がジロリとこちらを見て…」
一瞬ひるんだA子さんは、思い切って切り出した。
--被害届を出しにきたんですが?
幸い3人のうちで一番やさしそうな刑事が聞いてきた。
「何の被害届けですか?」
--振り込め詐欺? ヤミ金融みたいなやつですが…
A子さんは言った。
「はい、はい…じゃあ受理しときます」
刑事は、気のなさそうな声で受け答えをした。その口調が一変したのはA子さんが次の一言を口にしてからである。
--書類作ってきました。菅陽一先生にお願いしています。
「ああ、菅先生ね! あそこのビルの、前に携帯電話の会社があるよねえ」
刑事は途端に愛想がよくなり、パソコンを取り出して熱心に調書を取り始めた。
「180度の変わりぶり。弁護士に相談していなかったら相手にされなかったのでしょうか」とA子さんはあきれる。
◇「残高開示は銀行次第」愛媛県警の建前 ともあれ、被害届は受理された。予定なら、凍結口座に残っているお金を取り返す作業に移るはずだが、菅弁護士は思わぬ壁--伊予署の不可解な対応に前途をはばまれた。以下は、菅弁護士の記録によることの顛末である。
被害届を出してから5日後の5月15日、口座凍結の報告を待っていた菅弁護士のところに群馬銀行宇都宮支店から電話があり、こう伝えた。
「伊予署から口座凍結の依頼があり凍結を行った。口座の残高も伊予署に伝えた。警察から被害者に残高を知らせるかどうかについては、警察の判断次第。銀行としては拒否しない」
銀行から被害者側に、直接、口座の残高を教えることはできない。だが警察を通じてなら構わない。そういう趣旨である。
予定どおりだったのはここまでである。
菅弁護士はすぐに伊予署の刑事課に電話をかけた。群馬銀行の凍結口座にいくら残っていたのか、残高情報を知るためだ。残高が残っていれば返還を求める訴訟の手続きに進むことになる。もし残高がなければ、口座名義人相手に訴訟を起こしても費用と労力の無駄になるからだ。
電話の結果、意外なことが起きた。刑事課の課員が残高の情報開示を渋ったのだ。
「口座残高については捜査依頼を(群馬銀行に対して)かける。残高を教えることができるかどうかは、前例がないので検討する」と課員は情報開示を拒んだ。
銀行側が「警察に伝えた」と言っているのに、捜査依頼をかけて残高を調べるというのはどういうことなのか。いぶかしく思いながら、菅弁護士は、あらためて別の刑事課員に確認した。今度は概ね次のように説明したという。
「愛媛県警本部との協議により、口座の残高などの情報については、警察を通じた被害者への情報提供を銀行が積極的に拒否する場合は回答できないものの、そうでない場合(銀行が拒否しない場合)は回答できる」
銀行が拒否しない限り、警察は凍結した口座情報を被害者に提供できる。それが県警本部の方針だというのだ。群馬銀行宇都宮支店は「銀行としては(情報提供を)拒否しない」と言っている。したがって問題はない。当然、教えてもらえるものと菅弁護士はあらためて電話で要求した。
「凍結口座の残高について群馬銀行から警察に回答がきているはずだ。残高を教えてほしい」
不思議なことに答えはまたしても「No」だった。屁理屈としか思えない理由がついてきた。
「口座残額などははっきりしないと回答できない。捜査関係照会をかけているから書面で口座残額がはっきりする、それまでは電話で銀行から速報があってもはっきりしないので回答できない」
警察自身が開示したくないのではないか。
菅弁護士は不信を抱きはじめた。
◇「ウソでごまかせ」所轄署の本音 伊予署刑事課はウソを言っている--菅弁護士が、はっきりそう確信したのは、被害届の受理から3週間が経った5月下旬の電話のやりとりだった。
残高情報を開示してほしい--何度目かの求めに対して刑事課員は次のように答えたという。
「群馬銀行などの銀行から回答があったが、口座残高を被害者に開示することを(銀行側から)拒否されたので回答できない。そもそも捜査情報は外部に開示できない」
なんと群馬銀行が開示を拒否しているというのである。そんなはずはない。銀行から開示は拒否しないと連絡を受けたのである。菅弁護士は事務員を通じて銀行側に確認した。やはり「銀行が拒否」した事実はなかった。
銀行は拒否していないというのに、警察は「銀行が拒否した」という。銀行がウソを言う理由はない。警察がでまかせのウソを言っていることは間違いなかった。「銀行が情報提供を拒否している」というウソは、その後も繰り返されたという。
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種谷良二・愛媛県警察本部長。現場のことは知らない、では済まされない。ウソとサボリで詐欺犯に手を貸した最終責任はトップにある。(愛媛大学のHPより)
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「県警本部の方針に素直に従えば、被害者には情報開示がなされなければならない。それを、ウソをついてごまかすなんて許せない」
菅弁護士は憤りをみせる。それだけではない。携帯電話についても腹立たしい事実がわかった。
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愛媛県公安委員会に提出した、伊予署の対応についての苦情申し立て書。「銀行が口座情報の開示を拒否した」とウソの説明をしたことなどに対し、指導を求めている。
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